5話 魔法図書館

 収納箱の原型を作った人は一人の魔術師だったという、元々空間に物を入れる、空間を作りそこに自分の住処を作るというものは数多くある、世界各国の民話や神話に出てくる幻の島、幻の国、幻の家しかしそれらは各々の魔力の使用量があまりにも大きく規模が大きくなるにつれて負担がとても高いため中々作ろうとしているものはいなかった。

 しかし、その魔術師は収納箱という名の魔道具を作り出した、空間を司る神や悪魔の魔術を学び魔力消費を極端に減らし誰もが使えるその箱は今では箱にとらわれず様々なものに進化していった。

 今では数多くの魔術が使えるもの達が当たり前のように持っている代物となっている。


「ーーーーという訳だ、その魔術を学んだ悪魔達の複数が僕や貴公、アガレス様やバエル陛下もいる72柱なんだよ、まぁ結構代替わりしちゃって何人か変わってしまったけど実力のある者はかわりないちゃんと古い歴史を持っているのに・・・・・・それを忘れているアイニ、貴公もうちょっと君の所属してるとこ気にするべきだと思うのだよ」


「だーーっ! 相変わらずめんどくさいなお前! そんなのいちいち覚えてられるか!」


「覚えるべきだ、これを気に図書館で学ぶことをおすすめするよ」


「絶対やだね!!」


 私達はフェネクスに案内されながら図書館の入り口前まで進んで行った。

 途中収納箱の歴史も教えてもらいながら移動する、外見はこじんまりとした家なのだが所々鳥モチーフの装飾や模様が目立つ、私が気になって見回しているとアイニからフェネクスは元々鳥の悪魔だからこういうモチーフが多い建物にしていると教えてもらった。

 なるほどと納得すると私達はそのまま中に入っていく、中は広い空間で中央にぽつりとカウンターのようなものがあるそこにちょこんと鳥が一羽とまっている。


「さぁ、お二方まず図書館に入ってもらうためにサインを書いてもらうよ、簡単な入館チェックも兼ねているのでちゃんと書いてくれたまえ」


 私達がカウンターの前にいくととまっていた鳥がカウンターからペンと分厚い帳面を取り出し私達の前に置いた、帳面を開くとそこには様々な名前が書かれているアイニがまず先に見本として書くと続けて私も名前を書く、書き終えると鳥が突然口を開いた。


「調査完了、一名要注意、一名人間異常特二無シ」


「しゃべった!」


「了解、この鳥は防犯装置代わりの魔物だよペンから相手の魔力を感知して危険性がないか調べるのさ」


 私が感心して鳥をじっと見ていると、フェネクスは持っていた本の束を置くとカウンターからベルを取り出した。

 黒色の特に模様もないそのベルをフェネクスは鳴らす。

 カランという音が鳴ったかと思うとカウンターの奥の空間がどんどん歪んでいくのが見える、次第に奥の壁や天井が突然伸びる、伸びている床からどんどんと柱やドアなどが出てくる最初にあったカウンターしかなかった部屋がいつの間にか広い大きな部屋に、カウンターの奥に巨大な扉が出来上がっている。

 その摩訶不思議な光景に目を輝かせていると、フェネクスはそのまま扉の前まで行くと扉をそっと触る、触った瞬間扉は大きな音を立てながらゆっくり開いていく、扉が開き終わるとその奥に先が見えないほどだだっ広い部屋が広がっていた。


「さぁお二方どうぞこちらへ、目的の場所に行くがてら色々この図書館を見て回りましょう」



***



 フェネクスに案内され中に入り館内を見て回る、私の住んでいた屋敷の書庫よりも圧倒的に部屋の広さ、本の量、本棚の大きさなどありとあらゆるものが規格外だった。

 天井はまるで見えない、柱のようなものがいくつか立っていると思えばそれは本棚で柱のように天井まで続いており、壁一面も本棚で上に続く階段や梯子も見える。

 所々に机や椅子が置かれており、利用している悪魔や魔術師のような人達がそこで何かを書いたり読んでいたりしている。

 時々本を取っているのだろうか、本が浮いてスッとどこかに移動したりしているのが見えた。

 本の量は当たり前に多い、英語で書かれていて読めそうなものやどこかの国の言葉さらにはわからない図形のような謎の文字の本もある、私はその大量の本を見て思わず興奮で思わずにっこりと満面の笑みを浮かべてしまった、それを見たアイニはにっこりと笑う。


