第4話 主人公は遅れてやって来る


「キャーっ!! 助けてえええ!!!」


 デジャブかと思った。


「フォッフォッフォ!! 叫んでも無駄ですよ! 大人しく怪人族の奴隷となりなさい人間!!」



 部長が今夜魔法少女が現れるはずだと、予想した場所に向かっている途中で悲鳴が聞こえ、怪人に捕まっているOL風のお姉さんがいた。

 多分おとといのお姉さんとは違うだろうけど、この怪人ってやつはあれか? こういうタイプの人間ばっかり襲う系なのか?


「キャーッ!! 誰かぁぁぁ!!」

「フォッフォッフォ!!」



 俺は人より視力が良い方だから、昼だろうが夜だろうが離れたところからもはっきりと人の顔が見える。

 襲っている怪人と襲われているお姉さんからは、きっと俺の姿は見えないだろけど。


 部長が予想した場所はここから10分以上はかかるし、人の通りも少ない。

 誰かと言われても、この場にいるのは俺だけだ。

 一昨日は警察に通報しようとしたら、魔法少女が現れて助けに来たし、きっと今日もこちらに向かっているに違いないと、俺は夜空を見上げたが、魔法少女の姿はそこになかった。


「フォッフォッフォ!!」

「ひいいいいいいい!!!」


 怪人は嫌がるお姉さんの体を後ろからガッチリとホールドしていて、気持ちの悪い長い舌でペロリとお姉さんの顔を舐め回している。

 長すぎる爪が、お姉さんの服を引き裂こうとしていた。


 全然助けに来ない。

 魔法少女が全然来ない!!

 これだけ危機的状況なのに、魔法少女は現れない。


 これは本格的にやばいんじゃないか!?

 警察を呼ぶべきじゃないのか!?

 でも、怪人て警察に逮捕できるのか!?



「や……やめろ!!」


 気がついたら俺は怪人に殴りかかっていた。

 このままでは、お姉さんは怪人に食べられてしまうのではないかと……

 体が勝手に、助けなければならないと判断して動いたようだ。


 だが、俺の拳は怪人に届く前に、怪人の体から別の腕がにょきっと生えて、吹き飛ばされてしまった。


「人間ごときが、この怪人サマーにかなうとでも思っているのですか? 愚かな……フォッフォッフォ」


 吹き飛ばされた俺の体は宙に浮き、民家の塀を越えて庭の植木の上に落ちた。

 たまたま落ちた場所に植木があって、クッションになったものの、これが何もないアスファルトだったら、大怪我どころじゃ済まないだろう。

 なんとか立ち上がって、塀を乗り越えようとしたが、吹き飛ばされたときに受けた衝撃で腹がめちゃくちゃ痛い。

 塀に開いたていた小さな穴から、向こう側の様子を見ることぐらいしかできなかった。


 くそ……!!

 どうしたらいいんだ!!

 俺なんかじゃ、あの怪人には敵わないのか!?


 そのとき、俺の頭上に人影が————



「その人をはなしなさい!!! この悪党!!」



 俺の真上に、魔法少女が浮いていた。

 水玉のパンツが俺の位置から丸見えだった。



 * * *




「ふにゃふにゃぽーぽ!」


 キラキラと輝くハートの粒が、お姉さんの目の前をクルクルと回っている。


「これで一晩寝たら私の顔は忘れてしまいます。さぁ、気をつけて帰ってくださいね!」


 魔法少女は怪人と戦う姿を俺が塀の向こうから見ていたことに気がつかずに、お姉さんにだけ魔法をかけて、部長が現れると予想した場所の方角へ歩いて行こうとしていた。


 なんなんだあの呪文は……やっぱりくそ可愛いな!!

 いやいや、そう思っている場合ではない。


 止めなければ!!

 このままでは、部長たちに本当に目撃されて、家を特定され、正体がバレてしまう!!


「ま、待って!!! そっちへ行ったらダメだ!! 魔法少女!!」

「え……!?」


 彼女からしたら、突然聞こえた男の声に驚いたに違いない。

 怪人が消え、現場には助けられたお姉さんしか残っていないのだから。


「だ……だれ!? どこにいるの!? まさか、怪人!? 姿を現しなさい!!」


 魔法少女はステッキをぎゅっと握り、あたりを見回している。


「お、恐れることはない! 俺は怪人ではない、君の味方だ!! いいか、とにかくあちら側に行ってはいけない。君の正体を探ろうとしている奴らがいる」

「そんな……姿も見せない人の言葉を信じろっていうの!?」


 姿なんて見せられるわけがない。

 同じクラスなんだ。

 俺に見られていたと知ったら、嫌われてしまうかもしれない。

 まだ一度も話したことないけど……


「すまない。訳あって、今は姿を見せることはできないんだ。奴らは、俺が追い払っておこう。だから、逆の方向から帰りなさい」


 これで信じてもらえるとは思えないけど……

 頼む……向こう側には行かないでくれ!!



「ソイツのいうことは本当だぜぃ! あっちへ行っちゃダメだぜぃ! 妙に息の荒いバンダナの男たちがいたぜぃ!」


 青いインコが飛んできて、魔法少女の周りを飛びながらそうい言った。

 使い魔的なやつだろうか……?


「本当なのね……わかったわ」


 そして魔法少女は、言った。


「あなたを信じるわ。姿は見せなくていい。せめて、お名前を……あなたのお名前を教えてくれる?」


 な……名前??

 もちろん、本名なんて言えるはずもない。


「ファン…………です」


 そう、俺はあなたのファンなので、名乗るほどのものではありません。


さんね……! ありがとう」



 魔法少女は夜空を飛び、姿を消した。


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