第3話 先輩

「ふわぁ、眠い眠い」


 目を擦りながら赤いバトンを振り上げる。


(ピイィィイイイイ)


 奥の道路から笛がなり、確認をして自分側の車を止めるためバトンを横に、胸の前におし止め指定位置に立ち、車を止めた……

 はずなのに──

 なのに、車が突っ込んでくる。


「!!!」


 目の前ギリギリで車は止まった。

 危なく自分は轢かれ掛けた


「大丈夫ですか? 起きてますか


 開いている窓から声を掛ける。

 なぜか冷静に、運転手に声を掛けていた。


「あっ!!!」

「おおっ」


 同じ会社の男の先輩だった。


「ああ、君か。大丈夫かね?」


(おお! なんてことか…あ…あろうことか先輩! しかも、会社は掛け持ち禁止!)


 焦った。


「はいっ。大丈夫ですが、起きてます?」

「すまない。一つ間違ってたいたら……」


(ピイィイイイイ)


「あっ」

「あ! 進むのかな? ごめん。また明日? いやっ、今日だな」

「あっあっ、お疲れさまです」


 誘導して別れた。


(がっ!! ちょっと待て! 本当に一つ間違っていたら事故だぞ? こっちはこっちで誘導側だから何か言われるかもだぞ? 死んでるかも? 大怪我かも? ばれたぞ! 責任が問われたかも? ……。)


 先輩と別れてから色々と頭の中に感情が押し寄せる。


(ピイィイイイイ)

「・・・・・・・・・」


 一通り振り終え、頭のメットを外し整備を終了で、この仕事は終えた。


 まさか、整備の警備をしてるときに先輩に会うとは思いもしない出来事に疲れながら家路に着く。

 ドアを開け、一目散にベッドへ。


 ぼふっ

「はあ寝よ! 会社まで時間あるし」


 ベッドに身を委ね、とりあえず一旦寝ることにした。


 眼を開けばいつもの朝。


『おはよう』『おはっよ』


(っパツパツ カタカタ パッチカタつ)


『この書類はー』『ねえここ誰がー』


(カタッ カタタッ パン)


「ふう、打ち終えました。これ、持って行きます」

「ああ、頼む」


 書類を、打ち終え上司に出しに席を立つ。

 無事、会社で仕事を出来る今日に安堵した。


(夜のことが嘘みたいだっ。良かったぁ。ちゃんと動いてるよ~自分)


 書類を出すとき、轢かれ掛けた先輩の席の後ろを歩いた。


「あっ」

「おお! 元気だね」


 先輩は、ニコッとしている。


(いやぁ、違う。ニコッではなくてここは謝るとこだと思うが?)


 少し、ドキドキしながら気丈に振る舞い去って行く。


 お昼になり、席でお弁当を食べていると車の先輩が声を掛けてきた。


「今日この後良いかね」


 声を、掛けられるとは思いもしなかったのでびっくりしながらも、返答をする。


「良いっすよ」


 会社が終え、先輩に連れられ居酒屋の暖簾をくぐる。


「はいっお二人、生2丁!!」

「えっ、あの!」


 席に着くなり注文が決まっているので驚いていると先輩が笑っている


「はは、驚いた? ここ通いでね。いつも私が悩むから初めがもう決まってるんだよ」

「はあ、っすか」


 席にはお通しと生が出てきた。


「ささっ、ではとりあえずこれで。お疲れさまです」

「あっ、お疲れっす」


 ジョッキを合わせると、カチンとガラスのいい音がする。


 泡が弾き、とにかく喉を潤おした。


「くうぅ。美味っし」


 ジョッキを置き、ビールの炭酸に打ち震えてると隣から喉が呻る音がしている。


「ゴキュ。ゴキュ。ゴキュググッ、プはぁ」


(嘘だろ? 一気に飲めるモンなのか?)


「先輩、そんなっ大丈夫なんですか」


 先輩は、見た目四十前半の中年の叔父さんに見えるが大丈夫なのか、と心配した。



「ぐわぁぁ、いいね。仕事終わりの一杯」

「はい、美味しいです」

「店員さん。生二つ」

「はい、生二。はいりまーす」


 呆然と先輩を見つめた。


「大丈夫っすか? 速くないですか」

「? いつものことだ。君も飲みなさい。遠慮はいらないよ。今日の詫びだよ」

「はいっ、いただきます。食べ物のいいですか?」

「いいよ。いいよ。今日バイトは」

「あっ、ないっすよ。あっ」


 気まずそうに言葉を止めると、先輩はニッと笑い肩を叩いた。


「大丈夫! 内緒にしておくから」

「すみません」

「まあ、確かにいけないことだが、君の働きに感動だ。若い内だけだよ。出来るときにやりたまえ」


(ドンッ)

「はっい。お待ち」


 目の前にジョッキが置かれる。


「ささっ、また乾杯しよう。君と私の愚痴り大会だ。夜、車を走らせてたのは取引先に荷物搬入を頼まれてね」

「はあ、そうなんすか」


(とにかく乾杯をしたが愚痴を言い合うのか。そうか、そうなのかって納得いくかッ!!)


 って思いながらもいつの間にかお互い、打ち解け愚痴りあっていた。


「もう、ほんと、給料何とかならないっす? このままだと」

「君、まだいいじゃんか。私なんてね、ここしかばないのよ」


 グダグダになりお互いふらふらで暖簾をくぐり家路に着いた


(って先輩おるじゃん)


 朝、目が覚めると先輩がいびきをかいて顔を掻いている。


(お持ち帰りは普通女子だろ? 女性だろ?)


 まあ、自分にそんな縁がないから今の現状なんですけどね。

 溜息をつき先輩の寝顔を見ていると笑えてきた。四十のおっさんの寝顔が無邪気で面白い。


(こんなことを考えてるのは失礼かな?)


 インスタントの味噌汁を二つ用意して先輩を起そうとしたら……


《メールです。メールです。おーい》


 な、なんでキャラボイス?っと、驚いていると先輩が起きた。驚いた先輩はひたすら謝り、その後奥さんにも謝っている。


(面白い。こんな中年もいるんだと感心した)


 その後、なぜか気が合い色々と連むようになる。

 不思議なモノだと思いながらも今日はランチの約束をしている。


 だが、お互いを全部知り尽くしているかと言えばそうじゃない。

 まあ、こんなお付き合いも有りだと思い連んでいる。

 相談もしやすいしね


  ただ一つ気になる。


「やあ、お待たせ。今日は珈琲の自慢のお店だ。ランチもうまうまだ」


(たまに可笑しな口調にこの人は気づいてるのだろうか?)


「先輩、あの時のキャラボイス何ですか?」


 尋ねると小さい声でごもごもと返答された。


「あはははは、息子のお気にって!」


 横に照れる先輩がいる。


 自分がこんな風に人と付き合えるこに今、驚いている。

 話しを交わしつつ、先輩おすすめのカフェへと歩く。新しい友達が増えた。だが、まだ欲深い自分がいた。


ああ、先輩もいいが、彼女が欲しいと


 思う自分がいた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る