第40話 釣り合い
二人のことが気になりつつも更衣室で着替えを済ませて防具の準備をするも、どちらの部も活動が始まる気配はない。
顧問の先生もテスト前で忙しいためほとんど顔を出さないのは周知の事実だ。それがこの状態を継続させる要因になっている。
「こういう時こそシコ太郎の出番なのにな」
クラスは一緒になったことはないけど下手なクラスメイトよりかは過ごした時間は長い
「今日は吹奏楽部の取材とか言ってたな。あいつは人のプライベートに足を踏み込みすぎるからちょうど良い」
「ちぇっ! やっぱり彼女持ちは反シコ太郎になるんだな」
「そういうわけじゃなないから。シコ太郎には感謝してる」
「まさか、彼女のあられもない姿をシコ太郎に……っ!」
「頼まねーよ! 最悪の彼氏じゃねーか!」
「冗談だよ。ま、自分の彼女がシコ太郎のターゲットにされたらイヤって気持ちはわかるぞ。彼女いないけど」
「
苗字が
「だな。
「なんか遠まわしにバカにしてない?」
「してないしてない。奇跡は起きるんだなって実感してるだけだ」
「うっせ」
実際奇跡みたいな出会いだったけど人から言われるとモヤっとする。
でも、こうして誰かと話している間はキスのことを忘れられた。
「おっ!
あくまでもキスの相手がこの場にいなければの話だ。
本人が目の前にいれば嫌が応にも唇を意識してしまって、何も触れていないはずなのに感触が蘇ってくる。
「おいおい。手繋いでるぞ」
「マジだ……」
一方的に腕を掴んで体育館から出ていって、戻ってきたらお互いの意志で手と手が繋がれている。
僕らが見ていないところで何があったかは想像するしかないけど、その結果だけはすぐに予想できた。
静寂が二人を見守る中、僕の方へと歩いてくる。
経験はしたことないけど、娘が彼氏を連れてきた父親の気持ちはこんな感じだろうか。
自分が何かをするわけではないのになぜか緊張する。
「
「お、おう。
このやりとりを見るだけでもう十分言いたいことは伝わっている。
でも、本人が僕に言うことを選択したのだからその気持ちはしっかり受け止めなければならない。
「いや、オレはお邪魔みたいだし……」
緊張感に耐え切れなくなったのか
僕も同じ立場ならそうしていると思う。
どんどん小さくなる
「ごめんね。わたし達のことで迷惑かけて」
「ううん。先生も来ないからみんな野次馬根性丸出しなのが悪いんだよ」
「はは。そう言ってもらえると気が楽だ。ま、
「あの時は大変だった……。でも、それと同じ道を
遠くから見るだけで満足された
僕なんかより遥に人望のある
そんな修羅の道を
「
「これは笑っていいとこ?」
「どうだろうな。あとから思い返したら笑い話にしていいかもな」
「じゃあ今は笑わないでおく」
「さすが、俺にとっての恋愛の先輩だ」
「全然先輩じゃないから」
「
「
たぶんみんなの印象では
だけど現実はその反対。たしかに
僕が言った『タイプが違う』と、
隠し事をするのはモヤモヤするけど、それがオトナになるということなら耐えてみせよう。
寝取ったり寝取られたりしない。健全な男女交際が始まるんだ。
「まあ、とにかく、俺と
「ううん。僕は何もしてない。ちゃんと告白して想いを伝えた
「ごめん
「え……」
そんなにカッコをつけたつもりはないのに、
「今、付き合うって言った?」
「はぁ……やっぱり胸か」
「でもさ、
「まあね。釣り合いは取れてるかな」
竹刀がぶつかる音やバスケボールの跳ねる音がしない体育館の中に女子の小声がよく響く。
わざと本人達に聞こえるようにしているかは定かではない。
ただ、事実として僕らの耳に彼女達の声はしっかりと届いていた。
「だってさ、意外とどうにかなるもんだね」
「それは
「
「そうか? 剣道部の部長さん、修羅の顔してるけど」
「え?」
振り返ると、そこには
「これから夏に向けて気合を入れる時期に彼女ができて浮かれやがって」
「浮かれてません! 直近で彼女ができたのはバスケ部の
「問答無用! ふぬけの
「「「おおおおお!!!!」」」
こいつら、適当な理由でモテない鬱憤を晴らしたいだけだ。
ここで冷静になって僕を助けてくれれば女子からの評価が上がったかもしれないのに、残念ながら
「ふふ。よかったね。強くなれるチャンスだよ」
「
「ストイックなんだよ。じゃ、剣道の練習頑張って」
「うん。
ずっと
っていうか、早速名前で呼び合ってるのか。
こりゃキスもその先も
「それじゃあ
「止めてくれないの?」
「お姉ちゃんなら喜んで受けて立つよ思うよ?」
「……ガンバリマス」
彼女を引き合いに出されては逃げるわけにはいかない。
部活は違えど、
僕に彼女ができたからこんな状況になっていると同時に、彼女ができたから挑戦する気になっている。
早く周りから釣り合いが取れているカップルだと認めてもらいたい。
その一心で僕は一人ずつ部員と戦った。
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