第25話 アキュハヴァーラのイージス忍者(4)

【スリーポイント銀行 アキュハヴァーラ支店 三階 中央階段(三階〜一階)前】


 ヤクサが電磁鞭から発生させた防御壁を破壊する為に、ユーシアはエリアスに武器強化魔法を限界まで付与させる。

 前の職場で支給された上質な黒刀ならば不要な手間だが、今携帯を許されている並の黒刀では、B級騎士の武鎧にも致命傷を与えられない。

 エリアスは無詠唱・無拍子で、黒刀二本に武器強化魔法を重ね掛けする。

「武器ランク、+2から+3へ増強しました」

 エリアスの報告を得てから、ユーシアは『佐助』の重力制御を黒刀に上乗せする。

 黒刀の強化された斬れ味に、数十倍に加圧された重みが加わる。

 それを間近で見ても、ヤクサは動じない。

 ヤクサが動じていないので、ユーシアは戦闘のテンションを下げて、自分の攻撃力とヤクサの防御壁を客観的に比較する。

(あ、無理だ。破れても黒刀が壊れて、二騎を仕留める手段が減る)

 贔屓目や自惚れや自信を抜かし、ユーシアはそのように判断する。

 そして、この二人は、三分は守りに徹して動かないと判断し、攻撃の優先順位を変える。

 ユーシアが、階段の下へと、ジャンプで移動する。




【スリーポイント銀行 アキュハヴァーラ支店 一階 中央階段(三階〜一階)下】


 爆発魔法の連発により、瓦礫と損壊した遺体が混じった廃墟と化した一帯で、ニルサはニヤニヤと絶景に見惚れている。

 黄巾の布槍で緊縛した、鉄仮面メイド・フラウの身体に。

 メイド服を半分以上切り裂かれ、豊満な美巨乳を覆うブラジャーを外されかかり、フラウはユーシアに助けを求めるかどうか思案する。

(呼べば来るでしょうが、わたくしの美貌にユーシアが見蕩れてしまうと、リップ様から激しい恨みを買いまするし。う〜む。苦しい)

 悩んでいると、ブラジャーが外される0・5秒前に、ユーシアが頭上からニルサに奇襲攻撃を仕掛けた。

(ナイス! むっつり美少年! 変態だけど、戦闘センスだけは良い!)

 助けに来た相手から内心で酷い事を言われているとも知らずに、ユーシアは重力十文字斬りで、ニルサを上から下へと十文字に斬り潰す。

 奇襲とはいえ、それをマトモに喰らうようなら、ニルサは黒夜叉隊に入っていない。

 ニルサはフラウを盾にして、重力十文字斬りを食い止めようとする。

 そういう手段を取られる事は想定済みで、ユーシアは重力十文字斬りをニルサにではなく、ニルサの足下の影に撃ち込む。

 ニルサの影が、斬られて破散する。

 影が破散した線をなぞる様に、ニルサの身体が武鎧ごと裂けていく。


 重力十文字斬り・影散らし。

 影の持ち主を影経由で斬り裂く、アイオライト家の忍者だけに相伝される、チート技である。


 通常の相手なら、そこで死に果てただろう。

 ニルサは致命傷の激痛に耐えて、武鎧の黄巾を全身の傷跡に巻き付ける。

 出血は止まり、ニルサはバラバラ死体には、ならずに済む。

 立っているのが、やっとだが。

「こぉのクソガキぃいい!! 頭部か心臓を破壊されない限り、武鎧を着た騎士が死ぬかあああ!!!!」

 吼えるニルサの頭部にユーシアの黒刀が、ニルサの武鎧の隙間から心臓部にフラウの大鋏が、突き立てられる。

「知っている」

「承知しております」

 脳と心臓を同時に破壊され、『黄巾騎士』ニルサ、戦死。

 その体を包んでいた黄巾の武鎧も、装着者の死亡を確認して、スリープ状態に。

「じゃあね、フラウさん。速やかに屋外へ退避して!」

 ユーシアは(フラウのブラジャー姿を見ないように)声を掛けながら、速やかに壁を駆け上って、階段の上に戻る。


 その間、十五秒。


 フラウは、持ち主が亡くなった黄巾を一巻き取ると、胸周りに巻く。

(今のはセーフですよね、リップお嬢様? セーフ!!)

 気にしているのは、事後のリップの反応だった。

 ユーシアがユリアナを逃し果せるだろうと信じ、ユーシアの足手まといにならないよう、大人しく退館できる扉を探す。

(…でも、もうちょっと居残って潜伏して、もう一人ぐらい奇襲で片付けようかしら?)

 ユーシアの圧勝を目にして、フラウは半端に進退を悩む。

 鉄仮面メイド・フラウ。

 意外と出たがりだった。

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