第8話 RPGを作ろう!2

「ほ、他には? 楽しめたのあった?」

「全部良かったよ。特にワクワクしたのはこの『星空の紋章もんしょう』かな」

 理輝くんは私の小説のタイトルを1つずつ読み上げて、感想を言ってくれる。

「これもさ、これも……」

 理輝くんが自分の服の胸元をキュッとつかむ。

「明日果ちゃんの小説は、読むだけでゲーム画面が見えてくるんだ」

「ゲーム画面が?」

「そう」

 理輝くんが目を閉じて、深呼吸を一つする。

「ここでBGMを流そう。効果音と同時に一旦BGMを止める。2秒くらいウェイトを入れて、それから次はこの曲に切りかえて……」

 目を閉じたまま、理輝くんは空中に絵を描くように人差し指を動かしている。

「楽しいだろうな……。明日果ちゃんの描く世界をゲームで表現出来たら」

 理輝くんがうっとりと目を開く。

「想像するだけで、心臓が破裂しそうなほどワクワクしてる。明日果ちゃんの小説はエネルギーのかたまりだ」

 わ、わ……。

 わぁあ~~っ!!

(どうしよう、うれしすぎて叫び出しそう)

 だって、あの理輝くんがだよ!?

 勉強も運動もなんだってできて、先生からも信用されてる児童会長の理輝くんが!

 女子からの人気ナンバーワンの理輝くんが!

(私の小説を、ここまでほめてくれてる……!!)

 スキップしながら世界中の人に自慢して回りたい気分だ。

「それにしても、本当にすごいね。このノートだけでいろんなジャンルの物語がつめこまれてる。これはホラー、これはSFアドベンチャー、これはラブストーリー、これはファンタジー……」

「思いついたら、何でも書いちゃうから」

「心強いな。RPGに出来そうな物語は書けそう?」

「RPG……」

「実は、今回作りたいのはこれなんだ」

 理輝くんが1枚の紙を私の前に差し出す。

『RPGバース 短編作品コンテスト』

「RPGバース?」

「それはゲームを作るアプリの名前。無料で使えるのがあるんだ」

「そんなのが……」

「そう。で、そこの公式が毎年コンテストをしてるから、今年はチャレンジしようと思ったんだ。小中学生限定の『ジュニア部門』にね」

 紙をよく読むと、『1時間以内でクリアできる短編』と書いてある。

「1時間でクリアできるRPG……?」

「うん。明日果ちゃんなら、どんな物語を思いつく?」

「たった1時間で、勇者が魔王を倒すってこと?」

「え?」

「え?」

 私と理輝くんは、きょとんとした顔で互いを見つめる。

 やがて理輝くんは「あっ、そうか」と小さくつぶやいた。

「RPGって言うと、そういうイメージ強いよね。勇者になって魔王を倒す物語、って」

「ちがうの?」

「そういう物語が多いのは確かだけど、RPGってそれだけじゃないんだ」

 理輝くんは紙にさらさらと書きつける。

 『RPG=ロールプレイングゲーム』

 そして『ロールプレイ=なりきること』とさらに書き加えた。

「なりきること?」

「そう。RPGって、主人公になりきってその世界で楽しむゲームのことなんだよ」

「???」

「つまり、勇者になって魔王を倒すのももちろんRPGだし、それ以外でもいいんだ。たとえば錬金術師になる作品もあるし、村人としてくらすだけの作品もある」

「えーっと……」

「むつかしく考えないで。明日果ちゃんは小さいころやらなかった? ナントカごっこ、って」

「あー……、幼稚園のころ、プリンセスごっこはやったかな」

 あとは、アニメの戦う女の子のとか。

「それ! 自分なら、どんな世界で何をしたいか。RPGはそんな願いをかなえるゲームなんだ」

「私ならどんな世界で何をしたいか……」

「そう。明日果ちゃん、もしも奇跡きせきが起きて、自分以外の誰かになれるとしたら、何になってみたい?」

 自分以外の誰かに……。

 豪華ごうかなお城でくらすお姫様?

 動物になって森で生きるのもいいかもしれない。

 それともパティシエになってケーキ作りとか。

 魔法使いになってなんでも屋をするのもアリかな。

(でも、やっぱり小説が書きたい)

 書いた小説がキラキラのステージになる世界なんて、見てみたい気がする。

「ふふ、イメージはつかめた?」

「! なんとなく」

 いけない、空想に夢中になってしまってた。

 理輝くんは私の小説ノートを開いて見せる。

「明日果ちゃんの小説の中にも、RPGにしたら面白そうな物語がいくつかあったよ」

 知的な瞳が、のぞきこむように私を見ている。

「どうする? 僕はこの中から使わせてもらうのもいいなと思ってるけど」

「うーん……」

 私は横目で、コンテストのことがプリントされた紙を見る。

 しめきりまで3ヶ月と少し。

「理輝くんは、いつまでにシナリオがほしいの?」

「うーん、1ヶ月以内かな。スクリプト組むのってけっこう時間がかかるから」

 すくりぷとってなんだろう?

 プログラムのことかな?

「わかった、1ヶ月以内に書いてみる」

「大丈夫?」

「うん、いつもの短編ならそれくらいあれば十分」

 理輝くんのゲームのシナリオだもん。

 新作を書き下ろしたい!

「ありがとう、明日果ちゃん!」

(はぅう~っ!)

 もう何度も呼ばれてるけど。

(理輝くんの声で『明日果ちゃん』って呼ばれるたびに、胸がキュッてなる!)

 名前で呼びあって、みんなにナイショで休日に待ち合わせして、2人で力を合わせて1つのものを作り上げるなんて……。

(なんだか特別な関係、って感じだよね?)

 心の中がしゅわしゅわポワポワする。

「ところで、明日果ちゃん」

「ん? なに?」

「明日果ちゃんって、絵も描けるの?」

「絵?」

「ほら、これ」

 理輝くんは小説ノートをテーブルに置く。

 きれいな指先で軽くたたいたのは、かなたが描いたイラストだった。

「ううん、それはかなた……っ」

 言いかけて、あわてて口をおさえる。

(しまった。かなたは他の人に、イラスト描くこと知られたくないって言ってた)

「かなた?」

「! えぇ~っとぉ……」

榎原えのはらさんのことかな? いつも一緒にいる」

 うん、ばれるよね。

 ごめん、かなた。

「そう、だけど……、このことはクラスの他の子には……」

「ねぇ、榎原さんってCG描けるかな?」

「CG?」

「もしできるなら、榎原さんにはゲームの『立ち絵』をお願いしたいと思って」

「えっ!?」

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