憂鬱な都市の女子
理由
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撫でられピーチのほろ酔い気分…
〜果肉と抱き合う微々アル炭酸〜
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「ったく、どうせ中味なんて他のと大して変わらないのによくいうわ…」
コンビニの販促POPに悪態を吐く私、名前は『貝下 麻希』大卒で社会人6年目、28歳になります。
かく言う私ですが、大手町駅近く、そこそこ大手の広告代理店に勤めているのです。
因みにさっきの酎ハイのコピーは私の会社の仕事です。
以前は穏やだった私がこんな悪態を吐いたのには理由があります。
その原因になった出来事は先日起こったのです。
それをほんの少しだけ誇張してお話しいたしますと、次のようなことなのですが…
まだ蝉の声もまばらな先月の7月、私は新卒の新人の教育も兼ねて期間限定商品のプレゼンの準備をすることになりました、特段後輩の面倒見がいいという訳ではないのですが、仕事の経験と年齢に見合った人選が打倒過ぎてなんの抵抗もできずに引き受けたのです。
今思えばこの時に無理にでも断っておけばよかったと後悔しています。
後悔の始まりは高層ビルの窓から夕焼けが見える頃でした、私は仕事の進め方について新卒新入社員と話し合っていたのです。
「貝下さん、私お酒飲めないんです、それなのに酎ハイの宣伝とか正直全然自信無いです、それでもやれって、これってパワハラになるんじゃないんですか?」
「パワハラ?ならないよ…あのさ、幹元さん、それが会社ってものなの、わたしだってお酒飲めないよ、でも若い女の子向けの商品だから私達が担当になったってことなわけ、それは理解できるでしょ?」
「はい、でも、でもですよ、全然飲めないのに本当の美味しさなんて表現できないと思うんです」
「いい?本当の美味しさなんていらないの、この仕事に本音とか芸術性なんてもの持ち込んじゃだめよ、不味くても美味しく見せるのが私達の役割、それを嘘だなんだっていうならこの仕事には向いていないから早めに部署異動の相談でもした方がいいと思うけど」
「んん、はい…言ってることは理解はできるんです、けど仕事ってそんなものなんですか?わたしが想像してたのと違うことだらけで悩んじゃって」
そう言ってオフィスで涙ぐむ新卒新入社員、名前は『
彼女は2年ぶりに我が社、『
しかも、高校、大学とダンス部で全国大会に出場する程の腕前で、さらには体育会的な礼儀も身に付いているのでおじさんからもウケがイイときています。
今日もそんな幹元の甘い香りに誘われた男が一人クリエイティブ部門のフロアにやってきたのです。
「やぁやぁ、お疲れ様、貝下も幹元さんも元気かな?」
コーヒー片手にかるーい挨拶で現れたこの男、健康的で肌艶もよく小綺麗で清潔感もあって中々の男っぷりなのです。
男の名前は『
「袋田、お疲れ、よくまあ毎日飽きずに来るもんだね、あんたのところどれ程暇なんだよ」
「暇なんじゃない、これは仕事なの、アーティストが作品の制作で煮詰まったら息抜きが大事ってよく聞くでしょ?これはそういうの、よりよい仕事のための過程であるのだよ、貝下君!」
「はいはい、サボりね、大事大事、それには賛成するけど、あんたは営業マンなんだから、気安くアーティストとか言うな」
「貝下は厳しいな、真面目というのか素直というのか」
袋田はフリーデスクにコーヒーを置くと、幹元の方へ体を向けました。
「袋田さんって貝下さんと同期なんですよね?」
「うん、そう、今残ってる同期はうちら二人だけ」
「二人だけっていうと、やっぱり辞めていく人多いんですか?」
「どうだろうな、うちらの時は三人入って、ひとりが辞めたけど、新卒に限らず毎年誰かしら辞めていくよ、業界の華やかさと地味で過酷な業務のギャップに耐えられないんだろうね、働き方なんか完全にブラックだからね」
袋田は話しながら幹元の方へ近づく、それを遮るように私は話を始めました。
