第7話 俺の『なか』の住人
家にたどり着いた二人は、いつもの言葉を言いながら玄関に入る。
「ただいまー」
「ただぃまー」
いつもなら、返ってくるはずの声がしない。
二人は顔を合わせ、ほほ笑むとリビングへと向かう。そこにあるソファに手を置いた。今手にあるソファは実はソファベッド。小さく畳まれているサイズを大きく広げた。傍らのテーブルの上にある宅配注文表を見てニヤける優希がぼすっと寝転ぶと翔も横に、ぼふんと寝転がる。
「ねぇ。翔は何食べる?」
「俺、俺はゆうぅきぃ。でも、ねみぃィ」
「フフ。私だとお腹はふくれないってで、何にしようかな~あれれ? 翔」
隣の翔は寝息を吐く。翔の素速い寝つきに固まる優希はほほ笑む。気持ち良さげな頬を指で突く。
「ん──。せめて食べてからにしてほしかったな」
鼻をつまみ、翔の反応を楽しむ優希は足をパタパタさせ注文表を見ている。
「んー。お寿司?」
楽しそうにする優希の横でスヤスヤと寝る翔に声は聞こえておらず、夢の中へと身をあずけていた。
夢に落ちた翔の横で、ゆっくり口調の『住人』が話しかける。
『いいな。翔くん、お寿司だって』
「あぁん、寿司だとぉ。食べれるんなら俺も食う。食いたい」
『……いつもの翔くんとは口調が違う。どうかしたのですか』
「ああ、あいつ? あいつはココ。何か文句あるか」
口調の荒い翔が自分の胸を拳で軽く叩き、ニカッと笑う。
『ん───。困りました。力の解放による人格障害ですかね。そんなに負荷をおってないはずですが』
『住人』は口調の荒い翔を「人格障害」と指摘した。それを聞き口調の荒い翔は鼻で笑う。
「フッ、「人格障害」か。かもな!本体は今眠っているのだからフフ」
人格は鼻で笑う。
「おまえは何でも知っているのか」
『いえ、何でもではただ』
「フン、俺は知っている。白髪交じりの銀髪。なお瞳が赤く色白の───」
『それ以上、口を開くと黙ってないですよ』
「フフン、飛んだ神もいたものだよなぁ」
『怒りますよ』
「龍神さまよぉ」
怒り交じりに吐き出された翔の言葉に、『住人』は髪を揺らせ翔の首に巻きつけた。爪の先を尖らし、赤い瞳には殺気を宿している。
「フン、いかにも慈善面をして
『あなたは』
「俺は
『あなたの計画通り行きそうですか』
「いや、違う。コレはおまえの計画通りだ。俺は「翔」の人格の一人、訳あって翔の母親あと優希の母。二人に植えられた
『住人』の前で翔が倒れ込むと先ほどの鋭く荒い
『くっ面倒な。あなたがもう一人増えるとは……人格の統合を図るのと、私の身の安全を確保しなければ───』
翔を膝に置き、寝顔を見つめる『住人』がポツリとつぶやく。
『フフ、夢の中でもまた寝顔ですか。困った翔くんですね』
(警戒心がまったくないですよきみは。良いのですか翔くん)
しばらく考え、起きてもいない翔にぺらぺらと喋る。
『まさか、あなたの心の奥底ではバレていたとは……そう私は龍神です。あなたの母は私を封じきれずあなたの中に閉じ込めた。フフ、悪い
スヤスヤと眠る翔を見てほほ笑むと髪を撫で、優しく起きるように促した。その後、耳元で囁く。
『いいでしょう。しばらくはまだ相談愚痴の相手です。今後のために少し入れ知恵をしておきます。上手く活用してください翔クン』
翔の唇に軽く息を吹きかけ、ほくそ笑む。
『さぁ、起きなさい。姫が待ってますよまたね、翔くん』
『住人』のささやきと同時に起きる翔だが瞳から涙が溢れ、隣にいた優希が驚いていた。
