とある街並みの風景。

珀武真由

第1話 休息。

『なあ、将来なんに成りたい?』

 『そうだな・・・ おれは・・・』


歩道橋から眺める景色は広く

 車が流れ 

 ライトを点けているモノと 

  点けてないモノが行き交う。


    空に浮く雲は、

  紫を帯びながらその後ろは 

 紺色から黒へと変色し始めていた。


 そいつは珍しく朝からおれを呼び出した。

 そいつとは、高校以来からの中で良く気が合い高校後の学校も同じだった。

 そいつは今、社会人だ。


 おれは卒業後、親に甘えまだ好きなことをさせて貰っているが隣のこいつは違う。

 同じ専門学校卒業後、その時学んだスキルを生かし。

 好きな仕事に就いている。


「おいっ、あれ見ろよ。あんな所でスケボー出来るんだな」

「へえ、いつ出来たんだろう」

「おお、あそこカフェがある。何で自分達の時に無かったんだよ! むかつく」

「ああ、ほんと。しかもお洒落な感じ」


 おれらが卒業するまでよく通った道を二人で練り歩いてる。


 久々に歩く景色は、懐かしさも在れば新しさも在り、なんだか何かに取り残された気分だ。


「おいっ、ゲーセンへ行こう。よく遊んだ」

「おお、そうだな。行くか」

 

 変わらずに、そびえるビルに安堵し。変わらずに在る店に顔を見合わせ、ほっとした。

 だが中は変わっていた。

 リズムゲームが増え大画面のシミュレーションやアクションゲーム。

 やはり変わるものは変わる。


「うーん、ここまで騒がしく無かったと記憶するが、こうも変わるか」

「まあ、せっかく来たんだ。遊ぼう」

「そうだな。では」

「おいっ、そこはプリクラだ。しかもコスプレだ。何で男で入るんだ」


 そう言いながら中に入りはしゃいだ。色々、顔にメイク画像を当て楽しむ。


「だはは。このメイクやばっ、こんなの……ブフッ、あーおかし」

「この服似あわわ、可笑し過ぎて笑い止まんない」

「こんなの彼女に見せられん」

「いいんじゃね? 見せなよ」


 こいつの彼女の反応を知りたく、話しを振るとものすごく苦い顔をしている。どうやら、この写真はお蔵入りのようだ。

 付き合って何年か尋ねる。


「もう何年? 三年?」

「いや、四年かな?お前は」

「……別れた」

「速いな」


 たわいない会話をしながら、はしゃぐ平日の店の中は人が居らず。

 おれ達だけだ。


「こんな時間に来たことないから新鮮だ」

「ああ、人居ないとこうも声が響くんだな。ゲーセンなのに。しかも店員も少ない。へぇ」

「いやいや、声は……おれら、はしゃぎすぎじゃね」


 辺りはゲーム機のデモ画面の音と、画面の光に溢れている。

 店の中、二人だけがが大いに騒ぐ。店員の視線が少しだけ胸に刺さる。


「前みたいにガン、シューでご飯賭ける?」

「おっ、良いね。何やる?」


 こうしているとほんと楽しい。

 これが続けば良いのにと思ってしまう。


「いたたっ、おれの負けかよ。で何食べる」

「そうだな。昼から飲むのも在りだが。どうする?」

「やめて。お前は酒強かもだが、おれ駄目。他にしよう」

「付き合えよ。たまには」

「じゃあ、夜な。今腹減り過ぎてッ無理ッ」

「じゃあ……」


 お昼は馴染みのパスタのお店にすることにした。馴染み、といってもこいつは久々の来店だ。

 おれはこの店が好きで、月に三、四回は通っている。


「あれ、お久しぶり。元気にしてた? もう来てくれないかと……」

「お久しぶりです。お元気そうで、二年? ぶりですか。前はよくお世話になりました」

「ほんとですよ。あの時の仮は今から返してもらおうかな?」

「おれは、もう充分返してると思うが、まだまだ返すよ。ここ好きだもん」

「ありがとね~。珈琲サービスするよ。で、ご注文は」

「おれはサーモンの明太マヨ。お前は?」

「では青ジソのパスタ梅ソース多め、で、パフェ」

「ん。相変わらずの甘党で、何? よそでも頼むの?」

「……好きだからな」


 相変わらずの注文にニヤけ笑いをしていると、目の前の友に頭をくしゃくしゃに撫でられた。

 こいつと飯をするのも久々だ。

 

 お互い仕事はしていても社会人とバイトの違いはやはり大きい。自由の効き幅が違う。


「よく見ると男前になったんじゃない? 彼女元気? 変わらずのまま?」

「お陰様で」

「またお店に来てよ。サービスするよ」

「ありがとうございます」

 

