いつの間にやら名乗る羽目に
少女を見ていた時の半眼の目つきはどこへやら、ほんの一瞬、その瞳に殺気を浮かべる。
「ふん、月並みな台詞だな。そんなのは、俺の技量と速さ次第だろう。
…まあ、お前らの“腕次第”でもあるけどな」
「減らず口を! 今すぐその台詞を謝罪に変えてやるからね!」
「そうだな、ここまでコケにされて、黙って引っ込むのも癪だ。腹いせに、その綺麗な顔をずたずたに切り刻んでやるか!」
「で! ドラゴンは頂き、女は逆さ磔。うむ、いい計画だな!」
とんでもない内容を、いとも平然と話すハンター共を、少女は唖然としたまま見つめていたが…
やがてその“内容”に、ふと訂正箇所を見つけ、それからようやくそれに気付いたようにぎょっとした。
「何で吊し上げから逆さ磔に進化してるのっ!?」
「やかましい! そもそもの発端人がいちいち喚ける立場かっ!」
テオラは、どこか能天気な少女の絶句に、苛々と口調を荒げた。
いかにもこんな話には付き合えない、と言わんばかりに軽く息をつくと、仲間の二人に視線を走らせる。
「──もういい、カナル! トラント!」
「ああ!」
「分かってる!」
二人が一様に頷き、次には三人が示し合わせたように剣を抜く。
そのまま否も応もなく、ハンターたちは青年に斬りかかって行った。
「3対1では分が悪いかも知れないが…悪く思うな!」
「死になっ!」
「!──…」
青年の、ハンター共に対する目つきが変わった──とそう少女が認識した次の瞬間。
襲いかかったはずの三人は、低い呻き声をあげ、揃いも揃って為す術もなく青年の足元に転がっていた。
「…う…、うう…」
「…ば、…ばかな…、あたしたち三人を…っ、一瞬で…!?」
「く…、くそっ…! 太刀筋が全く読めなかっただと…!?
この力…何なんだ!? 化物か…!?」
三者三様にハンター共が愕然とする中、青年は手にしていた剣を鞘に収めた。
「仕掛けてきたのはそっちだからな。悪く思うなよ」
痛烈なまでにやり込め、後はまた我関せずといった様子を露にした青年に、少女は興奮気味に目を輝かせた。
「すっ…、すっごく強いじゃない! そんなに強いくせに、何で、さっきはあんなきっつい事…!」
きらきらとした視線をまともに向ける少女に、青年はそれとは明らかに対比した、お馴染みの毒舌をぶつけた。
「別に。自然な形で相手を挑発しただけだ。かといって、お前を助ける気も全くなかったけどな」
これを聞いた途端に、それまでの目の輝きはどこへやら、その目をすっかり半眼に据わらせ、それでも少女は律義にお礼を呟く。
「…その一言が凄く余計だけど、まあいいか。ありがとね」
「何だよ、やけに素直になったな。さっきまでの偉そうな態度は一体どこへ行ったんだ?」
「!うっさいわね、分かんないかも知れないけど、から意地だって時には必要なのよ! …だって仕方ないでしょ!? こんな森の中で、それも夜に焚火してるような得体の知れない人に頼むんだもの、せめてそれ位はしないと…!」
この少女のとんでもない言い種に、今度、半眼になるのは青年の方だった。
「それがそもそもの間違いだって事に、早く気付けよお前…」
「いいでしょ別に! …それよりさ、あんた、名前は何て言うの?」
「……」
間違いを正さない上での遠慮無しさ。
もはや礼儀作法もへったくれもない少女に、半眼になったはずのその目を更に据わらせて、青年は答えた。
「こういう場合は、自分から名乗るのが礼儀なんじゃないか?」
「え?」
言われて、少女は顎に手をやり、少し考えた。
しかししばらくして、それがもっともであると気付いたらしく、肩を竦めて軽く息をつく。
「はいはい…すみませんでしたっ。あたしの名はライム=クライシス、歳は18。ファルスの上流貴族の娘。これでいい?」
少女…、否、ライムが答えると、青年はその目に表した棘を、わずかに潜めた。
「ふーん…ライムって言うのか、分かった。俺はシグマ、歳は20だ」
青年…シグマが答えると、少女は顎に当てていた手を、今度は額に当てた。
「シグマねぇ…どこかで聞いたような名前だけど、まあいいか…
それより、自己紹介がそれだけじゃ、全っ然足りないよ。
まさか、それで終わりとか言わないでしょうね? シグマ」
「おい…、歳上の、しかも初対面の男を、いきなり呼び捨てするのか? 近頃の“上流貴族の娘”ってやつは」
どっちが得体が知れないんだか分からないと言った表情をまともに顔に貼りつけて、シグマが呟く。それにはさすがに、ライムの頬が引きつった。
額に当てていた手を下ろして、その代わりに、こめかみにきっちりと怒りマークを貼りつける。
「そんな細かい事に、いちいち拘らないでよっ! …それより本音は? どうなの?」
面倒な奴に関わってしまった…と、あからさまに態度に出しながらも、シグマはそう簡単には引かないであろうライム相手に会話を続ける。
目に浮かんだ棘こそ消えたものの、残った感情の中には、明らかに開き直りがあった。
「仕方ないな。…俺はシグマ=ライアット、出身は、ここから北にあるウインダムズだ」
「ウインダムズ!? …って、軍事帝国ウインダムズのこと!?」
「ああそうだ」
シグマは平然と答えたが、対してライムの蒼の瞳には、どこか乙女ちっく(?)な憧れが浮かんでいる。
「ええーっ…いいなぁ。羨ましい。だってウインダムズって、こことは比べものにならない位、発展した国なんでしょ?」
「内情的には、そんな事はない。それに、それは単に、人の国がよく見えるだけだからな」
「じゃあシグマは、ここに来た時、いい国だと思ったの?」
「まあな。ウインダムズよりは静かだし、心地よく吹く柔らかい風が、何よりいい」
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