21.報告 ※本編リアム視点
本編をリアム視点で書いたお話です
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「こちらで調べさせていた分の報告書があがってきた。やはりそちらで調べてもらったものと同じ結果だった」
ユージンとケネスを前に、テーブルに報告書を広げる。
広げられた書類に2人は黙って目を通していく。
「この経歴を見る限りでも、随分と野心家のように見て取れますね」
一通り目を通したユージンが書類をテーブルに戻し呟く。
その隣ではケネスが眉間に皺を寄せている。
ルイーズ嬢との会談の後、ユージンとケネスは騎士団にも話を通し、翌日には適当な口実を用意してモーティマー家を訪問してくれた。
それとなくイアンの様子を見、すぐに退散した後、今度は私が騎士団へ足を運んで話し合いをした結果、ルイーズ嬢の言う通り、イアンについて再度調査し直すことになった。
雇い入れる際に簡単な身元調査はしているが、下級貴族であるハンコック家の子息で、過去に他の貴族屋敷でも問題なく侍従を務めていたという報告だった。
だが、今回騎士団からのルートと、モーティマー家からのルート、双方で詳細に辿ってみれば、ハンコック家にも養子に入っており、それ以前にも二度ほど養子縁組をしていた事実が出てきた。
遡ってみれば、8歳当時に転写者としてこちらに来て直ぐに平民家族の養子になっていたことが判った。
転写者であることを隠し、貴族社会に立ち入るために養子縁組を繰り返し、
最終的に狙っていたのは…王宮か?
「それで、イアンをどうされます?現段階では特にこれといって罪になるようなことはありませんよ」
ユージンが書類に視線を投げながら問いかけてくる。
確かにそうだ。
出自を隠すために養子縁組を繰り返していたからといって、それが罪になる訳ではない。
まして、優秀な侍従として出世を望むことも至極当然のことで何ら咎められることはない。
ルイーズ嬢の判断以外に、我々がイアンを危険と判断する要素は何一つない。
私は顎に手を当て、考えを巡らす。
その様子を見ながら、ずっと黙っていたケネスが口を開いた。
「…ルイーズ嬢の判断を裏付けるものが、今の段階では少なすぎます」
少なすぎる、と表現するということは幾つかは信頼に足ると思うものがあるのだろうが、ケネスにしてみれば、ルイーズ嬢もまだ信頼しきれるものではないということだろう。
「確かに。それはそうなのだが…。私はどうしても、あの"人を見る目"を傍に置きたいんだ。…クリスのために」
私の言葉に、ユージとケネスの目が僅か驚きを孕む。
「その為には、私が彼女を信用していることを示さなければならない」
私の意図を汲んだ2人は黙り込み、真剣に考える様子を見せる。
「…罠を張るしかないでしょうね」
ケネスが書類を睨みつけながら言う。
「そうなると、ルイーズ嬢も巻き込まざるを得なくなりますね。多少危険がありますが」
ユージンが困ったように、首裏を掻きながらケネスに続く。
「そうなれば、ジェイクも巻き込むしかないだろうな」
ケネスが相槌を打つ。
相変わらずの相棒ぶりで、お互いの考えが分かっている様子で話がすすんでいく。
お互いに顔を見合わせた後に、ユージンが私へ向き直る。
「リアム様。この話に参加させたい騎士を一名と、ルイーズ嬢に声をかけて、再度話し合いの場を設けたいと思います。その折には騎士団長も。そのように進めさせていただいてもよろしいですか?」
「ああ。頼む」
私が短く答えると、ユージンは「かしこまりました」と答え、再度ケネスへと視線を送った。
それを受け、ケネスが頷く。
「最後に一つだけ確認を。リアム様、今回の件は王太子殿下はご存じなのでしょうか?」
ケネスが鋭い視線を寄越し訊ねる。
計画を立てる上で必要な情報ということなのだろう。
「報せてある」
「承知いたしました」
私が端的に答えれば、ケネスもまた短く返事を返し書類を纏め立ち上がった。
それに倣いユージンも立ち上がる。
ソファの横にずれて一礼すると「では早急に手配させていただきます」とユージンが言い、「お送りいたします」とケネスが続ける。
門前には馬車とジーンを待たせてある。
騎士宿舎の応接間であるここから門前まで、送ってもらうほどのものでもないが、立場上ほったらかしにする訳にもいかないのだろう。
いつからだろうな。
爵位の差で彼らと距離があいてしまったのは。
ふと寂しさを感じるが、並んで歩く2人を見て小さく頭を振る。
なにも、関係が途切れた訳ではない。
彼ら2人が騎士として在り続けてくれるなら、私も私の役割を果たさねばならない。
ケネスにユージンが居るように、私はクリスの傍に──。
あの後、ユージンからはすぐに連絡があり、2日後の今日、また騎士宿舎の応接間へと私は足を運んだ。
部屋に入ると、騎士団長のカルヴィン・ジョーンズ、ユージンとケネス、それにルイーズ嬢ともう1人騎士が既に控えていた。
私の視線が順に彼らを巡り、視線が止まるとすかさずユージンが紹介してくれる。
「1番隊の騎士で、ルイーズ嬢の友人です。先日お話したとおり、彼にも協力してもらいます」
「ジェイク・クロフォードです」
ジェイクと名乗る彼は、よく見ると職業紹介所でルイーズ嬢と一緒にいた人物だった。
「リアム・ジョン・モーティマーです」
短く挨拶を済ますと、彼らに席に着くよう促し、私もソファへと腰掛ける。
「ルイーズ嬢。先日断られたにもかかわらず、またこのように呼び出してしまって申し訳ありません」
席に着き、まずはルイーズ嬢へと謝罪を述べる。
彼女は落ち着かない様子で手を重ね握り締め「…いえ」とだけ短く答え俯いてしまった。
次に私は騎士団長に視線を向ける。
「カルヴィン騎士団長、この度はご協力感謝します」
まだ40歳手前でありながら、騎士団長として隊士たちを纏める彼は流石に貫禄がある。
無駄のない引き締まった体に、獰猛な目つきは熊を連想させる。
「いえ。我々を信頼していただき光栄です。リアム様のお役に立てるよう尽力いたします」
「よろしくお願いします」
挨拶が済むのを待って、ユージンが口を開く。
「では、まず現在までの状況を説明させていただきます」
それに合わせて、ケネスが先日の報告書をテーブルに広げる。
「ルイーズ嬢からご忠告をいただき、騎士団とモーティマー家、それぞれでイアンについて再調査をしました。その結果、彼は8歳児としてこちらへ来た転写者でした。モーティマー家へ雇用される際に出された報告書には下級貴族であるハンコック家の子息とされていましたが、実際はこちらへ来て間もなく平民家庭へ養子に入り、そこから更に二度養子縁組をしてハンコック家へ入っています。侍従として幾つかの屋敷に仕え、優秀であるとの推薦を受けてモーティマー家へ雇用されました」
そこで一旦言葉を切ってルイーズ嬢へ視線を向ける。
「素性を隠そうとしていた点は窺い知れますが、これについては転写者のこの国での雇用状況などを鑑みれば、特におかしなことでもなく、犯罪に抵触するものでもありません」
ユージンの言葉にカルヴィン騎士団長が大きく頷く。
「また、その経緯から大きな野心を持っているようには取れますが、それについても、特に咎めを受けるようなことでもありません」
淡々と語るユージンの言葉を誰もが黙って聴き入っている。
「つまり。現状として、ルイーズ嬢の忠告を入れたとしてもイアンを罰するようなことはできません。そこで──」
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