その5「スマホのお話」

 朝起きると、枕元に置いてあるスマホをチェックする。

 メッセージアプリをチェックし、SNSをチェックし、ついでに複数入れている漫画アプリで更新されている漫画を読む。そして…それが終わると小説投稿サイトを開き、自分の小説の閲覧数と評価を確認。閲覧数は昨日見た時と対して変わらず、特に評価も得られてない事を確認してがっくりと落ち込む。

 ひとしきりいじけてから布団に別れを告げ、トースターに食パンを突っ込んだあと身支度を整える。チンという音がしたらトースターからこんがり焼けたトーストを取り出し、バターやらなんやらを適当に塗って食べる。休みの日はここでスマホを弄り、適当な音楽を流す。

 朝食が済み、歯磨きも済ませると大学に向かう。道中はスマホで音楽を流し、イヤホンで聴きながら歩く。古いスマホなので充電の消費も激しく、この時点で残りの充電は80%を切っている。

 大学に着いたら流石にスマホを弄っている余裕は無いので、機内モードにして講義中に音がならない様にしてから講義に臨む。大学にはノートパソコンを持っていっているし、大抵の調べ物ならそれで出来るので特に使い道も無いのだった。

 そうこうして講義が終わり、アパートに帰り着くと夕食を食べたり風呂に入ったりし、軽く予習をしてからスマホの機内モードを解除。メッセージアプリやらSNSやらを確認してから、メモ帳機能を活用して小説を書く。

 そんな事を続けていると夜も遅くなり、スマホの充電も無くなってくる。そこでようやく歯を磨き、スマホを枕元の充電器に差してから眠りにつく。


 …これがわたしのスマホの使い方だった。

 一応携帯電話であるはずのスマホを本来の用途で使用せず、音楽を聴いたり小説を書く目的で使っている理由はただひとつ。

 わたしに友達がほとんど居ないからだ。


   *   *   *


 スマホの話をしていたのだった。

 場所はわたしの部屋。テーブルにはスナック菓子とジュース。そして、わたしの対面にはスナック菓子を幸せそうに食べる幼馴染が。


「ふうちゃん、そんなに食べると夕飯食べられなくなるよ?」

「別腹だから気にすんな…それより、何の話だっけ」

「スマホの話。ふうちゃんのスマホって新しいやつでしょ?どんな使い方してるのかなーとか気になってさ」


 ふうちゃんはスナック菓子を飲み込み、ジュースで喉を潤してから持っていたウエットティッシュで手を拭く。そしてポケットから最新型のスマホを取り出した。背面にカメラがふたつ着いている機種で、ふたつもカメラ必要なのかな、とわたしはいつも思う。


「どんな使い方って…別にふつーだよ。電話したり、ゲームしたり、漫画読んだり…あ、でも少し変わってるかもな」

「変わってる?」

「レポートの下書きとかコイツに打ち込むもん。パソコンより書きやすいし、使いやすいからな。清書の時はパソコンで書いてるけど」

「…それ二度手間じゃない?」


 わたしがきくと、ふうちゃんは「そうでもないぞ?」と言ってスマホのメモ帳をわたしに見せた。確かに、レポートと思わしき文面が並んでいる。


「パソコン無くても書けるのはかなりデカいぜ」

「そうかなぁ…」

「そういうちーだって小説スマホで書いてんだろ?」

「まあ、そうなんだけど…」


 言われてみればそうだ。

 スマホに馴染んでしまった分、執筆スピードはスマホの方が早いし、それ以外にスマホの使い道も無いので小説はスマホで書いている。


「でもそれだけならガラケーでもいいよね…メッセージアプリも家族と公式アカウントとふうちゃんしか来ないし、最悪メモ帳だけがあればいいんだから…」

「…だから機種変してないのか?」

「え?」


 ふうちゃんはわたしのスマホを見ながら言った。


「ちーのスマホ、相当昔のだろ?今時そんなの使ってる人なんて少ないだろうに」

「…別に。最低限の機能だけあればいいし」


 少し前、大学でスマホを弄っていた時に傍を通りがかった女子学生ふたり組がわたしのスマホを一瞥して「あんな古いの使ってんのー?」「田舎モノだよねー!」なんて言いながら通り過ぎていった事があった。たかがスマホの機種如きでバカにされるなんて、とわたしは思ったけれど、思えば現代社会なんて理不尽の巣窟なので別に珍しい事でも無かった。忙しいというのもあるが、あの出来事があってからわたしは大学でスマホを使わない様になった。


「そうは言っても、修理とかの問題もあるだろーし機種変はしといた方がいいんじゃねぇの?」

「まあそうなんだけど、そんなお金無いし…」

「親御さんは?」

「使える限り使えって」

「ちーは物持ちいいし、しばらくは使えそうだけどなぁ…バッテリーは何回か替えたんだっけ」

「2回変えたよ。うーん、でも買ってから6年は経ってるし、そろそろ機種変しようかなぁ」

「ま、機種変するなら言ってくれればおすすめのヤツ紹介するよ」

「うん、ありがとう」


 ふうちゃんはニッと笑うと、またスナック菓子を食べ始める。

 わたしは自分のスマホを見つめながら暫くぼんやりしていた。


   *   *   *


 結局、機種変する事にした。

 親をなんとか説得し、最新型では無いけれど今使っているスマホよりかは遥かに新しい機種に買い換えたのだ。

 スマホを買い換えたからといって何かが変わる訳でも無い。相変わらず使用用途は限られているし、時々スマホそのものが必要無いんじゃないかと思う事がある。

 だけど、わたしはわたしの使い方でこのスマホを使いこなしている。文明の利器ではあるし、役立つ事は間違いないから。

 ただ、ぽんぽんと機種変するのでは無く、大事に長く使う事にしているので、周りが持っているスマホが新しいものに変わって行っても、わたしのスマホだけは変わらない。

 でも、そっちの方がいいよなぁと、わたしは思うのだ。

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