できた後輩

小丘真知

できた後輩

また来た。

下の階からのクレーム。

以前ベッドの音がうるさいとかなんとか管理業者を通して言ってきた。

しょうがないからリビング兼寝室に防音マットを敷いたばかりなのに。

今度は廊下を歩く足音がうるさいときたもんだ。

そりゃあ、頼れる後輩のナオヤくんに愚痴のひとつでもこぼしたくなる。

「ナオヤ先輩!」

「先輩じゃないです。サトル先輩、こちらはこちらで彼女とアレなんで大変忙しいんですけども」

「お願い!アタシはどうしたらいいのかしら!」

「その口調やめてくれます?」

「下の階の人がまた言ってきたんだよぅ」

「…ちょっと待ってください」


ナオヤはそう言うと、書きかけのLINEを閉じて俺の話を聞いてくれた。


「なるほど。そういうことでしたら…僕のベッドをあげますよ」

「あのふかふかの?」

「あのふかふかの」

「なんで?」

「新しいのを買おうってことになってて、ちょうど今、そのベッドのことで彼女とやりとりしてたんです。もし良ければもらってくれませんか。先輩のベッド、スプリングが問題だと思うんで。僕のベッドを入れて防音マットを廊下とかに敷き詰めれば、クレーム落ち着くんじゃないですか?」

「なるほどぉ!」

「今度、先輩実家に帰るって言ってましたよね。ってことは、少し家空けますよね」

「そうそ」

「じゃその間にベッド組み上げて、先輩のベッドは業者にでも出しておきます」

「まじかっ!?すばらしい後輩だな」

「鍵はいつもの所でいいんですよね」

「サンキュー!今度すた丼奢っちゃるわ!」

「いえいえ。借りは別で返していただきますので」


そんな会話をして大学からアパートに戻り、俺は実家に帰省した。

大した用事ではなかったので、2泊3日ほどで俺はアパートに戻った。

玄関を開けると、防音マットが綺麗に敷き詰められた廊下が目に入る。

ナオヤにしてはずいぶんと几帳面な仕事だな、そんなことを思いながら部屋に入ると、そこにはふかふかベッドが置かれていた。

テーブルには ”これで貸し借りなしということで” と書かれた書き置きが。

なんてできた後輩だ、と思いながらベッドに寝そべってみた。

静か。

ふかふか。

いいね。

これでわずらわしいクレームを聞かなくて済む。

少し部屋を圧迫するけど、まあどうせベッドが椅子みたいなもんだし。

そんなことを思いながら、ふかふかの感触を全身で堪能している時だった。



ピンポーン、とチャイムが鳴った。



はい〜? 玄関を開けると、そこにはスーツ姿の男が数人。



「警察です。ちょっとお話うかがってよろしいですか?」



その後、俺は逮捕された。






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