第41話 愛さえあれば 後編
「こう……が?」
そういえば、怪人族には俺の家の他に、紅家と黄河家というのがあると聞いたのを思い出した。
過激派の紅家と、穏健派の青野家とは中立的な立場だという。
金髪の少女————黄河理央はニコニコと笑いながらヒトデになった手を元に戻すと、戸惑う俺に言った。
「ボクの力を使えば、君は魔法少女に自分が怪人族であることを知られずにいられるよ? ほら、覚えているかな? 君が魔法少女を助けるのに触手を使ったあの時を……」
「触手……? もしかして、背中から生えるタコ足のことか?」
「そうだよ。ほら、君の背中の触手を、見たはずの魔法少女がソレを覚えていなかった……あの時さ」
魔法少女を助けるのに怒り任せに使ってしまったあの時か……
そうだ、確かに俺の背中から生えたタコ足を、魔法少女だけではなくブルータスも見ていたはずだ。
でもなぜか、覚えていないようだった。
それに、その前日に屋上から落ちた時のことも……
「ボクが少し、彼女の記憶をいじったのさ。ついでに、あの青い鳥のもね」
「え……!?」
通りでおかしいと思っていた。
怪人と戦ってきた魔法少女なら、背中からタコ足が生えた俺が怪人族だと気がつくはずだ。
ブルータスだってそう。
怪人族は魔法少女からしたら、退治するべき対象のはずだ。
それが何も変わらずに、なんの違和感も持たれずに今日はデートまでしてしまった。
ワカメ怪人のせいで最後まではいかなかったけれど……
「ボクにはそういう力があるんだよ。黄河家の怪人にしかない特殊の力さ。どう? ボクに協力する気になってくれた?」
黄河理央はニコニコと明るい笑顔でもう一度手を差し出してきた。
今度は、俺からその手を掴むのを待っている。
「……とりあえず、詳しく話してくれないか? 紅家の暴走っていうのもよくわからないし、あと、どこからどう見ても女子にしか見えないんだけど、どうしてボクなんだ?」
まだ出会って数分しか経っていない。
黄河理央の笑顔は明るく、人懐っこいけれど……そこが引っかかった。
どこか胡散臭いような気がしなくもない。
「なんだ。そんなことか。自分のことをなんて呼ぼうが、ボクの勝手でしょう? それにボク、よく間違えられるんだけど、男だよ? ……ほら」
「おおおおい!! 何を!!!!?」
黄河理央は他に誰もいないとはいえ、深夜の公園で勢いよくズボンをパンツごと下ろした。
「……まじかよ」
「だから言ったじゃないか」
その見た目に反して、それはそれは大きなイチモツだった。
* * *
理央の話によると、紅家は今、暴走状態にあるらしい。
怪人族の御三家である青野、黄河、紅の家の後継者は皆純血だ。
他の種族と交わっていない正統派なのだが、その中でも紅家は今、存続の危機だという。
紅家は早くから人間の裏社会に溶け込んでいたため、財力はあるのだが跡継ぎがいない。
純血でなくなるのは仕方がないとして、唯一残っている紅会長が、子供を産まなければならないというのは、あの変態金魚から聞いた通りだ。
そして、そもそも女性の数が少ないため、紅家の他の怪人族は人間を奴隷にして子をなそうとしているのだとか。
「いくら子供が欲しいからと言っても、同意なくそんなことをするのはダメだろう? 中には性別関係なく、子孫繁栄のための怪しい儀式に男をってこともあるけど……」
そういえば、俺も何も知らなかった頃に、怪人族にさらわれたな……
その怪しい儀式に使われそうだったのか……
「紅家がそんなことをするから、平穏に生きている君たち青野家や、黄河家の怪人族も同じように思われてしまっている。何もしていないのに、怪人族ってだけで、魔法少女に敵とみなされて排除されたら困るでしょう?」
「それは……確かに。紅家の怪人以外は、人間を襲うことはないんだろう?」
「もちろんだよ。ボクたち黄河家だって、そんな野蛮なことはしないよ? 愛さえあれば、種族なんて関係ない。そういう考え方だからね、ボクらは……」
それには俺も賛成だ。
種族とか、そんなもの関係ない。
愛さえあればいい。
そうだ。
その通りだ。
「わかったよ……協力しよう。それで、俺は具体的に何をしたらいいんだ?」
「簡単なことだよ。紅萌子に……ボクを紹介して欲しい」
「え……?」
理央はさっきまでのニコニコの人懐っこい笑顔ではなく、真剣な表情で言った。
「愛さえあれば、種族も家も関係ない。ボクは紅萌子と結婚したいんだ」
ええええっ!?
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