あいつをどうしてくれようか
「!知っているのか、リック」
意外な所から重大な情報が溢れ、シグマは一瞬にしてリックの話に引き込まれた。
それに、今度はリックの方が頷いてみせる。
「ああ。…巷じゃ、畏怖の意味で有名な“闇打ち野郎”さ」
「闇打ち?」
正体の掴めないシグマが問い返すと、ここファルスでは彼は余程有名なのか、続いてライムが口を開いた。
「そ。…夜になると、時間とか場所とかなんて全然構わずに、この国の官僚とか、お偉いさんを襲うのよ。片っ端からね」
「まあ魔法剣士なら、そんなものは意味もなく、またお構いなしだからな。無理もないが」
溜め息混じりに呟いたクレアを軽く視線でなだめ、シグマはその心理的にか、何となく先を急いだ。
「それは別にいいとして、あのルーファスが、なぜ闇打ちなんかしているんだ?」
「さあな。…悪いが、分かってるのは、そのルーファスって名と、闇打ちの事実くらいのもんだからな」
言いながらリックは、同意を求めるようにライムを見る。
それにライムは頷いたが、次には、はたと気付いたようにシグマに話しかけた。
「ところで、何で、そのルーファスって人の事を探してるの?」
「殺すため…と言ったら驚くか?」
その内容に反して、シグマは極めて真顔で呟いた。
それがさも当然のように、そしてその中にも確固たる信念を持って放ったシグマの言葉に…
言うまでもなくライムは愕然となった。
「えっ…!?」
「ライム、お前には、シグマの言葉の持つ意味は…分からないだろうな」
クレアが、厳しくも宥めるように話しかける。
その意味を測り、ライムは、我知らず眉をひそめ、唇を噛み締めていた。
…固く閉じられた唇が、解かれる。
「知らない…けど、どんな理由があったって、人を殺すっていうのは…ちょっとまずいんじゃない?」
ライムが呟いた一般論に、クレアはふと、目を尖らせた。
…それが大衆の平均的意見であることは分かる。
そしてそれを、理解してもいる。
だが、シグマに限っては…!
「…、それは、知らないからこそ言える台詞だ。シグマの父親は…
奴に…ルーファスに殺されたんだぞ」
クレアが放った衝撃的な事実に、リックは驚愕し、ライムは反射的に口元を押さえた。
「!なっ…」
「嘘っ…!」
「嘘じゃない。──俺が19の誕生日を迎えたその日に、父親は…奴に殺されたんだ。強力な、魔法剣の一撃で…」
その口調は今まで同様、淡々としているが、明らかに暗いものへと変化を遂げていた。
そんなシグマの複雑な心境を察したリックは、ただ…術もなく呼びかける。
「シグマ…」
すると、シグマはそんなリックに心配をかけぬように配慮したのか、自らのその決心を、強く己の拳に反映させた。
…開かれていた手が、きつく握られる。
それは是が非でも父の仇を討とうとする、シグマの決意の表れでもあった。
「だから俺は、何としてでも奴を見つけ出して…同じように殺してやるつもりだ。その為に魔法と剣を覚えたんだからな」
…そう、全ては“ルーファスを殺す為に”。
あの時に手を打てなかった弱い自分を、打ち消すかのように──
取り付かれたように剣を振り、魅入られたように魔法を使い続け…
そして、今の自分が存在している。
「!で、でも、見つけ出すって言っても…手掛かりが全然ないじゃない! 相手は魔法剣士だし、そう簡単には──」
「手掛かりなら、さっきお前が自分で言っただろう?」
…この一年。
学んだのは剣や魔法だけではない。
「え? あたし、何か言ったっけ…?」
…状況の見極め。
相手が居る時の会話の読み取り、そして駆け引き…
それから。
「ああ。奴は夜になると、この国の重役を、片っ端から闇打ちにする…と」
…事実から成る、狡猾な策の労し方…!
「ああ、そのこと? …そりゃ確かにそうだけど、それが一体何の関係があるわけ?」
…その全ては、“奴を殺める為に”。
「大有りだ。重役に相応しい、うってつけの人物がいるからな。
そいつを囮にすればいい」
…すると。
何か良からぬことを気配で察したのか、リックが抜き足差し足忍び足…で、その場からそろりそろりと離れようとする。
しかし、目ざとくも勘のいいシグマが、それに気付かないはずはない。
「おい…何処へ行くつもりだ? リック」
こうなればもはや逃げられるはずもない。
リックは諦めたように肩を落とした。
「…ったく、結局またこうなるのかよ。俺って不幸…」
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