免許
親孝行しないと。と思ったものの、当然ながらめちゃくちゃ歓待してくれた。お昼は大きな桶で出前してもらっているお寿司に、おばさんが作った揚げ物や煮物も並べてもらっている。
普段食べないご馳走に、おばさんの久しぶりのお料理もおいしくって、普通にはしゃいでしまった。
「お腹いっぱい食べたかい? 残った分は晩御飯にするけど、別にいくらだって用意するんだから、遠慮しなくていいからね」
「もうお腹いっぱい。お寿司美味しかったー」
「ん……たまにはお寿司、いいよね」
確かに。お寿司って自分で作れないし、たまにはいいかもね。なんてことも考えつつ、のんびり食後のお茶も楽しんだ。さすがに片づけは手伝ったけど、冷蔵庫に入れるのは理沙ちゃんがしたし、洗い物は取り皿とコップぐらいで大したことないからっておばさんが始めちゃうから、私は運んで机を拭いただけだ。これではただの共同作業だ。
片付けも終わったのでゆっくりしててね、と言われて私たちは理沙ちゃんの部屋にさっき居間に置いてた荷物を運び、そこでちょっと作戦会議してみることにした。
「ねー、理沙ちゃん。何か、親孝行になることってあるかな?」
「え? ……親孝行したいの?」
「もう、ほんとは理沙ちゃんがしなきゃいけないんだからねっ。普段頻繁に会えないんだから」
「うーん……あの、ほら、子供って生きてるだけで親孝行ってよく言うし、ね?」
「そう言うのって、理沙ちゃんの立場から言うのは違うかなって思うよ」
確かにドラマかなんかで聞いたことあるやつだけども。子供側が言っちゃったら駄目なやつでしょ。私の指摘に理沙ちゃんは目をそらした。
「あー……まあ、あー、うん。明日、朝早くからお墓参りに行くから、その時に、ぴかぴかにするとか、どう?」
「それはもちろんするけど、今日は?」
お墓参りはこれまた電車にのって30分ほどの距離のところにある。墓地は遮るものがなく暑いので、朝早くに出て済ませるのがいつもだ。朝の7時に出発だ。その為にも最低でも一泊お泊りが必要なのだけど、折角なのだし、今日何もしない手はない。
だと言うのに、理沙ちゃんはやる気なさそうにクッションにもたれて座った状態からころがった。
「うーん」
「もう、何そのやる気のない態度」
「だって、お腹いっぱいだし……眠くなってこない?」
「わからないでもないけど。でも駄目だよ。明日早いんだから、今お昼寝して夜に寝れなくなったら困るでしょ」
「うー」
うー、って。子供みたいなんだから。そう言うところも可愛いけどさ。でも今日は甘やかさないからね! 私と付き合ってるからこそ、理沙ちゃんにはおばさんに変に思われないようちゃんとしてもらわなきゃ!
「ほらほら。とりあえず居間に戻ろう。何かあるかもしれないし。おじさんがいないなら、力仕事で後回しにしてることとか」
「……わかったよ」
軽く頬を叩いて目を覚まさせ、二の腕を引っ張ると理沙ちゃんはしぶしぶ立ち上がった。
まだ気の進まない理沙ちゃんの背中を押して居間にもどると、おばさんはさっきと同じ席についてテレビを見ていた。
「あら、二人ともどうしたの? 晩御飯までゆっくりしていいんだよ」
「あの、暇だし、何かお手伝いすることないかなって。おじさんが帰ってこなかった分、力仕事とか、何かあったらお手伝いするよ! ね? 理沙ちゃん」
「う、うん。あのー、たまにはね、親孝行しようかと思いました」
後ろについてきた理沙ちゃんを振り向いて促すと、理沙ちゃんはぎこちないながらもそう自発的に言ってくれた。うんうん。いい子だね。
「あらぁ。珍しい。明日槍がふるねぇ。そう言うことなら、そうだねぇ」
夕方頃、涼しくなってから行こうと思っていたと言う、明日お墓に持っていくお花を買ってくるということになったはいいけど、そのついでに車をだすならとお米やトイレットペーパーなどの消耗品も頼まれた。
これと同じやつで、と写真付きで頼まれたので間違いようがない。今回おじさんが車を置いて行っているので車はあるのだけど、おばさんは免許がないし、自転車で普段の買い物は事足りるので少しずつ買うことでやってきたけど、どうせならと結構頼まれてしまった。
「と言うか、理沙ちゃん車の運転できたんだね」
車に乗り込みながら声をかける。ちょっと大きめの車で、助手席に乗ると背が高くなった気分だ。昔におじさんの運転の時にのせてもらったことあるけど、ちょっとテンション上がるね。私のお父さんの車は背の低い車だったから。
大人だから免許持ってるんだろうなとなんとなく知ってたけど、車はないから普段のらないし、ペーパードライバーで運転できないと思ってたけど、理沙ちゃんは慣れた様子で普通に車を出発させた。
「一応、高校の時に免許とってからもお母さんの足としては、たまに運転してたりしてたよ」
「え!? 高校生の時にとったんだ」
「うん」
