ゲジオ
三浦ケーキ
ゲジオと会話するまで
プロローグ 黒川カラスの思い出
キャンプ場の川の側で、しゃがみ込む二つの影があった。
その時僕たちはまだ五歳で、小学校に上がる前の夏の事だった。
「カラちゃん、あのね」
黒川家と七森家の家族でキャンプに来ていて、父親達はバーベキューのセットにいそしんでいて、母親達は話しながら食材を車から出していた。
僕はと言うと、手伝うでもなく、近くの小川の中で泳いでいる魚を眺めていた。落ちていた小石を拾って投げて遊んでいた。
隣にしゃがみこんでもじもじとする女の子の赤くなった頬に対して、考えを巡らせる程賢くはなかった。
「次のお歌のとき、わたしといっしょに歌ってくれない?」
「いーけど」
卒業式の時、歌を歌う事になっていた。
僕は歌がとても下手なのだが、考えを巡らせる程以下略で、とにかく大声で歌っていた。
彼女はそんな僕を自信に満ち溢れ、歌がうまいと思ったのだろう。
「いーの?」
ちらりと視線を横に向ける。彼女の双子の姉妹が、おちていた棒を持って遊んでいる。
考えが足りなくても、自分よりも双子の姉妹の方を誘った方がいいのではないかと思ったのだ。何故、今横でそんな風に自分を見ているのかよくわからなかった。
ふるふると首を横に振る。
「いーの」
「なんで?」
思い出すたびに僕は鼻水を垂らして涎も垂らして、多分脳みそもたれていたのだと思う。
真っ赤に染まった頬を髪の毛で隠して、潤んだ瞳で彼女は勇気をもって言ってくれた。そんなの、見たらすぐにわかる事だ。けれど、まだ生まれて数年で、相手の事を知っていると思い込んでいても、僕はとても馬鹿だった。
「……カラちゃんが大好きだから……いっしょがいい……から……」
ああ、高校生になった僕から見たら、明白だ。
何を言うべきか明らかなのに。脳みそも何もかも垂れて何も分かっちゃいないアホな五歳の男の子は、驚いて照れて、誤魔化すように顔を横に逸らして。
「あっそ」
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