第19話 / 監視レベル5の来訪者と新入りの看守
「ウド獄長、監視レベル5の者を連れてきました」
ウドがまじまじと目の前の者を見据えて口を開く
「カール...こいつの情報はないのか?」
「確認させています」
「名前は?何が目的だ?何故ここに来た?何をやらかして監視レベル5のお尋ね者になった?」
ウドが椅子に深々と座ったまま殺気を込めた視線を目の前の者に向けて質問を立て続けにする。
「......」
「早く答えないか!ウド獄長が質問しているんだぞ!」
「......」
「でわ、質問を変えよう。大人しく監獄ここから...いやこの国から出て行くつもりはないか?今すぐ出ていくなら何も無かった事にしようでわないか?」
ウドが前に立っている者に提案する。
「ウド獄長!逃がすんですか?」
カールが思わず大きな声になりウドに質問する。
「...腐ってる」
口紅を塗ったような真っ赤な唇が開きボソッと声が漏れる
「何?」
カールが聞き返す。
「”腐ってる”と言ったの。厄介ごとは見て見ぬふり...安心して、用・事・が済んだらさっさと出て行くから。厄介ごとは起こさないからしばらくは監獄ここにいさせてくれるかしら?」
「それを聞いて安心した。これで成立だな。ただし期限は1週間だ。それ以上は面倒見切れん。それでいいか?」
「感謝する」
「おいっ!彼女を一等室まで連れていけ!」
「一等室?しかし...あそこは」
カールが言い掛けたのをウドが視線で遮った。
「もう1つ聞いていいか?」
ウドが出ていこうとする彼女に聞く。
「...答えられる範囲なら」
「お前は今迄何人殺した事がある?殺した理由は?」
「...憶えていない...けど、全て大義の為に必要な時だけ...」
「その大義の為に殺された奴らにも家族がいるんだがな?」
「私は人を殺す時は殺した者の家族の恨み全てを背負うつもりでやってる。私がその恨みで殺されたとしても仕方ないと思っている」
透き通った白い肌の顔に真っ赤な2つの目がウドを直視した。
「人を呪わば穴二つか...もういい、行って良いぞ」
看守に連れられ彼女は去って行った。
「ウド獄長!お咎め無しなんてどういう事ですか?それに犯罪者に一等室なんか?あそこは客人の為の部屋で...」
「馬鹿が...同族なのに何も感じなかったのか?恐らくお前と同じ魔族...もしくわ人間とのハーフかもしれないな」
ウドが天井を見上げて言った。
「どういう事ですか! あれっ?身体が?」
カールがウドの方へ近づこうとしたが身体が動かない。
「
ウドがカールに質問する。
「いいえ...分かりません...」
「つまりだな,何時でもワシらを殺す事も出来るし逃げることも出来ると言う無言のメッセージだ。かつての右軍将軍のワシに喧嘩を売ってきやがった。まぁ、そう言うことでここにある監視レベル3迄しか対応していない牢獄に入れても無駄だと判断したわけだ。それになるべく他の収監者と接触させたくない」
そう言うと立ち上がりカールの頬を叩いた。
「どうだ?動けるか?」
「あれっ?動けます。ウド獄長は動けたんですか?」
「まぁ、気合いというヤツだ。ワシが動いてここであいつとやりあっても割に合わんからな」
「彼女が言っていた用事って何なんでしょうね?」
「さあな?さっさと出て行ってくれたらそれで良い。この事は王には内緒だぞ?王の心配事は増やさない方がよい。彼女あいつの動向は逐一ワシに伝えるよう全ての看守にそう伝えよ!情報が外に漏れた場合はそれなりの処分があると心得よ!」
「承知しました!!」
カールの返事が室内に響く。
ウドとカールの思いとは逆に、瞬く間に監獄内に別の意味で噂が広まっていた。
「おいっ!聞いたか?」
「何がだよ?」
「オメー知らねぇのかよ?」
「だから何がだよ?」
「スゲーベッピンの女が収監されたって話だよ?」
「女?ふざけんなよ?前みたいにごつい獣族の女って落ちじゃねぇだろうな?女っ気ないここでそんな話すんじゃねぇぞ?
