とりあえず客人扱いらしい

「なーる…、そういう事か。まあいい。

ここではお前らが客人だからな。…森と湖以外は何もない城だが、中に入ってゆっくりしていけ」

「ああ、そうさせて貰う」


シグマが頷いたのを見定めると、リックはちらりとクレアとライムに目を走らせた。


「クレアはドラゴンに戻った方がいいな。それからライム、お前も遠慮しないで休んでいけ」

「えっ? …い、いい…んですか?」


ライムが戸惑いながらもぎくしゃくと敬語を使う。

それにリックは、今までの経過から、ライムの本性を知っているだけに固まった。


「…何だ、その不自然な敬語は? 別に、今まで通り、普通に話してくれて構わないんだぜ」

「そうそう。下手な敬語などは、お前らしくないとさ」


クレアが余計なツッコミを入れる。

それに当然ながら、ライムの頭は一瞬にして沸騰した。


「!クレア──っ!」


怒り狂うライムを後目に、クレアは口元に笑みを残しながら、ちびドラゴンバージョンに姿を変える。

そしてそのまま、クレアはシグマの陰に逃げ込んだ。


…シグマが呆れ顔で溜め息をつく。


「逃げたな、こいつ…」

「そこ退いて、シグマ! もう怒ったから焼いて食うわ!」


凡そドラゴン相手には発しないであろう凶悪な言葉に、リックの頬には冷や汗が流れる。

…上流貴族の娘以前に、レディそのものにあるまじき発言だ。


「おいおい…クレアなんぞに手ぇ出した日にゃ、逆に黒焦げにされちまうぞ。

いいから、早く中へ行こうぜ」


リックに促されるまま、今だ興奮気味のライムと、平然とした面持ちのクレア、そして微々たる頭痛を覚え始めたシグマが城内へと歩を進める。

彼らが去った後、残された門番たちは、必然的に顔を見合わせた。


「…しかし、見たか? あの、ドラゴンを連れていた少年」


…どうやら、彼らの興味は当然の如く、王子が唐突に引き連れてきた青年・シグマにあるようだった。


「ああ。確かに何処かで見たことがある…が、思い出せん」


門番二人は首を捻る。


「確か…以前は、王の客人として来ていたと思うんだが…」


呟くようにひとりがその事実を口にした途端。

もうひとりは、はっと気付いたように息を呑んだ。


「!…もしかすると、あの青年は…!」

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