 品物を置き、軽く会話をして去っていく。


「相変わらずだな。マスター。 なんか照れる」

「そうか? まあ、ほんとよくここで課題やってたものな~。長時間いても怒らずにいてくれた。あと珈琲もよく奢ってくれた」

「だな。黙って出してくれていた。あれには助かった」

「甘えすぎた。彼女によく怒られた。だからあいつとここに来ると、いつもこの特大パフェを払わされた」

「うわっ、ごち様。おれも頼むか。パフェはお前持ち」

「やめろ。ここの特大は2千円するんだ。今はいいが、学生の時だと痛かった。あと胸やけをおこす。あいつは本当っ」


 そう言いながらも、こいつの顔は笑みを溢れていた。


「おぼうぅ。(ゴクン) この後の酒、お前持ちな」

「はあ? 何で」

「……ごちそうさまです」


 二人食べ終え、店を後にした。マスターとは笑顔で手を振り別れた。


 そして街を徘徊する。


 ここいらの道は、通学に利用していた駅とは違う場所で、二人には馴染みがある場所だ。

 懐かしさはないが、各々見知った店があり、お互いが気になる店へと入っては出て、を繰り返し楽しんだ。


 今度は歩道橋の上から景色を楽しんだ。

 行き交う車、人、自転車。

 色々な人がゆっくり、または急かし忙しくて動いている。


「なあ、将来なんに成りたい?」


 少し思い詰めた表情でそいつは尋ねた。


 いきなりの質問に顔が歪む。


 顔の歪み方はそいつには面白かったらしく、ものすごく大笑いされた。

 そりゃあ、驚くさ。

 いきなりもいきなり、突飛なことを聞かれたんだ。


「そうだな。おれは、まだ追いかけたいモノがあるのでそれをあと少し追いかけてから考えようか……」

 「そうか……」

 「どうした? なんかあった?」

 「じつは……やってしまった。はあぁ」


 もの凄く大きく長い、溜息を吐くその顔は少し沈んでいる。

 その様子に肩を叩き目線を景色へと置いた。

 街は躍動で溢れている。


 「デキ婚……結婚するんだ」


 隣でか細く言葉を零すそいつとは対照に、大声を荒げた。


 「はぁああああ!!!」


 そいつは目が合うといきなり、ニカッと微笑んできた。

 二人の間に街の騒音が響く。

 そして、風が少し強く吹き二人の髪と上着を揺らし静かにおれ達を撫でた。


「ああ。うん。おめでと。ございます」


 それを聞くとそいつはうな垂れ、また溜息を突いた。


「はああ、だよな。だよな。そうだけど」


 歩道橋の手すりに、腕とその上に顔を置くと道にはやる車を眺めてる。


「パパ、僕はジンジャーでお願いします」

「ああ、うん……ンン? まだパパじゃ。あっ、パパだ」


 隣のこいつに頭を掴まれ、くしゃくしゃに撫でられたが先程より力が強いのは照れ隠しなのだろう。


「ははっ、そうかそれで呼び出したのか」

「……」


 無言で応えるその顔の頰は少し赤い。

 

「……すまんな、そうだよ。お前に愚痴りたくて呼んだ。はあぁぁ」

 

 まあ、突然のことだ。早い、早すぎる。そう思いそいつの顔を見た。


(遊び足りないだろう……まだやりたいことあったんだろうな。かなりの動揺も……)


 結婚するならそれはいいことだ。こいつなら良い家庭が築けると思う。

 

「どこへ飲みに行く? 付き合うよ。何なら家に持参しても良い」

「そうか。でも最初は店で飲みたい」


 そして、歩き始めた。

 街はどっぷりと暗く、灯りがひしめき合い輝いている。

 その中に入り歩いていると、行き交う色々な人の顔触れがすれ違う。

 

 隣にいるこいつの顔付きも先程とは違うように見える。

 それはあんな話しを聞いたせいかもしれない。

    『将来』


 少し考え、そしてまた周りを見渡した。

 色々な人混みの中で色々な考えが交差する。その街並みをせかせかと歩き自分を少し省みた。


 それは先に進むための事なのか、それとも後ろ向きの事なのか。


 思案にくれる自分がいた。

 そうこうしているうちに一軒の店を見つけ、入っていく。


「いらっしゃい。お二人ご案内!」


 先のことは分からない。とりあえず一杯やりますか。


 そいつとグラスを合わせ音を鳴らす。

 また始まる明日のための休息。


  二人、顔を合わせ笑った。

 




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