第2話 魔法少女を見守る会 前編


「ちっ! 魔法少女め!!」


 魔法少女がステッキを振りかざすと、ピンクの光るハートがいくつも怪人に向かって飛んでいった。


「ていっ!」


 短いフリフリのスカートのまま、魔法少女はクルクルと器械体操の選手みたいに綺麗に空中を回転しながら、怪人に向かって飛んでいく。

 白いパンツだった。


「キラッとビーーーーーム!!」

「うわあああああ!!」


 魔法少女なるものを初めて見たから驚きすぎて、俺はスマホを片手に持ったまま動けなかった。

 今思えば、この時の動画の一つでも取っておけばよかったと後悔している。


 まばゆいピンクの光が、魔法少女の振りかざしたステッキから放たれて、怪人を包み込み、叫び声をあげながら怪人は消えてしまった。

 可愛らしい羽根のような飾りのついた赤い靴で、ストンと地面に着地すると、怪人に捕まっていたお姉さんの前でにっこりと微笑む。


 あぁ、俺が惚れたあの少し困ったように笑う笑顔だ。

 可愛い。可愛い。可愛い。


「これでもう大丈夫ですよ。夜はあまり一人では出歩かないようにしてくださいねっ!」

「あ……ありがとうございます!! ありがとうございます!!」


 何度もお礼を言うお姉さんに、パチッとウィンクをすると、魔法少女はハートのステッキをそのお姉さんに向ける。


「ふにゃふにゃぽーぽ!」


 キラキラと輝くハートの粒が、お姉さんの目の前をクルクルと回っている。


「これで一晩寝たら私の顔は忘れてしまいます。さぁ、気をつけて帰ってくださいね!」


 そうして、魔法少女は颯爽と空を飛び、どこかへ消えてしまった。

 白いパンツだった。


 彼女は気がついていないのだ。

 俺という目撃者がいることに。


 はっきりと顔を見てしまった人間がいることに。


 そう、以前から俺のような他の目撃者がいたからこそ、魔法少女の存在は、噂になっていた。


 どうやらこの町には、とっても可愛い魔法少女がいるらしいと。

 あの子以外、守夜美月以外は可愛いと思えなかった俺は、そんな噂どうでもよくて関心がなかったから、実際にあの魔法少女を見るまですっかり忘れていた。


 まさか、その噂の魔法少女が、あの子だったなんて————しかも、しかもだ!

 驚くべきことはもう一つ起こる。


 この翌日、入学式の時……

 生徒代表の挨拶のために登壇した、新入生代表————


 それも、守夜美月だった。

 さらに……


「守夜美月です。よろしくお願いします」



 同じクラスだった。




 * * *




「メースケ! お前、部活何入るか決めたか?」


 小学校から一緒のクラスだったおおぎ和也かずやが、頭の中があの子のことでいっぱいで、ぼーっとしていた俺に話しかけて来た。

 まさか守夜美月だけじゃなく、こいつとも一緒だったとは……


「いや、まだだけど……まだ入学して2日目だし、もう少しゆっくり決めようかと」

「そうだと思ったんだよ! だからな、俺が代わりに入部届けだしておいたから!!」

「はっ!?」


 何を言っているのかさっぱりわからない。

 入部届けを出しておいた!?


「ほら、ちゃんと先生から承認のハンコももらってきたぞ!」


 扇は戸惑う俺の目の前に1枚の紙を見せてきた。


『1年A組 青野あおの冥助めいすけ』と、俺の名前が俺の字ではない文字ではっきりと書かれている入部届けだ。

 そして、名前の上に見たことも、聞いたこともない部活の名前が書かれている。



『魔法少女を見守る会』



「な……なんだよこれ…………!!」

「どうせお前帰宅部だろ? だから、一番面白そうな部活にしてみたんだ。人数合わせの幽霊部員でも構わないらしいから……」


 俺はヘラヘラと笑う扇の胸ぐらを掴んだ。


「お前、最高だな!!!!!!!!」


 そうして俺は、魔法少女を見守る会の一員になった。

 まさか、それが俺の高校生活に、波乱を巻き起こすことになるとは知らずに——————





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