「今回は本当だ。ちゃんした人間の女だ。マジで良い女らしいぞ?」
「やべームラムラしてきた。一目見れねーかな?」
あちこちの牢獄の中からこんな会話が飛び交っていたため、当然看守の耳にも入る事になった。
「なー?そこに突っ立ってる看守さんよー、超良い女が監獄ここに入ってきたと聞いたんだけどよー、何処に居るのか教えてくれねーかな?」
牢獄の中の囚人から見張りで立っている看守に投げ掛けられた声が響く。
反響するかのように他の牢獄に入っている囚人からも賛同の声が響く。
「......」
「ちっ、この新入りの看守のあんちゃん本当に無口だな!なー教えてくれよー」
「そうだそうだ、早く教えろー。」
監獄内で教えろコールの大合唱が始まった。
「静かにしないかー!!おいっ新入り!お前も手伝わないか!!」
他の何人かの看守が駆け付けて鎮静に掛かる。
ようやく監獄内が鎮静化し、落ち着きを取り戻した。
「新入りのあんちゃん。看守の仕事はただ突っ立ってるだけじゃ駄目なんだ!それは分かるな?」
看守のリーダーらしき人物が新入りの看守をたしなめる。
「...ええ,勿論それは分かりますよ...道で倒れている所を助けてくれて仕事まで斡旋してくましたからね。感謝してますよ」
新入りの看守がたどたどしい言葉で返事をした。
「看守になる条件がこの国の国民ではハードルが高くてな...監視レベル0じゃないとなれないんだ。人手不足なのに条件を満たすものがほとんどいない。そこに倒れていたお前さんを調べさせて貰ったら犯罪歴データも何もお前さんに関するデータが何も出てこない。で、こちらも都合が良かったんだよ。なぁ...お前の言葉えらく訛ってるけど何処の出身だ?こういうのも何だがよく今まで生きて来られたな?」
「...」
「また黙だんまりか...いい加減名前教えてくれないか?何時までも新入りって呼ぶのもしんどいからな(笑)」
「勝手につけてくれて良いですよ...自分でも分からないんですけど名前にこだわりが無くて」
「変な奴だな(笑)じゃあ俺が名前をつけてやるよ。本当に良いんだな?」
「どうぞ」
「名無しの権兵衛。どうだ?」
「......」
「おいおい、冗談だ冗談(笑)そんなに睨むな。そうだな...んー,おっ?お前のイメージにピッタリな名前を思い付いたぞ」
監守のリーダーがまじまじと新入りの顔を見る。
「クロガネ!どうだ?」
「...アドルフさん1つ聞いて良いですか?どうして”クロガネ”何ですか?」
「おっ?食いつくね(笑)どうしても聞きたいか?」
アドルフが、にやにやとした顔で新入りに質問する。
「...言いたくないなら別に良いですよ」
「ったく可愛げがないねーお前は(笑)まぁそうだな...俺の親父が染色の職人でな...その影響で人を色で見る癖があってな...お前さんを見た時これと言った色を表現出来なくて考えた時、そういえば青緑系の色でこれと言った名前がないから適当な色として
「それでクロガネですか...良いですよそれで。これからはクロガネと呼んでください。因みに色としてはどういうイメージ何ですか?」
「そうかそうか気に入ったか(笑)まぁ鉄色は赤色系とは真逆の色で華やかさは無いが深みがある良い色だと俺は思っている。親父の受け売りだけどな(笑)。さぁ、お喋りはここまでだ。クロガネ、お前に任務を与える。」
「任務?」
「ああ、1等室の客人を1週間監視して欲しい。内容は客人への食事の配膳と客人が部屋にいる時だけ廊下の前で立っているだけで良い。客人が部屋から出る時はカール監長が同行する事になっている。顔は見られないようにしておけ。」
アドルフが厳しい顔に戻りクロガネに命令する。
「理由は知らない方が良いという事ですか?」
「察しがいいな。その通りだ。さぁ今すぐ任務に就くんだ」
アドルフの号令でクロガネ他数名の看守がそれぞれの任務に戻って行った。
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