第11話 給食室の怪 ⑤
「セ、センパイ。あの……、あのままでいいんですか?」
ぶらん、ぶらん
ぶらん、ぶらん
天井から吊り下げられて、ゆれているすずしろとりんりん。
理科室や理科準備室には、天井から吊り下げフックがぶらさがっているなんて初めて知った。
なんと言えばいいかわからず、わたしは遠い目をする。
柳井センパイがどこからか持ってきた紐で、すずしろとりんりんをあっという間にぐるぐる巻きにすると、縛った紐をフックにとりつけた。
理科準備室で騒いだおしおきだそうだ。
こわー。
センパイの新たな面を知って、絶対に言いつけは守ろーと心に固く誓った。
「あいつらは、しばらくそのままにしておけ。僕がさっき注意したのに、また、ぎゃーぎゃー騒ぎ出したからな。自業自得だ。ほっとけ」
そう言ってもねー。
わたしはちらりとすずしろとりんりんを見る。ふたりともうるうるとした目でわたしを見返してくる。
『なずな、助けて!』
『ユウ、許してなりん!!』
『悪いのはこいつだ! ボクはなずなを護ろうとしただけだ!』
『おやかたさまがひっかくからなりん! おやかたさまが悪いなりん!』
紐をゆらゆらと動かしながら、すずしろとりんりんが騒ぐ。
「うるさい!! 反省が見れないようならもっときつく締めあげるが?」
柳井センパイが、右手を挙げて指をならすふりをする。ぶら下がっているすずしろとりんりんは急に静かになった。
もし、柳井センパイが指を鳴らしたら、何が起こるんだろう。
でも、あのふたりが黙ってしまうということは絶対に恐ろしいことに違いない。
背筋がぞぉっとする。
自分が座っている椅子を動かして、センパイからすこーしだけ遠ざかる。
「最初からこうしておけばよかったんだ。……、それで、芹沢、給食室の噂について知っていることを教えてほしい」
「えっと……、あくまでも噂ですから……」
リサちゃんがさっき話を盛ったみたいに、噂話って面白おかしく話を盛っていくことが多い。だから、センパイに理由を聞かれても、説明することはできない。
センパイのご機嫌を損ねて、わたしもぐるぐる巻きにされて天井からつるされたらどうしよう。
すずしろのとなりにぶら下がっている自分を想像して、びくびくしてしまう……。
わたしの顔がひきつったのがわかったのか、柳井センパイが少し眉をさげて苦笑いをした。
「わ、……わかってる。噂というものがどういうものかは知っている。ただ、今は手掛かりなしの状態だ。どういう噂が流れているか教えてくれればいい。噂の中に真実があるかもしれないだろう? ……、さっきみたいに質問攻めにはしない」
「誰もいない給食室で、お釜が勝手に給食室の中をうろうろしているとか?」
疑問形で答えることを許してほしい。
柳井センパイの目つきがかわる。 わーん。ごめんなさーい。
やっぱり、スイッチがはいってるー!!
「給食室で、釜がうろつく……か。それは、りんりんの釜をさすのか、給食室におかれているガス回転釜のような調理器具をさすのかわからないな」
『おいらじゃないりん。おいら、お釜を持って行ったことはないりん』
りんりんがすかさず答える。それを柳井センパイはするっと無視する。
「他には?」
「しゃもじを持っていたとか?」
「しゃもじを持っているとなるといったい何者だ? うろつく、持つというキーワードから手と足があること考えていい。となると、人型の物の怪か。
……、
「おたましゃくしも持っていたとか?」
「
ちらっと、柳井センパイがりんりんを見る。
『
「お釜は真っ黒ですっごく大きかった……とか?」
「う――ん、それは、りんりんから離れて、釜が悪霊化したのか? しかし、あの釜は悪霊になったとは考えられないな。もし、釜が悪霊化したら、りんりんにも影響が出るはずだから、すぐわかる……」
『おいら、ふつーなりん。おろしてくれなりん』
りんりんの言葉をあからさまに無視して、柳井センパイがう――んと考え込んでいる。
「お釜をカンカン鳴らしてたって」
「カンカン? 何故、鳴らす必要がある?」
柳井センパイの眉がぴくりと動いた。ずいっとわたしの方に近寄ってくる。
ひえー。
質問くんにはならないっていったのにぃ。
「あ、……あの、わたし、聞いた噂を話しているだけで、詳しいことは……」
「そ、……、そうだったな。すまない。つい、気になってしまって……」
柳井センパイが、あわてたように、頭をかいた。
「こほん……、どちらにしろ、一度、給食室に行った方がいいな。もしかしたら、釜はまだそこにあるかもしれない」
『おいらも一緒に行くりん! おろしてりん。おいらも給食室に行って、おいしいものを食べるなりん』
「…………」
柳井センパイが冷たい目でりんりんを見る。
『あ! ちがうりん! おいらも一緒に行って、お釜を探すなりん!』
「お前は留守番」
『じゃあ、ボクが行く。失せもの探しは得意だからね!』
今までじっとしていたすずしろがバタバタし始めた。
『おやかたさまだけ、ずるーいりん。おいらも! おいらも!!』
りんりんもバタバタし始めた。
「あーうるさい。……、仕方ない」
柳井センパイはそう言うと、パチンと指を鳴らした。途端、すずしろとりんりんを縛っていた紐が消えて、りんりんはばさりと床に落ちた。すずしろは、翼を広げて、わたしのところまで飛んできた。
「すずしろって、失せもの探しが得意なの?」
『うん。なずながいれば問題なしだよ。さっきみたいに呪文を唱えてくれたら、月長石が見つけてくれるよ』
「え? 月長石って、そんなこともできるの? ていうか、月長石って……」
わたしは、首からぶらさがっているペンダントを手に取ってみる。
『さっきのは浄化の光。悪霊化しそうな物の怪を元に戻すことができる光』
「へぇ……そうなんだぁ。じゃあ、失せもの探しって?」
『うん。呪文を唱えてやってみればわかるよ』
「呪文? さっきの『ちちんぷいぷいごよのおたから、ではれ』でいいの?」
呪文といったら、これしか思いつかないんだけど……。
『う――ん。まっ、いいかな。かけごえみたいなものだし。僕が失せものを探そうって思えばいいだけだしね』
「そんなものなの?」
『うん。……、そうそう、月長石だけじゃあ、浄化の光もでないし失せもの探しはできないよ。ボクとなずながいて初めてできることだからね!』
「そっかぁ」
なんとなく、わたしとすずしろの絆みたいなものを感じて嬉しくなる。
わたしが、すずしろの頭をなぜていると、柳井センパイが声をかけてきた。
「給食室に行ってみるぞ。芹沢はすずしろを抱いていくように。りんりんは気配を消してついてこい」
『わ――い。給食室♪ 給食室なりん♪』
「やっぱり、留守番するか?」
『ちゃんとするなりん。ユウの言うことはきくなりん』
こうして、わたし達四人は、理科室をあとにして、一階の給食室へむかった。
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