「ええ翔。大丈夫? 泣いてるの?」
「分からない。でも悲しい。あれれ、優希。ご飯粒が口端に──」
「あ、そうそう。お寿司食べるかな。頼んだの四人前」
「よっ人まは? えって」
「うん四つ。四人前」
指を舐める優希の姿に翔はほほ笑むと、その身体を組み伏せ口付けた。
「俺、優希を食べたい。ごめん。何と言われても今ほしい」
優しく口付けると次に強引に口づけ、優希を離さない翔がいる。
「あっ、ちょっ、翔」
「優希、かわいい」
優希は戸惑うも翔を見て頭を撫でると身体を預け、されるがまま流れに身を任せた。
名を呼びかけ、熱い吐息を漏らす。
(よく分からないが何かが込み上げてくる。どうしてだろう。悲しいのか、怒りなのか、優希がそばにいてくれて良かった)
優希の白い肌に翔の指が食い込むと、ほんのりピンク色に変わる。翔はそれを眺め楽しむ。
そんな翔に気づいた優希が、細い声で訊ねた。
「ぅん。なぁに?」
「いや、綺麗だね」
「もうエッチぃなんっあっ。ああ!」
翔の動きに驚き、声を荒げる優希に翔が礼を言うと優希は照れた。
「ンンッ、ん。今日、翔。ヘぇン」
手を重ねる翔に優希が笑うと翔も笑い、互いの温もりに酔いしれ時間が流れていく。
流れのまま寝ついた者を起こすものはなく、気がつくと朝になっていた。
優希が目をうっすら開けると、翔が起きていて。寿司をがむしゃらに頬張る姿に吹き笑う。
「おはよう、優希」
「アハッ、おはよう。あれシャワー、もぅ浴びたの」
「浴びた。浴びたけど……」
茶を啜る翔の瞳に、優希のワイシャツ姿が映る。ほぼ
「なぁに、翔が洗ってくれるの? 私、誰かさんのせいで身体が悲鳴を」
「いいよ。洗い流しますよお姫様」
喜び、優希を抱きかかえ風呂場へと足を運ぶ翔に可愛らしく笑う優希がいる。
「あれ、今日は朝のゲームしてない」
「ああ、ソレね。くす、ふふ。それは俺の勝ちですよ姫」
「?」
「だって、寿司を頬張る俺を見て笑ったでしょ。だから俺の勝ちで優希の身体を流すのが褒美ね」
「ええ。不条理だよ」
「クスッ、いいや俺の勝ち。ちなみにおじさんおばさんは明日まで大学の研究で帰って来ないよ」
「えっそうなの」
風呂場で優希を降ろすとシャワーをひねり出し、水の調節をする翔を眺める優希がいる。
優希の視線に気づき、口の端を笑い上げる翔は感心した。
「ほら冷たい。あっ、シャツを脱がしてないけど良いね。そそり立つね女の子のそういうの」
「もぅわざとでしょ。おたんこなす」
「ふふ、だって。優希はエロいんだもん」
「私だけだよね! そういうことするの」
「うん優希だけ」
びしょぬれになった服を脱ぎ、翔に寄りかかる優希は下の履物を取らず、一緒に水浴びを楽しむ者に唖然としていた。
「俺の水着だよ。家でこういうのもいいね」
顔を赤らめ、胸と大事な部分を手で隠していた優希が翔の企てていたことを知るとシャワーを奪い蛇口を捻った。最大級の噴射を、翔に浴びせた。
「痛い。痛いよ優希」
「このぉ、おたんこなす。私の恥じらいをよくも!」
「ははは」
水遊びを楽しむ二人がいる。
笑ってはいるがいつも以上に左腕が熱を帯び、蒸気を出していることに翔は気づくもその熱を優希に分からないようにしている。
心の隅で何かを感じ解決しようと考えるが、今ではないことを知っており、後からやってくる出来事に心を払うよう準備している翔がいた。
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