第6話 図書館
自転車を止めて空を見上げる。今日もまっ赤な太陽がのぼっている。
日光がサンサンとふり注ぎ、ぼくの肌をじりじりと照りつけている。
「今日も暑いなぁ」
図書館の玄関前まで来ると、ガラスの自動ドアが小さな音をたてて開く。
中に入るとすずしい空気が、ぼくのあつくなった体を冷やしてくれる。
左には
正面には大きな階段があって木の香りがする。ぼくは、お父さんとお母さんといっしょに行った温泉を思い出した。たしかあれは、ひのきという木だった。
この階段に使われている木は、なんていうんだろう。
「おーい拓也。こっちだ、こっち」
おくから陽平くんの声が聞こえてきた。
階段をのぼらず、おくへ向かうと、ベンチやソファーが置かれている場所がある。
「キサラギジャックの手がかりをさがすぞ!」
「あの、図書館では、もうすこし声を……」
「気にするなよ。ここはエントランスだから話してもだいじょうぶだ」
「そうなんだ。陽平くんは図書館にくわしいんだね」
「いや、ぜんぜん」
「え?」
「本ぎらいなおれが図書館に来ると思うか?」
言われてみればそうだ。陽平くんは、小学校の図書室でさえ寄りつかない。
「でも、本がきらいなのに図書館に来てもだいじょうぶ?」
「いくら俺が本ぎらいでも、本アレルギーってわけじゃないぜ? 本を読むとくしゃみをしたり泣いたりするわけじゃないからな。そこんとこかんちがいするなよ?」
「そうだよね。そうでなかったら教科書も読めないもの」
「おれは本がきらいだし、できれば見たくもない。でも、キサラギジャックをさがすためなら図書館が一番だからな。それに、ここなら本を読まなくても調べられる」
「本を読まずに調べる?」
陽平くんはニカッと笑う。
そして右手の人差し指をまっすぐ向けた。その先には、郷土資料室がある。
「キサラギジャックは城江津市のヒーローだ。なら、あそこに手がかりがある!」
「うーん、見つかるかな……」
この町のヒーローと言うわりに、キサラギジャックのことを知る人はすくない。
ぼくをのぞけば、ヤクシのおじいさんと陽平くん、黒田くんの3人だけ。
父さんや母さんにも聞いてみたけれど、知らないと言っていた。
「そういえば、キサラギジャックという名前をつけたのはだれなんだろう」
だれもその姿を見たことがないのに、どうして名前がついてるんだろう。
名前をつけたのは、やっぱりヤクシのおじいさんなのかな。
「ああ、おれも気になってたんだよ。だれも見たことがないのに、どうして名前なんてついているのか。それで、じいちゃんに聞いてみたんだよ。そしたら……」
「そしたら……?」
「忘れたってさ。いやあ、聞いたのがおそすぎたな。その時には、じいちゃんも仕事をやめていたし、もの忘れもひどくなってたから」
ぼくは、がっくりと肩(かた)を落とした。
キサラギジャックが本当にいるのかどうか、どんどんわからなくなる。
ぼくらが資料室に足をふみ入れると、いろいろなものが
「なあ拓也。これ見ろよ」
先を歩いていた陽平くんがなにか見つけた。
急ぎ足で向かうと、大きくて透明なガラスケースの中には
「これ、もしかしてキサラギジャックが書いたんじゃないか?」
陽平くんは目をキラキラと輝(かがや)かせている。
ぼくは、掛(か)け軸(じく)のわきに書かれていた説明に目を向ける。
「ううん。これは、昔のえらい人が書いたものみたい」
「だよな。やっぱりそうだよな」
陽平くんは肩を落とした。
けれど、すぐにとなりへ移動してまた目をキラキラさせる。
「おっ! これは、キサラギジャックのスーツじゃないか!」
「えっと、これは……」
むかしの人が着ていたよろいをスーツというのは、どうしても無理があった。
陽平くんもわかっていたみたいで、なにも言わずに移動する。
それからふたりで資料室をまわって見た。
古い書物や工芸品などいろいろある。
これならキサラギジャックに関するものもあるかもしれない。
ぼくはそう思ったし、陽平くんも同じことを考えていたと思う。
けれど、そういったものはひとつもなかった。
仕方なく次の部屋に行こうとしたら……行き止まり。
つまり、そこが最後の部屋だった。
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