またひとり増えた

この、素直ではあるが、凡そ若者からはかけ離れたような感想に、ライムの瞳の乙女ちっく(!)は、一瞬にして鳴りを潜めた。


「何だか、妙におっさんくさいわねー。…それよりも、肩に乗ってる“それ”、一体何なの?」

「──ああ、こいつか?」


シグマが自分の肩に居るドラゴン…、クレアを見やると、ライムは頷いた。


「そう。それってもしかして、ドラゴン…なんじゃないの?」

「鋭いのか鈍いのか… まあ確かに、こいつはドラゴンだ。名は、俺はクレアって呼んでる」

「クレア? オス、メス、どっち?」

「そのうち分かる」


何となく取っ付きにくいこのシグマとのやり取りに、何となく不満を感じたライムは、そのまま唇を尖らせた。


「何よ、いい加減ねー…って、ちょっと待って!?」


ライムがぎょっとしたのは他でもない。

…再び、近くの草むらが動いたからだ。


僅かに警戒心を見せたシグマと、悪夢の再現を想定し、肝を冷やしたライムがそちらに目をやると、そこから不意に、シグマと同年代くらいの青年が、草を掻き分けながら現れた。


そのまま彼は、足許に転がっているハンター三人を見て、呆れたように肩を竦めた。


「おいおい、こんな所で何やってやがるんだ。ハンターともあろう者が、何でこんな辺鄙な場所で寝腐ってんだよ?」

「!あっ…すいません、お頭…!」


テオラが青年を見上げて謝罪した。

このテオラの反応と言葉からするに、彼がハンターたちをまとめる長的な存在らしい。


「すみません、お頭…! …でも、こいつ…、滅法…強くて…!」

「俺たち…だけじゃ、とても…」

「…だろうな。そのザマを見れば分かる。──さて、お前。

その、高そうで、切れ味の良さそうな剣を見りゃ分かるが…

こいつらをやってくれたのは、お前だろう?」


腕を組み、さも楽しげに、それでいて不敵に笑う青年に、シグマは何故か、ちょっとした苛立ちを見せた。


「ああ。完全な不可抗力だったけどな。…それから、ひとつだけ言っておく。俺の事を“お前”呼ばわりするな」

「へぇ…だったら何て呼べばいいんだ?」

「呼び方なんか関係あるか? 意味もなく攻撃を仕掛けてきた奴らの頭が。…まずは謝罪をするのが先だろう」


本来はライムがこの厄介事を持ち込んだのだが、という一言を、シグマはあえて呑み込んだ。

どう考えても、シグマは完全に部外者であったからだ。

それ故か彼の毒舌は、もはやそれを通り越して、痛烈な皮肉と化していた。


それに、青年は笑みと、組んでいた腕を崩して答える。


「これは失礼した。…何をしたのかは知らねぇが、こいつらのした事には、俺が詫びを入れるぜ。済まなかったな」

「こいつらよりは話が分かるみたいだな」

「まあな。…俺の名はリック、一応、ここいらのハンターのリーダーだ。それから、歳は21。多分、お前より歳上だろう」

「俺よりひとつ上か。そうは見えないな」


行動的にもそうは見えなかった、という台詞を、シグマはこれまた意図的に呑み込んだ。

しかし、その口に出さなかったはずの考えは、既に青年…リックに読まれていたらしく、リックは先程と同様に不敵な笑みを浮かべると、再び口を開いた。


「ふん…気に入ったぜ、お前。歳下のくせに、臆もせず歳上にずけずけと物を言う所がいい」

「ちょ、ちょっとシグマ、あんた、妙な所で気に入られてるってことに、気付いてる?」

「ああ。どこか納得がいかないが…リックとか言ったな」

「ん、何だ?」

「俺の事を、お前呼ばわりするなと言っただろう。…俺の名はシグマだ。これから、そう呼べばいい」


シグマがぶっきらぼうに告げると、青年は何故か、目に見えて眉をひそめた。

…その紅の瞳には、ふと何かに気付いたような、奇妙な光が浮かんでいる。


「シグマ? …って、もしかしてお前、ウインダムズの…」

「!それを知っているという事は、やはりそうか…」

「えっ? …何、二人とも、知り合いなの?」

「そーだぜお嬢さん。昔、何回か遊んだ、幼馴染みってやつだ」


リックが答えると、シグマはそんなリックの様を、軽く一瞥した。


「どこかで見た顔だとは思ったが…まさかリック本人だったとはな」

「あのなぁ、それはこっちの台詞だ。そんな物騒なものを持って突っ立ってる奴が幼馴染みだなんて、普通誰が思うんだ?」

「──ああ、これか」


シグマはようやく気付いたように剣をしまった。

そのまま、今だ足元に倒れているハンター共を見やり、呟く。


「だけど、常識外れの部下を持ったお前に言われたくないな」


これを聞いたリックが、ぴくりとこめかみを引きつらせた。

そのまま、わなわなと震える手を押さえるようにして、声を荒げる。


「そうだっ! ──お前ら、いつまで寝腐ってやがるんだ! とっとと起きて、さっさと違う持ち場に着かねぇかっ!」

「!はっ…はいお頭っ!」


頭から雷を落とされて、三者三様に、ハンター共が飛び上がる。

そのまま次に怒声が降る前に、体よく三人は、各々、捨て台詞を残して逃げ出した。


「お頭の客人とは知らず、無礼をしたね! 済まなかった!」


…とは、カナル。


「全くだ! 俺たちの三強撃をあっさり防いだのは、お頭の他には、あんたが初めてだぜ! じゃあな!」


…とは、トラント。


「お前、筋は最高に良かったぜ! 達者でな!」


…とは、テオラ。

そして、


「…アホな部下を持つと大変だな、お頭」


…と、とどめのシグマ。

それに、リックは思わず苦笑した。


「そう茶化すなよ。…それよりもシグマ、お前、ファルスに何の用なんだ?」

「そうそうそう! あたしもそれ聞きたいと思ってたのっ!」

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