第26話 / 討伐④
あいつの顔はよく憶えている。
青色の鬣たてがみ、片方の目の深い傷...
俺の荷物を奪ったあいつだ。
ドカッ
奴はモンスターを狩っているのに夢中で俺にまだ気付いていない。
こっちに背中を見せた時に首の付け根から腰に掛けて斜めに叩き斬ろう...
ん?
今、俺は何を考えた? 背中から叩き斬る? 俺が?
ははっ、剣を持つのも嫌だった俺が?
背に腹は代えられない。俺から奪った物をあいつから...
奪う!!
青い鬣の獣が背を向けた瞬間を見逃さなかった。クロガネは一気に近づき背後から首の付け根目掛けて剣を振り下ろした。
ガキッ!
剣はイメージ通り首の付け根から腰へ振り下ろされた。
しかし、剣先を見ると無い。当たった瞬間に折れてしまったのだった。
剣の寿命か?
いや違う,こいつが頑強な身体なんだ
瞬間、振り返った青い鬣の獣の爪がクロガネを襲った。
咄嗟とっさに避けるが胸に3本爪の傷が付き血が噴出した。
傷は思ったより深い,少しでも避けるのが遅れていたら俺の身体は真っ二つだった。
「人間様がこんな所で何をしてる?」
青い鬣の獣が爪についたクロガネの血を振り払いながら質問する。
「はぁ...はぁ...俺から奪った荷物を返せ...今すぐにだ」
「お前から奪った荷物?何の事だ?お前みたいな危ないオーラを持った奴にワザワザ奪いに行かねーよ?」
「はぁ...少し前の事だぞ? はぁ...もう忘れたのか馬鹿猫が!俺の鞄だよ!中に手帳とか眼鏡とか...それにスマホが入ってたやつだよ! はぁ...痛ぇ」
「そんなもの知らん! ん? お前...お前の顔...憶えがあるな?」
青い鬣の獣はクロガネの近くまで行きまじまじと顔を見る。
くそっ...こいつ...俺の間合いギリギリ手前で止まりやった。
野生の勘って奴か? もう少しこっち来い...叩き切ってやる...
「くくくくっ、 そうかお前はあの時の。そうか、そうか。ぐわっはっはっは!もしかして俺を追ってこの森まで来たのか?流石にそれは無いか?こんな危険な場所に何で居るんだ兄ちゃん?」
「セヌアへ向かっていたらお前を見つけたんだよ馬鹿猫!持っているんだろ?早く返してくれ!」
青い鬣の獣は大きな切り株に腰を掛けた。
余裕をかましているように見えたが違う、奴から青色のオーラが常に出ており臨戦態勢に入っているのは明白だった。
「セヌア?何でお前があそこに用があるんだ?それにな。。もう無い、売っちまったよ。まぁ、持っていても返さないけどな。この世界では奪われる奴が悪い!そうだろ?奪われたくなかったら奪われないように強くならなきゃならない。お前は弱いから奪われた!つまり、奪われたお前が悪いんだよ?ぐわっはっはっは!分かったか」
「黙れ!!」
クロガネは切り株に座っている獣に斬り掛かったがあっさり躱されてしまった。
「おー怖い怖い。折れた剣じゃ俺には届かないぜ?あー思い出した。荷物を奪ったあの時、あまりにもお前が惨めだったから殺す気が失せたんだった」
「そんな事はどうでもいい...何処へ売った?教えろ!」
クロガネは再び切り掛かりに行くが折れた剣では全く届かなかった。
それにしても青い鬣の獣の反応速度が異常に速い。
「壁の内側にいる金持ちのお得意さんだよ。何でもこの世界では手に入らない激レアアイテムが入ってたみたいで見た事ない金額で高く売れたよ。お陰様で暫くは盗みをする必要が無くなった。感謝するよ兄ちゃん」
「兄ちゃんじゃねぇ...はぁ...クロガネって名前があるんだ馬鹿猫。はぁ...どこのどいつか教えろ。言わないなら...殺す」
「殺気だってるね兄ちゃん。それに俺も馬鹿猫って名前じゃねぇ。次に馬鹿猫って言ったら兄ちゃんが殺す前に俺がお前を殺してやる」
「あー悪かったな。馬鹿猫、良い名前だと思ったんだけどな?じゃあ化け猫でどうだ?」
「グォー!」
殺意を持った獣がクロガネへ突進してきた。
奴の両手の爪が鉤爪の様に伸びていた。奴は俺を殺す気だ。
折れた剣で届かないなら奴を怒らせ飛び掛かって来る所を返り討ちにする。これしかな...
?!
グシャ!
想像以上に獣のスピードが速く、奴の一撃を剣で身を守るので精一杯だった。
容赦なく獣の爪がクロガネを襲い、クロガネは全身傷だらけになっていた。
―抗え―
クロガネは渾身の一撃を獣の頭へ叩きつけたが反撃され後ろに吹っ飛び木に打ち付けられた。
ぐはっ!
あいつ...何て石頭だ...
くそ...出血が酷い...全身を打ってしまったようだ...身体よ動け!
追随する獣の攻撃を何とか躱かわしふらふらになりながら間合いを取り剣を構える...
出血がひどく目の前が
はぁ...
はぁ...
はぁ...
はぁ...
走馬灯のように過去に受けた嫌な言葉がクロガネの頭によぎった。
<澄すましてんじゃねぇよ!>
<覇気が無いんだよお前は!>
<死ぬ気で努力した事あるのか?>
<仕事は出来るけどリーダーシップが無いよな>
<引っ張って行ってくれる人が良いの。。>
だから何だ?
俺は俺だ
―抗え―
うるさい...俺の頭から離れろ。
―抗え―
いい加減にしろ...もう俺は限界だ。
―抗え―
身体はもう動かない...
俺は奴に殺される運命だったんだ。
―抗え―
もう止めてくれ...見て分からないのか...ここが俺の限界なんだ...
―抗え――抗え――抗え――抗え――抗え――抗え――抗え――抗え――抗え――抗え―
頭が...割れる...
だ
だま
黙れーーーーー!
?!
突然、クロガネの持っている折れた剣先から青色のオーラが剣の形に具現化した。
クロガネが迫って来る青い獣に剣を振る
青い獣がそれを
クロガネと青い獣の攻防が暫く続く...
剣では奴の身体に通用しなかったが、青色のオーラの剣になった事でにダメージを与える事が出来た。
が、徐々にクロガネの動きが鈍くなり防戦一方になった...
青い獣は冷静を取り戻したのか、長く出ていた鉤爪を引っ込めてクロガネに近づいてきた。
「兄ちゃん...いやクロガネか...お前の胸の傷は深い。もうじきお前は出血多量で死ぬ...逃げずに戦ったお前に敬意を示そう...俺の名前は青藍せいらん。お前はセヌアへ向かっていると言ったな?目的は何だ?」
「...仲間を助けにいく途中で...お前を...見つけた...大事な物なんだ...かえして...く...れ」
クロガネはついに立てなくなり地面に倒れた。
「そうか...俺・も・セ・ヌ・ア・へ・行・く・途・中・でお前と会った。お前の仲間は人間だな...遺言を伝えてやる」
青藍は膝を付き、倒れているクロガネに聞く。
流石に駄目だな...これは...出血がひどい...
喋る事も...出来ない...
くそ...さっきは良い感じだったのにな...
「...」
「駄目か,人間は権力欲は種族一強いくせに身体が脆いもろから嫌いなんだよ。間接的だがお前のお陰で暫くは多くの仲間を養っていける...」
青藍は横たわって動かなくなったクロガネに呟いた。
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