第44話 怪しい二人 後編
「ここまでくれば……」
お化け屋敷だけあって、中は薄暗い。
怪しい照明がその怖さを演出している。
あまり事前説明とかは聞いていなかったが、どうやら病院の設定のようだ。
手術台の上に、メスで腹を切られた人形が置かれている。
「きゃ……こ……怖いですね……」
守夜美月の手が震えている。
確かに、妙にリアルで気持ち悪いし、怖い。
これは子供とか入ったら泣くんじゃないか?
それにしても、意味がわからないのは手術室になぜか水槽が置かれているというところだ。
水槽の中にはザリガニが入っている。
そしてとても大げさな演技で、医者の手術着を着た役者が、その人形の腹の中にそのザリガニを突っ込んだ。
意味がわからない……どういう演出だこれ……
「先へ進みましょう……」
「そ、そうだな」
暗い通路を、ビクビクと震える守夜美月と歩いた。
よっぽど怖いのか、時々俺の腕にしがみついてくるのがもう……たまらなく可愛い。
正直、この謎演出のお化け屋敷とかもうどうでもよくなっていた。
「後ろの二人も、もうスタートしてるんでしょうかね? 私、進むの遅くて追いつかれちゃうかも……」
「どうだろう? そこまで気にしなくていいと思うけど……」
後ろの二人のこともすっかり忘れていた。
そうだよ、あいつ……理央のやつ、少しはしっかりしろよな。
自分から遊園地に誘ったくせに……
でもこのお化け屋敷、通路が狭いし、結構体が密着するようなポイントもあるから……もしかしたら、ここを出た時にはいい雰囲気になってたりするかもな……
なんだかんだ言って、怖がる守夜美月の体に触れても誰にも怒られないから、俺は正直ずっとここにいたいくらいだった。
さすがにお化け屋敷の中には怪人族もブルータスもいない。
「きゃっ!!」
正面から突然、入院患者役の人が三人飛び出してきて、驚いた守夜美月が俺に抱きついてきた。
おおお!!
ナイスだ!!
最高だぜ!!
お化け屋敷!!
「怖すぎますぅぅ……早く出ましょう」
ああ可愛い。
めちゃくちゃ可愛い。
あまりの可愛さに、俺は興奮して鼻血が出そうだった。
* * *
先に二人で出口の前で理央と紅会長が出てくるのを待っていたが、なかなか出てこない。
仕方がないので、出口の近くにあった売店で飲み物を買った。
その時、支払いをするのにまだ手を繋いだままだったことに気づいて、何だか少し恥ずかしかったけど……
「こ、恋人なんですから、手を繋ぐのは普通です!!」
守夜美月がそう言ってくれて、俺たちは手を繋いだまま、二人を待つことにした。
「それにしても、遅いですね……」
「そうだな……中で何か起きてる……とか?」
「怪しいですね……」
冗談で言っていたんだが、本当に二人とも全然出てこない。
しびれを切らして、理央のスマホに電話しようかと思ったその瞬間、やっと二人が出口から出てきた。
「結構時間かかったな……何かあったのか……?」
「いや、別に何もないよ? ね、萌子」
「え……ええ、何もないわよ」
ん?
萌子?
「ほら、それより次は何に乗る? 萌子は高いところから落ちるの平気?」
「大丈夫よ。あなたが隣にいるなら……」
ん?
あなた?
「よし、じゃあ、次はあれにしよう!!」
いや、待て待て待て!!
お化け屋敷の中で何があった!?
なんだこの二人!!
怪しすぎるだろう!!
理央は紅会長を呼び捨てしてるし、紅会長も理央をあなたって……
それに、理央!!
お前その手!!!
手を繋いでいるならまだしも、なぜ紅会長の腰に手を回している!?
紅会長も、なぜちょっと顔が赤い!?
お前ら、お化け屋敷の中で一体ナニをした!?
「あら……お二人とも、すっかり仲良しさんになったんですね! よかったですね、メースケくん」
「そ、そうだな……」
いや、これは仲良しさんとかいうレベルじゃないだろう……!!
本当ならそうツッコみたかったが、守夜美月が嬉しそうだったから、俺はもうツッコむのをやめた。
それに、少し羨ましかった。
あまりにも二人の距離が縮まる速度が速すぎて。
俺も邪魔が入らなければ、もっと、守夜美月と…………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます