第19話 ポテト
さすがにバレるんじゃないかとヒヤヒヤしながらカフェの向かい側にあるバーガーショップに入った。
「ちょうどいい席があったよ」
お昼をちょっと過ぎた時間帯で席はどこでも選べる。
「ふふ。このサングラスのおかげでバレてないわね」
「一度でも視界に入ったら怪しさ満点で警戒されるだろうけど」
「あたし達は尾行の天才。そんなヘマはしないわ」
「僕も天才の中に入ってるんだ」
「もちろん。普段は高校二年生って感じなのに、このサングラスを掛けてると大きなショタになるんだもん。変装は完璧だね」
「大きなショタ……」
もはやそういうプレイの設定にしか思えない。
たしかにこのサングラスは
「
僕の提案に彼女の頬がゆるむ。ニヤけるのを堪えているけど堪えきれてない。今にもとろけそうな笑顔だ。
「つまり
「すぐその発想に辿りつくのがすごい!」
しかも弟の前に義理の義が付いていたように感じたのは気のせいではないはずだ。
やっぱりショタや弟じゃなく正攻法で同い年の彼氏になりたい。
どうにか僕を男として意識させることはできないものか。悩む僕の視界に熱々のポテトが入った。
「ねえ
「ん?」
「どうせあっちの声は聞こえないんだしさ、こっちはこっちでハンバーガーとか堪能しようよ。ほら、
「あたしのおっぱいみたいに?」
「それを自分で言う!?」
そう思ってもなかなか口にしないことを彼女は平然と言葉にするし、僕の方がかえってダメージを受けてしまう。
手のひらの上で転がされて弄ばれる。それこそ近所に住む子供か弟みたいな扱いだ。
「ポテトもすごい長いね。二人で一緒に食べられそう」
「あはは。ポッキーゲームみたい」
読み通り、僕がポテトの長さについて触れれば
ポッキーゲームという前振りがあればこの後の提案の意味もきっと理解してくれる。
「……ポ、ポテトゲームをしませんか?」
30㎝はあろうかという長いフライドポテトを両端から二人同時に食べ始める。
ルールは
ポッキーゲームの名前が出た直後なら、初めて聞くポテトゲームでもルールは伝わるはずだ。
「
ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべる彼女にゲームの発案者である僕の方が動揺してしまう。
髪型は違っても輪郭や目や鼻のパーツは
それじゃなくても整った顔立ちとハンバーガーの油でテカテカになった唇はとても妖艶で、いまだ人生で経験したことのないキスをあの唇とできたらと想像するだけで股間も落ち着かなくなる。
「そりゃ、まあ……彼氏だし」
「ふふ。
もはや完全に年下扱いされてしまっている。
キスくらいなら本当に余裕なのだろうか。おっぱいだって平気で触らせてくれたし、唇と唇が触れても減るものはないと考えていそうだ。
処女以外ならほぼ何でもアリなのだとしたら、男子高校生の妄想が具現化したような存在だし、彼氏としてはちょっと心配にもなる。
「始まる前から顔が真っ赤の
「やってるみるまでわからないよ。そう言ってる
「言うねえ。あたしが勝ったら、
「じゃあ僕が勝ったら子供扱いをやめてもらおうかな」
「え? そんなのでいいの? もっと過激でエッチな要求をされると思ってたのに」
自分を抱きしめるように両腕で胸をガードするも、警戒心みたいなものを一切感じない。
僕を信用しているというより、男として見てないのが伝わってきた。
絶対にポテトゲームでドキドキさせてやるからな!
「そうやって余裕でいられるのは今のうちだよ。僕は
「あ、あたしだって。これは引き分けもあるわね」
半ばやけくそでキスしたいと宣言すると
気持ちで負けなければ勝機がある。僕に必要なのは男としての自信だ。
胸を張って
「それじゃあ早速やろう。先に折れたり口を離した方が負け。もしキスしたら引き分けということで」
「
「僕だって同じだよ。僕の計画通りかな」
「もう! そんなにキスしたいなら素直に言ってくれればいいのに。あはははは」
平静を装おうと必死な彼女はずいぶんと早口で追い詰められているように見える。
初めての彼氏と初めてのキスに少しでも心が揺さぶられているのなら良かった。
お姉さんとして上の立場で余裕を見せつつも、その中には子供っぽいところや乙女な部分が隠されている。
高嶺の花として遠くから拝むのが男子の中で常識になっていたけど、実際に付き合ってみると僕らと同じように初めてのことにドキドキする女の子なんだ。
「じゃあいくよ。審判はいないからお互いの良心でジャッジする感じで」
「オッケー。
「
「むぅ……ひっどーい」
「僕を完膚なきまでに敗北させればいいんだよ。できればの話だけどね」
「残念でした。そんな挑発には乗りませーん」
そう言いながら合図をする前にポテトをもぐもぐと食べ始める
不意を突いて僕を動揺させようとしてもそうはいかない。
ファーストキスがポテトの味なのはいろんな意味でしょっぱいかもしれないけど、男として認めてもらえるのなら塩味も悪くない。
しっかりと咀嚼して適宜飲み込んでいかないとすぐに口の中がいっぱいになってしまう。
お互いにゆっくりとぱくぱく食べ進めるうちに彼女の顔がどんどん近付く。
こうして間近で見ても肌のキメ細かさが自分と全然違っていて、すべすべで柔らかさそうだ。
「ひぶほいはね」
「あへないほ」
キスの可能性が見えてきたところで
それに対して僕もモグモグで返す。
腹を決めたつもりでも、いざキスが近付くと本当にポテト味が初めてで良いのかと葛藤する。
ポテト味のファーストキスを許容できるかどうか。勝負はここに掛かっている。
「…………」
「…………」
ポテトが途中で折れたらそこで敗北が決定するので慎重に食べていく。
もはや言葉を発する余裕はなく眼差しは真剣だ。
そんなに僕からお姉ちゃんと呼んでもらいたいのだろうか。
あまりに必死な表情に、たまになら呼んであげてもいいかなんて考えがチラつく。
いいや、ダメだ。義理の弟ポジションに落ち着いたら
今でも好きな気持ちは残っているけど、僕は
昔好きだった人が幸せになり、僕だって
寝取りさえ発生しなければみんなが幸せになる未来が待っているんだ。
ここで男を見せて本物の両想いカップルになる!
その決意が僕を奮い立たせた。
唇同士が触れる前に二人の鼻の頭がちょこんとぶつかる。
そこまで過敏な場所ではないはずなのに妙にくすぐったくて気恥ずかしい。
おっぱいに顔を
「……くっ」
「ん゛ん゛!」
折れたのは
口の中にいっぱいのポテトが入っていて勝利の声を上げることは叶わない。
勝負に勝ったこと、ファーストキスがポテト味にならなかった二つの喜びが僕の腕を自然とガッツポーズさせていた。
「うぅ、鼻がぶつかってビックリしちゃった」
「あーあ、
「……じゃあ今から、する?」
「ふぇ!?」
テーブルにうなだれる彼女が上目遣いで妖しく微笑む。
その瞳は敗北の二文字はなくて、自信たっぷりに僕をからかういつもの
むにゅっと押し潰されたおっぱいに自然と目がいくと全身がカッと熱くなる。
顔が赤くなるのを自覚するくらいだ。
「やっぱり
「と、とにかく僕の勝ちだから子供扱いは禁止!」
「でもでも~。それは
「うっ……」
残ったポテトを口に運びながら
長い棒が吸い込まれていく様子はちょっとエロくて唾を飲みこむ。
わかってやっているのだとしたら僕はしばらく
男として認識してもらうのはまだまだ先になりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。