勇者の理性は限界です
時しらず
第1話 勇者爆誕!!・・・?だよな
「おーほっほっほ、マスター!スライムですわ!!殲滅ですわ!!」
俺の隣には、ひのきの棒でスライムに殴りかかるお嬢様が居た。
・・・どうしてこうなった。
「マスター何してるんですか?スライムの核をこう!こうですわよ!マスター!」
ちげぇよエルザ。スライムに核はねぇよ。そいつは取り込んだ石ころだよ。
・・・核とかドコ情報だよ。どんなワザップだよ。どんなウルテクだよ。
荒ぶるお嬢様ことエルザは・・・・
やや小柄な身長で過不足なく整ったボディ。
大きな巻き癖のついた肩甲骨あたりまで届く髪。
その髪色は栗色だけでは伝わらない艶をもったフレンチなブルネット。
その瞳はアドリア海の如く青く淡く際立ち。
その声色は気品あふれる王女の如し。
エルザ、お前は完璧だ。
「マスター!やりましたわ核破壊で討伐ですわ。おーほっほっほ」
......外見だけなら。
そんで、そいつは核じゃねぇ、石ころだ。核破壊じゃなくて体がえぐれたから討伐できたんだぞ。
「よし、よくやったエルザ。とりあえずスライムでべしょべしょになった服を綺麗にしとけ」
「わかりましたわ。べしょべしょはダメですわね」
ドヤと褒められたい犬みたいなのを混ぜ込んだような顔で、スライムの汚れを落としているエルザを見ながら振り返る。
何故、現代日本人がこんな野蛮なお嬢様とわけのわからん生き物と格闘する日々となったのかを。
なにもかもが変わってしまったのは、訳理屈で俺を転移させた高次元意識体とやらに会った時からだ。
その日、俺は一つの目標に辿り着いた所だった。
人が聞いたら馬鹿げてるとしか言いようが無い、趣味でしかない、実益も無い、ただ欲しかったのだ。商業に汚されていない自分だけの理想のキャラクターが。
それを実現する為に使ったことも無い3Dモデル作成アプリを使い、書いた事の無い絵を描き、羞恥心に耐えながらも自分で乙女っぽい動きをしながらモーションキャプチャー専用機材とソフトで動きを取り込み、自分の理想のキャラクターを作り上げた。
そしてエルザという最高のキャラクターが出来上がった時は、すでに5年の月日と数年分の貯蓄とボーナスが費やされていた。
ソフトウェアの度重なるバージョンアップによってデータが取り込めずにやり直し。
作成したデータが大きすぎて滑らかに動かす事が出来ずに、なけなしのお金をかき集めて高スペックPC環境へと移行するも、過去環境のバックアップデータを入れた外付けHDDを接続するときに、不慮の故障によっていままでの作成データが完全に消失。
新作アニメに出て来た理想に近いキャラクターの登場による大幅な修正。
そういった幾多の困難にも負けずに作り上げた。ん?ほとんど自爆じゃねーか?
・・・うん正しい。あんたは間違えてない。おれは夢中になると視野が狭くなるタイプなんだよ!!
まあ、こまけーことはいいんだよ。俺は最高にて嗜好(至高)のキャラクター「エルザ」を作り上げたんだ。
キャラクターボイスについても声優さんの所属事務所へ仕事として依頼をした。お嬢様と言えばこの声だと言わんばかりの美声をしっかりと収録して納品してもらった。
おはようからおやすみまでの日常生活での台詞と50音表×喜怒哀楽の多くの音声を基礎データとして特別に納品してもらった。悲し気な「あ」から「ん」までキッチリ演じてくれた声優さんに感謝だ。
余談だが個人として所属事務所に仕事依頼をしても受けてくれなかったので0円起業でITメディア系の会社を作って依頼をした。ようは商業的に言う所の口座があればいいってわけだった。
そいて、自分自身で完璧と言えるまで作り込んだ3Dキャラクターデータが完成した時に、事件が起きた。
最終工程として、個別に何度も動作を行った、挨拶や日常動作の連続等の各モーションの通し動作と音声をチェックし終えた瞬間だった。
PCの外部ディスプレイと化していた60インチの国産テレビが白く発光し、やがてその光は部屋を埋め尽くし、俺はそいつに飲み込まれるようにそのまま意識を失った。
光の奔流から、どれだけ時間が経ったのかは未だに分からないが、目が覚めた時は鈍色の四角い部屋の中だった。ほぼ無意識だが状況を確認の為に体を起こしかけた時に、どこからか声が聞こえてきた。
「貴方を無事に運べたようですわね」
・・・運べた?ん?何を?俺?
「時間の無い空間に存在する意義を注ぎこみ、本来は存在しない空間にある物を創造する。貴方達に分かる言葉だと、情熱と愛情と対価ですわね」
は?いきなり語りだしたんだが?こりゃ夢か?電波か?走馬灯か?
・・・ふむ、こりゃ夢だな。エルザの仕上げにほぼ徹夜だったしな仕方ねぇ。
「さて、お分かりの通り貴方は小さいながらも新たな時空を創造しました。それによって今まで存在していた世界から切り離される事になりますわ」
はぁ、わかってねぇぞ。新たな時空?
「切り離されたあなたは地球を離れる事になります。ですが行先も宛ても無いでしょう。そこであなたが住んでいた地球を管理している高次元意識体である私が、貴方を望む世界に転送して差し上げますわ」
管理ね、、、高次元っすか。そんで、転送ね。
「3次元の意識体が時空を創造するなんて、特殊な事案ですので大サービスですのよ」
ほぉ、まったくわからんな。こんなわけわからん夢あるんか。まあいいか。じゃあとりあえず安全で楽しい世界にお願いします。
「ふふふ、承りましたわ。それではお送りいたしますわね」
・・・そこで意識が途絶えた。
やがて気が付くとだだっ広い草原に寝ていた。隣には見覚えのあるデータが、人の、女性の、形をして息づいている。
「マスター!この核の欠片は道具屋さんに売りつけましょう!きっと高値で買ってくれますわ」
おいっ待て、まだプロローグのモノローグも終わっちゃいねぇ、ぽんこつをぶっ込んでくるな。石ころを高値で売りつけるとか、どっかの宗教家かお前は。
これから近くの街に行って、お偉い占いババアのお告げにあった伝説の勇者に認定されるくだりがあるんだよ。
「待て!ステイだ。エルザいい子だ」
「おーっほっほほ待ちますわ」
なんで高飛車に笑うんだよ、そこでそのセリフ違うだろぅうう。
あーーーっ。もういい、とりあえず俺は異世界とやらにとばされた勇者だ。わかれ。わかってくれ、頼む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます