第15話 恋と友情と2


「これは……、すごいね!」

 毎週土曜のお約束になった、理輝くんの家での打ち合わせ。

 私はかなたを連れて、待ち合わせ場所に行った。

 理輝くんは少しおどろいた顔をしていたけれど、かなたがCGを描けるようになったと聞いて、目をかがやかせた。

 家に到着後、かなたがスマホに保存していた『タケトリノツバサ』のイメージイラストを見せる。

 その瞬間、理輝くんは声を上げた。

「榎原さん、CG始めたばかりだよね? なのにこんなに上手いんだ!」

「……あ、ありがとう」

「すごいよ、本当にすごい。それに明日果ちゃんの小説の、キャラクターイメージそのままだ」

「それは……」

 かなたが、私の手をキュッとにぎる。

「明日果の小説の一番のファンは、カナだから」

「……」

 かなたの少し挑発的ちょうはつてきな態度に、理輝くんはぽかんとなる。

 けれどすぐに目を細め、いつもの春風のようなほほえみを浮かべた。

「うん、本当にそうだね」

 優しい目で、かなたの絵に目を落とす。

「心がつながってなきゃ、ここまでイメージ通りの絵なんて描けないよ」

(理輝くん……)

 キュッともう一度、つないだ手が強くにぎられる。

 ふり返るとかなたは、どうだ!という表情をしてた。

(かなたってば……)

「よし。じゃあさっそく、榎原さんの絵に合わせて、キャラチッブに修正を入れよう」

 理輝くんが声をはずませノートPCを開く。

 『RPGバース』のアイコンをクリックしてアプリを立ち上げる。

 理輝くんのきれいな指が、マウスを小刻こきざみに操作した。

「理輝くん、キャラチップって?」

「プレイヤーがコントローラーで操作するキャラクターのことだよ」

 理輝くんはPCの画面を見つめたまま返事をする。

「2頭身くらいの小さなキャラを動かして、目的の場所に移動させたり、会話させたり、物にさわったりするよね?」

「あ、うん」

「それのこと。ほら、これだよ」

 私とかなたはノートPCの画面をのぞき込む。

 そこにはアイロンビーズで作られたような、小さな女の子の絵があった。

「このアプリが、前に明日果ちゃんに言ってたジェネレーターでね。キャラチップをイメージ通りに作ることが出来るんだよ」

「わぁ……」

「で、今ここに出てるのは、僕が仮に作った『タケトリノツバサ』の主人公でね」

 理輝くんが、かなたのスマホに目をやりながら、スッスッとマウスを動かす。

 カチリという音とともに、ドット絵の女の子のぱっつんヘアが、ゆるふわに変化した。

「わ、変わった!」

「えーっと、色は……、これかな」

 つづいて黒だった髪の毛が、ライトグリーンに変化する。

「カナの絵に似てきた……」

「そう? 良かった。じゃあ次は目の形と……」

「待って、新川くん。これ、どうやって動かすの?」

 かなたがくいいるような目で、PCを見つめている。

「ん? モンタージュみたいなものでね。顔の形はこれ、髪形はこれ、ってパーツを選んで組み合わせていくだけで、自動的にキャラクターが作られるんだ」

「それ、カナがやってもいい?」

「え? うん、かまわないよ」

 理輝くんがPC前から立ち上がり、かなたに場所をゆずる。

 かなたは怖いくらい真剣なまなざしで液晶画面を見つめ、おどろきの速さでマウスを操作し始めた。

「目はこっち……、ううん、こっちの方がいいかも。服はこれ……、あ、アクセサリーもある。そっか、これを使うとこんな雰囲気に……。あっ、グラデ使える!」

 かなたは私たちの存在を忘れたかのように、作業に集中しはじめた。

 手の動きなんて、目で追えないほどだ。

「さすが、榎原さん。グラフィック関係は絵のとくいな人にはかなわないね」

 感心したように、理輝くんがつぶやく。

「僕にはあんな速さでキャラクターを作ることなんてできないよ。榎原さんの頭の中には、しっかりとイメージが組みあがっているんだ」

「うん、そうかも」

「ありがとう、明日果ちゃん」

「えっ?」

「榎原さんを説得して、ここに連れてきてくれたんでしょ?」

「……」

 うん、って言えば、理輝くんは私を好きになってくれるかもしれない。

 けれど私は首を横にふった。

「ちがうよ」

「ん?」

「かなたが自分から来てくれたの。私の小説の絵は自分が描くんだ、って」

「へぇ」

「他の人には渡さない、だって。ふふっ」

「あはっ、そうなんだ……」

 理輝くんがまぶしそうな顔をする。

「いいな、そういう関係……。心がつながってるって感じで」

「親友だから」

「うらやましいよ……」

 ほんのりしずんだ理輝くんの声。

 惺也の顔が、心に浮かんだ。

「……郷田くんのこと考えてる?」

「えっ?」

 理輝くんはおどろいたように数回またたきをして、それからはずかしそうに笑った。

「うん。あれから何度か惺也と話そうとしたんだけど、まだ怒ってるみたいで」

「……」

「仕方ないよね。惺也の気持ちを無視して、お芝居の声聞かせちゃったのは僕だし」

「理輝くん……」

「もう少しやり方があったかもしれないけど、あの時はあれしか思いつかなかったから」

「……」

 私と惺也をフェアな立場にするために、演技をしている惺也の声を聞かせてくれた理輝くん。

 才能は引き合うはずだ、って言って。

(もしも私と惺也の雰囲気が悪くなければ、理輝くんはあんな行動しなかったかも)

 まぁ、もとはと言えば、惺也が私の小説勝手に読んだのが悪いんだけどね!

 私はぐっとこぶしをにぎる。

(理輝くんにはきっと惺也が必要だ)

 ゲーム作りのメンバーとして。

 それから、大切な友だちとしても。

(惺也を、もう一度メンバーに呼び戻さなきゃ)

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