「幹元さん、あまり袋田の話しは信じちゃダメだからね、この男は可愛い女の子には兎に角いい格好して、どうにか口説き落とそうって下心で内心
「お〜い、ひどい言い草やめてくれます、下心なんてないから、これでも円円電堂のジェントルマンで通ってるんだから」
「おっと袋田くん、そんなこと、だれぇーも言ってませんよ、むしろ円円電堂の話すケダモノでしょ、ウソはいけませんねぇ」
「ふふっ、お二人って仲良いですよね、なんか友達とか恋人っていう感じではないですけど、同期ってそういう関係なのかなって羨ましいです、私はひとりで入社したので、悩みとかそういうのは学生時代の友達とかSNSとかで聞いてもらうんですけど、結局会社も違うし同じ場所で同じ仕事をしているわけではないので、深い部分が伝わらないっていうか、わかってもらえなくて、それでまた孤独な感じになってさらに悩んじゃって、だからお二人が本当に羨ましいんです!」
キーッ、幹元の学生臭さがまだ抜けないのは仕方ないにしても、自分の悩みを全面に押し出す自己陶酔気味の人生観、私はそれが苦手でした。
「別に仲は良くないから!幹元さんそこだけは勘違いしないでね」
「あっ…はい、わかりました…」
「おい貝下、なに怒ってんだよ、落ち着けよ」
私の抑圧した嫌悪感は思いがけず吹き出し、語気は強まり威圧的になって幹元を萎縮させました。
袋田は私をすぐさま制止すると幹元を気遣うのです。
「幹元さん、わかるよ、おれも入社したての頃は悩んでばっかりだった、仕事する意味とか、お金を稼ぐ事とか、人生とか色々考えちゃうんだよね」
「やっぱり皆んな悩みますよね、袋田さんはどうやって克服したんですか?」
「克服?いや、まだできてないよ未だに悩むしね、でも今は悩みの種類が違うのと職場の仲間と仕事して出来上がったものが世の中で認められるとすごーい達成感があってね、それ経験したらそっちの方が楽しくなっちゃってさ」
「わぁ、すごーい、なんか考え方が大人って感じで尊敬します!私もそういう経験したいなー」
なんて希薄なんだろう、この二人の間にあるのはその場しのぎの人間関係、深く相手を知ろうという気持ちがない。
多くの男共は「やれるか」「やれないか」そこが重要のようで、肉欲の権化なのか純粋な生命の発動なのか、私には理解できません。
袋田も例によってそんな男性である、そう感じてしまう。
でも、これは私が日々の生活の喜びを久しく感じていないことで、いっとき生じる精神の状態なのかもしれません、だって以前は幹元の様な活発さが私にだってあったのですから。
「おい、貝下、大丈夫か?なんか具合悪そうだぞ」
「あ、うん、大丈夫、ちょっと睡眠不足なだけだから、今日は定時で上がるよ」
「貝下さん、大丈夫ですか?あまり無理はしないでくださいね、私なりに頑張って資料纏めてみますから!」
「う、うん、ありがとう、お願いね、じゃあ申し訳ないけど、私は先に上がるね」
背中越しに袋田と幹元がわいわいと楽しそうにしているなか、私は会社を後にしたのです。
それ以来、会社へは一度も出勤していません。
所謂、傷病休職というものです、勤め先が大きな会社だとこういう時は助かるものです。
傷病と言っても精神的なもの、鬱です、しかも嘘、ネットで鬱の診断になる回答を調べて実践しただけ。
悪どいけど許してください、だって辛いんだよ私、そう考える甘えた気持ちが更に自分を嫌な気分にさせるのですが…
この状態…微かに息のできる生ぬるい底無し沼に落ちて行くような気分です。
この気分が私に悪態を吐かせる原因、諸悪の根源みたいなもので、習慣になった気分の嫌悪が常時そこにあるようで、悩みに悩んだ私ひとりでは全く解決できそうにありませんでした。
助けが必要だったのです。
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〈あとがき〉
読んでいただき、ありがとうございます。
宜しければ、
♡で応援。
★★★で応援して頂けたら幸いです。
応援までしてくれた方、さらに重ねて、ありがとうございます。
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