「お気に召しそうかなアリス?」


「えぇ! とっても! 今から本当に楽しみというか・・・・・・いや目的の場所ももちろん気になるんだけどこんなに知らない本があると興奮が止まらなくて!」


 大きな声を出さないようにしつつ話していると、フェネクスがここの本や図書館について詳しい話を教えてくれた。

 元々こういう魔法図書館というものは各地に多く存在する、フェネクスの図書館はその中でも童話や詩集を集めた作品を中心としている特殊な図書館なのだという。

 しかし、物語以外ももちろんあり、今ここを利用している悪魔達は魔術書などを目当てに利用している。

 物語は小さい子供やそういったものが好きな悪魔が見ていたのだが今現在一部の本のみしか貸し出しを許されていない、それ以外は私達が向かおうとしている場所で厳重に封印されているそうだ。


「そして、ここの部屋が貴公らにお願いしたい部屋である」


 フェネクスがぴたりと足を止めると、そこにはどこか不気味な雰囲気のある大きな扉の前についた。

 先程入ってきた扉よりは圧倒的に小さいが雰囲気が気持ちが悪い、何がと言われると言い表せないがじっとりとした何かが纏わりつくような嫌な感じがする。

 私が緊張しながら腕輪をそっと触る、その瞬間スッとアイニの手が私の手に触れる。


「大丈夫、俺も陛下のお守りもあるんだ安心して」


 私はこくりと頷く、フェネクスはそれをチラリと見るとそのまま扉の鍵を開け中に入る私達もそのまま後に続いていく。

 不気味な雰囲気は相変わらずだが腕輪やアイニのおかげかそこまで怖くはない、部屋は薄暗いどうやら元々窓が小さい部屋のようだ、天井にポツポツと窓の明かりのようなものが見える。

 フェネクスはそのまま手を掲げると、部屋に置いてあるランプや蝋燭に火が灯っていく。

 気がつけばあたりはすっかり明るくなっていた、部屋の中は大量の本が山積みになっているよく見ると本の一冊一冊が黒く煤けているようなカビのようなシミのようなそんな黒いあとが見える。

 不気味な雰囲気はどうやらこの黒いあとのようなものからしているように感じた。


「あの、フェネクスさんもしかしてこの本が・・・・・・」


「えぇその通りです、これが僕が治してもらいたい本達だ」


「一体この本に何があったのでしょうか・・・・・・?」


「それはーーーー」


 フェネクスは苦虫を噛み潰したような顔をすると、ため息を漏らし訳を話してくれた。



***


 ことの発端はとある上位悪魔の悪戯からだったのだという物語をもっと面白くしたいからと中の人物達の性格を変えたことがきっかけてある。

 変えた瞬間このような黒いあとが広がってしまい中を読むと内容が大きく変わっていたという。

 フェネクスは急いで修復しこの被害をバエル王に報告した、報告を受けてその上位悪魔に対しバエル王は厳しく注意をしたそうだ、上位悪魔もその事は周りや神にも怒られたので反省していると言ってその場は治ったかと思ったが、黒いあとの本が次々と出てくるその上位悪魔かと思っていたらどうやらその悪魔はそれ以来そういうことはしていないと逆に怒られてしまったそうだ。

 黒いあとの本を読んでしまった悪魔達の被害は様々で怪我をしたもの、恐怖で病んだものそして死んでしまったものもいる。

 しかし、フェネクスの修復作業よりも圧倒的に被害は増え日に日に多くなってしまい今や修復が追いつけなくなってしまい困ってしまった。


「そこで、陛下に頼んで童話を知っているものに中に入って修復してもらえないかと協力申請を申し上げました、そしてそれに貴方が選ばれたのだよ」


「死んでしまった人もいるんですね・・・・・・」


「死因は簡単で本の中の住人に殺されてしまったのが多い、皆こんな本で殺されるとは思っていませんでしたし、装備もしっかりとなんて読んでいるときにしないでしょう?」


「確かに基本はしねぇもんな、やばい魔術書や禁書はともかくとして・・・・・・さらに子供がよんでるんじゃなおさらそういうことはしないだろうなぁ」


 私は少し緊張してまた腕輪をぎゅっと握る、物語を楽しみに呼んでいたのにその中で殺されるだなんてその子は一体どういった気持ちだったのか、さぞかし無念だったのではないかと思ってしまった。


「大丈夫だよアリス、絶対アリスの事は俺と旦那のそれがちゃんと守る」


 真剣な面持ちでアイニがいう、私はなんだかホッとしてしまいにこりと微笑んだ。


「まぁ本当で守ってもらえることは間違い無い、だからのアイニなんでしょうから」


「? それはどういう事なのでしょうか?」


 フェネクスはまた苦虫を噛み潰した・・・いや心底嫌そうな顔をして大きくため息をついた。

 この後その訳をフェネクスから教えてもらい、アイニが怒り一大事になるとは私は思いもしなかった。





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