その7「21回目の」
「…クソッタレ、またなのかよ」
目の前の惨状に、そう声を漏らす。
オレの前には仲間の死体。無惨に引き裂かれたものやバラバラになったもの、ありとあらゆる方法で虐殺されたヒトの成れの果てが転がっていた。
仲間を害した張本人は見えないハズの眼で此方を見た。眼を潰したくらいじゃ機動力は衰えず、逆に発達した聴覚を用いて襲いかかってくるのだから参った。なんだよそれ、五感のうちひとつを奪われて行動出来るとか、人間辞めてんじゃねぇのかコイツ。
…まあ、実際に人間を辞めてはいるのだろう。一応見た目は成人男性のそれだったが、異様な程発達した筋肉と獣の如き牙を見てしまった後ではどうやってもコイツを人間と認識する事は難しい。コイツはまさしく化け物だ。
その化け物さんは残りのひとり―オレを見据える。足は動かないし、このままじゃ喰われておしまいだ。
最後の抵抗を試みようとして手に持っていたハンドガンの引き金を引くが…弾は出ない。どうやら弾切れのようだ。まあ仮に撃ったとして、アイツに通用するかどうかは怪しいのだけれど。
もう終わりかとぼんやり思う。かつては世界に蔓延る怪物を一掃してやるなんて豪語していたオレがこんなイノシシ人間もどきに負けて一生を終えるなんて…世界中の怪物どころか自分が住む街の平和さえ守れないのだから情けない。
…いや、違う。
終わりじゃない。まだ続きがある。
「カミサマ」が諦めない限りオレは何度でも繰り返す事が出来る。そういう呪いを受けていたのでは無かったか。
今までの記憶もしっかりと脳に刻み込まれている。それを活かしきれなかったからこうなっただけなんだ。
次はうまくやる。
対処法もなんとなくだが見えてきた。今までは傷一つ負わせられなかったのに今回は目を潰せたのだ。次はもっとうまくやれるはず。
だからカミサマ―もう一度オレにチャンスをくれ!
化け物が腕を振り上げる。
覚悟しろとオレは叫ぶ。次こそはテメェをぶっ殺す―負け犬の遠吠えにしかならないと分かっていても、そう叫ばずにはいられなかった。
次の瞬間、化け物が腕を振り下ろした。
オレは為す術なくそれに潰されて―何度目になるのかも分からない死を迎えた。
* * *
「あークソ、またかよ!」
おれはゲームのコントローラーを投げながら叫ぶ。
画面にはGAME OVERの文字。【リトライしますか】というダイアログボックスが出てきたので、どうしようか逡巡しながら投げたコントローラーを拾った。
「まだやってるの?」
幼馴染のちーが呆れた様に言う。
「だって仕方ねーじゃん。一面のボスがこんなに強いなんて聞いてなかったし」
「一度休憩すれば?そんな連続でやった所で結果が良くなるわけでもないんだし」
うーむ、とおれは唸る。
確かにゲームを初めてからかなりの時間が経ってるし、これ以上幼馴染を放っておくのもどうかと思った。折角家に来てくれたのに放ったらかしにされたらいい気分ではないだろう。
「…はぁ、じゃあ一回休憩するか」
おれは呟き、ダイアログボックスの選択肢で【いいえ】を選択してからゲームの電源を切った。
「お菓子勝手に食べてるけど」
「ん?ああ大丈夫」
おれはテーブルに置かれていたクッキーを口に放りこみ、オレンジジュースを飲む。やっと人心地ついたという感じだ。
すると幼馴染が今まで見ていた携帯端末から目を離し、おれの方を向いた。
「そういえばさ、何回リトライしたの?」
「ん?ゲームの事か?」
「そうそう」
何回だったかな…数えるのやめてたしな…。
「…たしか20回だったかな」
「という事は登場人物は20回殺されてると」
「罪悪感を煽る事を言うな」
「そんなに殺されてたらプレイヤーの事恨むんじゃないのかなぁ」
「いやいや、それはないだろ」
ゲームだし、そんな事はない…筈だ。
だけど20回も繰り返してるわけだし、恨まれても仕方ないよなぁ…そんな事をぼんやり思った。
* * *
その後、忙しくなった事もあって中々ゲームは出来なかった。いつしかゲームは押し入れにしまい込まれ、そのまま時間が過ぎていった。
おれがそのゲームの存在を思い出したのは、数年後の事。大学を卒業し、仕事に慣れてきた時の事だった。
実家に帰省した時にたまたま見つけ、そういえばクリア出来なかったなぁなんて思いながら電源をつける。
ふと、数年前に幼馴染とした会話を思い出した。
20回失敗して、しかもその後放ったらかしにしていたんだ。もしゲームに意思なんてものがあるとしたら、相当おれの事を恨んでいるのだろう。
ゲームは淡々と進んでいく。数年ぶりにプレイしたにしては中々の腕前だといえる。
そして…昔倒せなかったボスの所まで辿り着いた。
主人公と仲間達が得物を構え、ボスもそれを迎え撃とうと雄叫びをあげる。
数年ぶり、21回目の挑戦だ。
こころなしか、敵に突っ込んでいく主人公が「またチャンスをくれてありがとな」と言っている様に思えた。
まあゲームなので、おれの妄想でしかないのかもしれないけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます