第45話 シンデレラの決意
どういうわけか、いつの間にか理央と紅会長の距離はめちゃくちゃ縮まって、閉園時間ギリギリに乗った観覧車にも、ものすごくナチュラルに二人は乗り込んで俺たちを置いて行った。
お化け屋敷に入る前までの様子とはまるで違いすぎて、正直、俺もそうだが守夜美月も引いていたと思う。
「これが地上に降りる頃には、もう閉園ですね……」
観覧車の透明なゴンドラの中で、園内のライトアップされた景色を眺めながら、正面に座っている守夜美月はそう言った。
「あぁ、そうだな……」
彼女の言う通り、少し名残惜しいけれど仕方がない。
なんだかんだ言って、今日は怪人族にもブルータスにも邪魔されることなく、デートらしいデートができているのだから、満足だった。
今の位置的には、時計でいうと10時というところだろうか。
もう少しで頂上だ。
これが、ちょうど頂上まで来たら、今度こそ俺は彼女ともう一度キスをしようと心に決めている。
観覧車の頂上と言えば、そう言うものだ。
うん……。
だがしかし、そう言うことばかり考えていると、ついつい緊張しすぎて口数が少なくなってしまう。
そろそろだ……
強引に行くか?
いやいや、それで嫌われたら嫌だ。
ここは、あくまで紳士的に……いや、でももう一度しているわけだし……
色々考えを巡らせていると、12時の位置へ行く直前で彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、言った。
「メースケくん……隣に座ってもいいですか?」
「……あ、あぁ、もちろんだ」
きっと彼女なりに勇気を出して言ってくれたのだろう。
彼女は俺の隣に座ると、ぎゅっと両手を膝の上で強く握っている。
俺も勇気をだして、そんな彼女の肩を抱いた。
やはりここは、男らしく……堂々と!!
ゴンドラが揺れる。
頂上へきたその瞬間、俺は彼女の唇に狙いを定めて一気に近づいた。
あと数センチ、あと数センチであの感触がまた————
————ブチッ……シュゥゥゥゥゥン……
「えっ!?」
「えっ!?」
そう思っていたのに、いきなり明かりが全て消えて、観覧車の動きが止まってしまった。
あたり一面真っ暗だ。
園内のイルミネーションも全て消えて、かろうじて最寄りの道路の街頭がいくつかついているだけだった。
「ま、まだ閉園時間じゃないですよね? て、停電ですか?」
「あぁ、降りる頃に閉園だって、言われてるし……」
乗り込みむ前に係員の人にそう言われていた上に、ポケットのスマホを取り出して時間を確認したが、まだ閉園時間にはなっていない。
「どういうことでしょうか?」
「単純に停電してるだけかもしれないし……ちょっと待ってみよう」
頂上は真っ暗で、スマホの明かりだけが頼りだった。
20分ほど待ってみたが何も起きない。
一応近くで何か雷が落ちたとか、事故が起きたとか調べてみたが、今のところ停電に関する情報はない。
全く復旧せず、観覧車の頂上に俺たちは取り残されてしまった。
「おかしい……この観覧車、俺たちの他にも乗客がいるし、他のアトラクションだってまだ————」
暗すぎて、他の乗客や、アトラクションがどうなっているのか全然見えない。
理央と紅会長に電話してみたが、二人とも全く出る気配がない。
————コンコン
ゴンドラの外から、叩く音が聞こえる。
救助が来たのか!?
俺はスマホのライトで音がした方を照らした。
すると、そこにいたのは……
「大変だぜぃ!! 怪人族が現れたぜぃ!!」
「ぶ……ブルータス!!?」
ライトに照らされたブルータスにびっくりしていると、上空だというのにガチャリとゴンドラの扉を開けられる。
「もう!! 早くここから出て!! 大変なんだから!!」
扉を開けたのは魔法幼女だった。
「一体、どう言うことだ!? この停電、もしかしてお前らが……!?」
「そんなわけないんだぜぃ!! 怪人族が暴れているせいなんだぜぃ!!」
「は!?」
わけがわからずにいると、魔法幼女の魔法で、俺と守夜美月はゴンドラの外へ放り出された。
とても嫌そうな顔をして、守夜美月は魔法少女に変身して空を飛ぶ。
「もう嫌!! 私……絶対、魔法少女なんてやめてやるっ!!!」
そうしてブルータスに連れられて怪人族が暴れている場所へ向かった。
俺はというと……
魔法幼女の魔法によって空に浮いていた体が、急降下していく。
「えっ!? ちょっと……!? えっ!!?」
「あっ!! パパごめん!!」
「ごめんて……うわああああああああっ!!!」
やばいやばいやばい!!
死ぬ死ぬ死ぬ!!!
そうだ!! タコ足!!!
生えろタコ足ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!
地面が目の前だと言うのに、全然タコ足が生えない。
デートの合間に、絶対に怪人族だとばれたくなくて食べていた酢昆布のせいだ!!
なんでこんな時に!!
なんのためのタコ足だよクソ!!!!
「ちょ……危ない、メースケ!! 何してるの!!?」
「ふ……ぁ、え!?」
なぜか観覧車の真下にいた理央がギリギリのところで、ヒトデの手で俺をキャッチした。
た、助かった……。
ほっと一安心していると、理央の隣に立っていた紅会長が空を見上げている。
そして、こう呟いた。
「守夜さんが…………魔法少女だったのね」
あ、やばい————
自分が怪人族であることが守夜美月にバレることを気にしすぎて、大事なことを忘れていた。
守夜美月が魔法少女であることが、紅会長にバレてしまった————
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