理沙ちゃんの誕生日は8月25日だから、物理的には可能だろうけど、理沙ちゃんいい大学行ってるのに高校生の時そんな余裕あったんだ。と言うか、そんな早くとる余裕あったんだ。
「夏休み暇だったから通って、誕生日にすぐとったよ」
「高校三年生の夏休みって、受験勉強のイメージだったけど、そうでもないんだ」
「まあ、受験勉強って言っても、特別勉強しないから」
「ん? そうなんだ」
なるほど? さすがにそんな訳は絶対ないから、これは理沙ちゃん、私が思ってた以上にめっちゃ頭いいな。
予想外の理沙ちゃんの経歴を聞いて見直していると、すぐに目的のお店についた。
頼まれたものは、ものすごく多いわけじゃないけど、詰め替え洗剤とかも1個1個が大きいから、カートの籠はいっぱいになった。なんとか車に運んで、スーパーで食品とお花も買った。
スーパーの入り口でお花を売ってるのはよく見ていたけど、買ったことはなかったから新鮮な気持ちだった。
「お花はこれでいいの?」
「うん、いつも小菊だし、明日だから開いててもいいはず」
「明日じゃなかったら、開いてないのってこと?」
「あ、うん。事前に買う時は半分くらい蕾のを買ってた、と思うよ」
「へー」
そう言うの、ちゃんと見てるんだよね。理沙ちゃんは人嫌いだって言っても、落ち着いていればそうやってちゃんと周りを見ることができる人なんだ。そう言うところ、好きだな。まあ、テンパると駄目だけど、そう言うとこも可愛いし。
「ただいまぁ」
「ただいまー」
「おかえりなさい。ありがとねぇ。汗かいたでしょ。荷物は居間に運んでくれたら、あとはシャワー浴びてゆっくりしていいからね」
おばさんはニコニコと玄関を開けて迎えてくれながら、外にはでず車から居間までは運ぶよう指示した。まあ暑いし、全員が汗かくことないけどね。
重いので車とも二人とも2回往復した。駐車場は目の前とはいえ、地味にとどめをさされたようにぐっと汗が噴き出てきた。
元々泊まりの予定なので着替えはあるし、お言葉に甘えてシャワーをあびるとして、着替え普通にある理沙ちゃんに先に入っててもらおう。
「理沙ちゃん先にシャワー浴びてきていいよ」
「あ、いいよ。春ちゃんこそどうぞ」
「お湯沸かしてるから、夜の分と思って普通に一緒に入ってきな」
「えっ、あー、いや、恥ずかしいから、いいよ。理沙ちゃん、いいから先にどうぞ」
「う、うん。わかった」
美砂子おばさんはさらっと当たり前に言ってくれたけど、さすがにそう言う訳にはいかない。ついこの間までなら何とも思わなかったしできたけど、今はちょっと、恥ずかしすぎるし。慌てて理沙ちゃんに目で合図すると、理沙ちゃんもおばさんに強引に一緒にいれられたらまずいと思ったのか、素直に先に言ってくれた。
「そう、じゃあまあ、冷たいお茶でも飲んでゆっくりしなさい。あ、前に言っていたお菓子作りだけど、明日一緒にしようね。お土産に持って帰れるよう、ちゃんと考えてるからね」
「ありがとう、おばさん。何つくるの?」
「パウンドケーキだけど、どういうのがいい?」
おばさんはレシピ本を出して私に見せてくれた。パウンドケーキって一言で言っても、凄い種類がある。チョコレートや抹茶、フルーツも色んなのがある。おばさんが自分が作ったのはああだこうだと色々説明してくれたので、それを聞きながら明日作るのを決めた。
「よし。じゃあ決まりだね。お墓から帰って、お昼の前くらいに作ろうかね。お昼を食べて帰るくらいには冷めて持ち帰りやすいからね」
「うん! 楽しみだなぁ」
「……春ちゃんはほんとに、いい子だねぇ。あの子が親孝行なんて言い出したのも、春ちゃんのお蔭だよ。二人暮らし、心配してたけど二人とも仲良くやってるみたいでよかったね。どうだい? 理沙は。ちゃんとしてくれてるかい? ここだけの話にするから、正直に話してくれていいんだよ」
「えっと」
二人っきりで話す機会はなかったからか、おばさんがそんな風に聞いてくるのは初めてだ。でもここで下手なことは言えないよね。あんまり駄目だししてもだめだし、かといって惚気たら駄目だし。うーんと。
「えっと、理沙ちゃんはちょっとだらしないところもあるけど、優しいし、一緒に暮らして毎日楽しいよ」
「そうかい? そう言ってもらえると嬉しいけど……あの子の優しさはわかりにくいからね。春ちゃんが気の利く子で嬉しいよ。これからも仲良くしてやってね」
「う、うん。あの……うん。ずっと、仲良くするよ。あのね、おばさんも、これからもよろしくね」
「ああ、そうしておくれ」
なんとか無難に話ができたし、おばさんに疑われている感じもない。大丈夫だった、かな?
そのままいい感じの流れで、理沙ちゃんがお風呂からあがってきたので下着以外は理沙ちゃんのを借りることにしてお風呂に入った。下着はそのままでいいけど、今服を着て夜寝間着着て明日もう一回着るの微妙だしね。
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