7月、翠雨

匿名

7/2

友人に連れられ、西千葉へと食事に行く事になった。

そこまでしっかりした味を食べる気もしなかった。6月の香りが残った雨だった事もあるだろう。


まず3階の古本屋に連れられ、雨に濡れた木と本の香りが私を包んだ。3畳はあったのだろうか。知らない場所で知らない物に囲まれた時、1番目についた物を買う傾向がある。

コクトーの詩集を買った。100円。

私が本を買って1つ空いた本棚は、また誰かが本を売りに出し埋まっていくのだろうか。褪せた詩集を見ながらこれを売った人間の事を空想する。金に困ったか、場所に困ったか。紙もディスクも心は満たせど腹は満たせない。後者だったらいいなと、少し願った。


2回には喫茶店があった。入り口にはコロナ禍のいつも通りの文言やらが書かれていた。

「当店は元来静かな店であるため、わざわざ騒ぐお客様もいらっしゃらないと思いますが、お静かにお願いします。」なんて、ここまであたりが強くはなかったと思うけど。注文の多い店の話を思い出した。『さあさあ、おなかにお入りください』

トーストやトマトスープ、キッシュなんかのセットとホットコーヒーを頼んだ。相席人とは食前が食後で意見が分かれて笑っちゃったね。向こうが変えて、食前になったんだけどさ。

ありきたりだけれども、美味しかった。野菜はこうも味の情報量があるものなんだな、最近は食生活も良いわけではなかったから助かったね。


都会とは言えど緑に囲まれたどこか寂しい雰囲気を持つ素敵な場所だったよ。帰りに学生の群れと電車に乗る事が唯一の欠点だったくらいかな。生きてる人間を見る事が、僕にとって何よりも辛い事だ。

社会に出て不誠実な人間を見てきた。その皺は同じく不誠実な僕に寄って、叫ぶ心を殺し続けた。

生きる真似だけが今じゃ得意になった。君は今、何が得意なのかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

7月、翠雨 匿名 @Muser_wga

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る