ちっさなミネくんのおっきなひみつ
夢霧もろは
ちっさなミネくんのおっきなひみつ
はじめまして、ミネくん。
わかるかな。そのちっさな魂に灯している明かりがわかるかな。
うん、ちょっと他の人よりロウソクが短いね。
そうなんだね。そのことはしばらくひみつにするんだね。
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ミネくんのママとお父さんは少し変わっています。
なんたって、ママとパパではなく、お母さんとお父さんでもなく。
ママはママと呼んでほしいって、お父さんはお父さんと呼んでほしいって、そんなふうに言いあっています。
でも仲良しです。これからもずっと仲良しです。
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ミネくん、すくすく育っていくね。
ちっさなあしで、ちっさなおててで、ママのお腹を触りはじめたね。
かおはエコーで覗かれるたび隠しがちで、ちょっと恥ずかしがり屋さんだね。
かわいいね、かっこいいね。しんぞうの音はおっきくて頼もしいね。
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ママはすごく逞しい人です。
どんどんと膨らんでいくお腹を抱えながら遠い会社にだって行きます。
授かってからの日々を指折り指折り数えながら、とてもとても喜んでいます。
運に恵まれて、イケメンで、頭が良くて、そんな人になってほしいと期待しています。
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ミネくん、どうしたの。
そうなんだね。もういくんだね。さみしくなるね。
さいごにバタバタもう一蹴りしてママにご挨拶したんだね。
もうちょっといてもいいのにね。がんばったね。えらいね。ばいばい。
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お父さんは考えています。
産声の代わりにべそをかきながら想いを馳せています。
産まれてきてくれてありがとうってママが書いている間も、血の匂いを噛みしめながら想っていました。
八ヶ月余りの人生はどうでしたか。どれだけのことを感じられましたか。一つでもその魂に得るものはありましたか。
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それはそれはミネくんのあたらしいひみつ。
あったかいママの中の暮らしがどんなふうだったのかはもう誰にもわかりません。それはミネくんだけのものです。
もしかしたら夢見ることがあったのかもしれません。もしかしたら悟りひらくことがあったのかもしれません。
もしかしたら異世界にでも転生して素敵な魔法を探す大冒険をしてしまうのかも。なんてね。
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それからミネくんは、真っ白い猫が待つお家に帰りました。
ママのママには賑やかにお話をしてもらって、お父さんのお母さんには優しく抱えてもらいました。
じきに焼く冷たい箱をママとお父さんは幾度なく開けて、そのたびミネくんの表情は安らかになっていきます。
けれど小さな魂の箱は閉まったまま。その空白は灰になることも凍てつくこともない大切な空白です。
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ひみつ、ひみつの、またひみつ。
あぁ、でも。気が向いたら、こっそり夢の中とかで教えてくれてもいいからね。
それまでは無限大の可能性のまま。未だ来ない日々だけでなく、過ぎ去りし日々だって、そう。
愛おしく、ただ愛おしく、生きているものはそれを仮に幸せと呼びながら。生きているかぎり、きっと、ずっと。
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