第35話【レオン視点】

 赤児のごとくおぎゃる俺。

 視線の先には舞台幕が上がっていくようにミニスカをゆっくりと捲り上げていく大人Verリディアちゃん。

 ただでさえ短い丈だ。生脚が大胆に露出しており、肌色面積がさらに加速していくその光景は甘露の一言。

 むっちりした太ももが露わになっていく。

 なっ……! まさかあればアヴァロン⁉︎  ブリテン島にあるとされる伝説の島!

 まっ、まさかリディアちゃんのスカートの中にあったというのか⁉︎ 

 響さんの「近寄らないで」で致命傷を負った――というより黄泉を彷徨っている俺にとってそこはまさしく傷を癒すための場所。

 アーサー王こと俺の息子もすっかり元気になっている。エクスカリバーァァァァー!

「よちよち。良い子よ、良い子」

 恥ずかしそうに、けれど仕方なく俺の赤ちゃんプレイに付き合う理想郷リディアちゃん

 自分のせいでこうさせてしまっているにも拘らず、俺はどこか遠い目でそれを眺めていた。

 ……本当はやりたくないだろうに。

 俺が向こうの國に渡らないよう、嫌々ながらも身体を張ってくれるリディアちゃん。

 現実世界あっちに帰還できたら今度いい子いい子してあげよう。思う存分、太ももをスリスリしてあげよう。きっと喜んでくれるに違いない。

 表層意識の俺はバブみを求めるただのおぎゃる。しかし深層意識の俺はこの状況をどこか冷静に見つめる神。

 深層意識の俺は思う。

 ――そもそもなんで死にかけとるねん。

 いや理由はわかっている。響さんに拒否られたからだ。とはいえ、メンタルが弱過ぎやしないだろうか。

 拒絶されたぐらいで肉体から分離していたら、魂がいくらあっても足りねえだろうが!

 いや、違う。逆転の発想だ。

 響さんに嫌われることでこのドチャシコエロい三途の川に招いてもらえるなら悪くない

。良心的な通行料と言えるだろう。禁忌の扉よりは格安の対価である。

 つまり、生き返れば響さんにセクハラしてもご褒美が待っているドリームチケットが待っている。

 現実世界で響さんにセクハラする

         ↓

「死んでください!」と罵倒される

         ↓

 意識不明の重体(通行料)

         ↓

 エロ三途の川に招待される

         ↓

 生死を彷徨う(神セブンのエッチな姿VS色っぽい偽響さん)

         ‖

 現実世界の響さんにセクハラし放題!

 逝きなさい! レオンくん! あなた自身の夢のために!

 いや、逝ったらあかん。表記揺れしとるがな。

 さて、脳内で遊びながら網膜に映し出されるギャル魔女のミニスカ捲りを楽しんでいると、ハイハイも進んでいたようで生線間近である。

 ハウスに戻るハムスターのようにリディアちゃんのスカートに潜り込もうとした次の瞬間。

 ――ちゃぽん。

 …………ちゃぽん?

 それは水面に何かが触れたときに聞こえる音。日本人馴染みのそれである。

「ちょっ、嘘でしょ⁉︎ バカじゃないの! あっ、こら! 振り向いちゃダメ!」

 というリディアちゃんの制止も一切聞かずにぐりんと振り向く俺。

 まず視界に飛び込んできたのは湯煙。真っ白のそれだった。続いで顔面、肌で感じたのは蒸気。熱のこもった気体が俺の全身にまとわりついてくる。熱い。

 やがて湯煙は微風に流れていくようにして晴れていく。視界がクリアになる先には温泉らしきものが現れていた。

 やれやれ。三途の川温泉『セイシ(意味深)の湯』ですか。

 どうやら俺を出血死させたいよう――

 ――ドパドパドパッッ! ボドボドボド! ドパァぁぁぁ!

 俺の鼻こそ源泉になっていた。次から次に溢れ出す赤い液体。興奮のあまり、肉体が叫んでいた。「これ以上一発でもくらったらヤバイって、体全体が悲鳴を上げているのが分かるぜ」と。

 というのも、いつ脱衣したのか、なんとあの響さんが髪を結い上げ、バスタオルを巻いているではないか!

 エロいて! エロ過ぎるって!

 どうやら俺が丈が短いそれに興奮する変態ドスケベ野郎であることを死神偽響さんは理解したのだろう。

 女として大事なところこそ隠れているものの、露出している肌面積が凄まじい!

 肩はもちろん、このままハイハイ進軍すれば中身が覗けてしまうほどの短さである。

 見るからに柔らかそうな双丘は盛り上がっているだけでなく、朱をおびて。深そうな谷間がぷるんっ!

 髪を結い上げているおかげで真っ白なうなじまで見えている。

 がはっ……!

 こっちがようやく生き返ることを決意したのにそんなものを見せられたら――、

「良かったら、一緒に入りませんか? 混浴です。お酌もしますよ?」

「ママー!」

 またしても旋回である。機関車おぎゃる発進!

「待ちなさいってば!」

 どうやら両端の二人は俺に直接触れることはできないのか、悲鳴が入り混じった声で叫ぶリディアちゃん。

 俺は四つん這いで尻を向けた格好のまま、首だけ向けて言った。深層意識の俺は表層意識の俺に言う。お前は何をやっているんだ、と。

 しかし、俺は我に帰らない! というより帰ったら負けだ。こちとら中身はオッサンである。中年に足を踏み入れかけたようないい大人が女体バブみを求めてハイハイなど目も当てられない。いや、マジで目も当てられない。間違いなく黒歴史。阿鼻叫喚な光景が広がっているに違いない。

 冷静になったら負けだ。どの道俺の後ろに道はない。前に進むしか、ないんだ――!

「ごめんリディアちゃん。神セブンのみんなによろしく伝えておいてくれ。君たちは俺の宝物だったって」

「ざっけんな! まだ終わってないっつううの! 響さんに――それもガワを被っただけの偽物にあーしが負けるないでしょ! あーもう、いいわよ。じゃあ、とっておきを見せてあげる!」

 後ろでなんかごちゃごちゃ言っていたような気がしたけど俺は新幹線の勢いでハイハイ進軍していた。

 勝利は我が手の中に! 進めー!

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