第6話、おっさんは騙された
そんなとある朝、エリスの姿が見えなかった。
宿の人に聞くと、昨夜遅くに出発したという。
行く先など宿の人にいうはずもないし、どういうことだろう……
宿泊費の2か月分はエリスが前払いしてあったが、残る一か月分金貨1枚は未払いだという。
ギルドへ行ってもエリスの姿は見当たらなかった。
カウンターで聞いたところ、昨夜遅くに口座を解約して出て行ったそうだ。
そもそも、俺と出会ったあの日に初めてやってきて口座を開設したエリスだが、素性を知る者はいないという。
解約した口座の残高は金貨200枚ほどあったらしい……
完全な詐欺なのだが、怒る気にはならなかった。
何も知らない俺を、ここまでにしてくれたのだ。むしろ感謝している。
「でも、そのカバン、相当臭いですよ」
「えっ……」
「ゴブリンの体液が沁み込んでいるんじゃないですか。
洗ったほうがいいですよ」
確認してみると確かに臭い。
こういった収納って、普通は時間劣化なしで、だから匂い移りもしないはず……
言われてみれば、干し肉も臭かった。
エリスは自分の分は自分で調達してたけど、俺はこんなものかと我慢して食べていた。
仕方なく、川へ行って内側を……洗えない。
カバンに水を入れて、振ってから水を出すとどす黒い水が出てきた。
その水がきれいになるのに、夕方までかかってしまった。
いったんギルドへ戻るが、こんな時間から依頼を受けられるはずもなく、俺は宿へ戻った。
所持金は、エリスからお小遣いとしてもらった銀貨が2枚。
宿に事情を話して、支払いを3日待ってもらうよう頼み込んだ。
「3っ日後までにいただけない場合は、番所に突き出しますからね」
「はい、ご迷惑をかけてすみません」
「料金をいただくまで、食事も出せませんから」
俺は部屋で臭い干し肉をかじって飢えを凌いだ。
3日で金貨一枚以上稼がないと……
翌朝、依頼を受けるためにギルドへ行くと、すでにエリスのことが広まっていた。
「おっさん、彼女はどうしたんだ」 「役立たずで捨てられたってホントかよ」 「性悪女に貢いだんだって」
こんなのは無視だ。
Dランクの報酬は、だいたい銀貨5枚なので、無理なく宿代を払えるはずだったのだが、これまでやってきたゴブリン討伐はエリスによるものだった。
単独でゴブリンの巣は無理だ。
こうなれば、絶対回避を駆使して単独の獲物を狙うしかない。
手ごろなのはオークだ。
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