人魚の王子と宴

琥珀エン

人魚の王子と宴

広い広いどこかの海の

深い深い水の底


人間の目からだと

暗い暗い闇の中


黒髪猫目な人魚の王子が

お宝がずっしりと入った箱の上に腰を置いていた


彩ある海中の中でも特に鮮やかな尾ビレと

海の中なのに不思議とサラサラな髪を

小さな水流に靡かせられ王子は考える


この海の底に太陽は当たらない

だから日にちなんて感覚はないし

誕生日なんてわからない

それでも王子はもう成人だ

今日陛下に言われた事は

いつかは言われるだろう事だった


つい先程

王子は陛下に呼び出された

緊張しながら陛下の元に辿り着くと

言われたのは覚悟していた言葉

結婚して世継ぎを作れ


その事で王子はとても迷っていた

だって王子は

この国を出て行くつもりだったから

この海の底から出て

もっと広い海原へ

旅立つつもりだったから


王子としてはダメな事は分かっているが

兄も二人いる

弟も妹もいる

時を増すごとに

旅に出たい気持ちは膨らんでいった


王子は悩む

自分は旅に行きたいことを

まずは陛下に話してみようかと


しかし今言っても断られるだろう

それなら宴を開いて

楽しい雰囲気にしちゃえばいいじゃないか


人魚の王子は心優しい

今まで深海魚たちの事を山程助けてきた

そんな王子が開く宴

来るもの拒まずさるもの追わず


見た目は不気味な深海魚

中身はそれぞれ違ってる

それは当たり前だけど

あまり魚たちと

日常的には関わってこなかった王子は

少しだけ心に衝撃を食らった


「さあさあ皆様お手を拝借、楽しい宴の始まりだ」


人魚の王子は両手を広げて

高らかにそう叫んだ


瞬間、場は盛り上がり

明るい明るい茶会が始まる


王子はその景色に圧倒され

暫くぼーっと眺めていた


陛下が王子の近くに来ると

王子にこそっと語りかける


「お前が旅に出たかったのは知っていた

それでもお前に世継ぎを頼んだのは

お前なら民を任せられると思ったのだ

この景色を作り出せるお前ならな」


王子は旅に出る憧れを

少しの間だけ心に仕舞い

まずはこの海底を知る事を選んだ

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人魚の王子と宴 琥珀エン @kohaku-osaru

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