第17話 / 間
気付くと暗闇の中に居た。
回りを見渡しても全てが闇に包まれていて何も見えない。
試しに大声を出してみたが声が反射する事も無く闇に吸い込まれていく。
俺は... 何をしていたんだ?
ここに来る前の出来事を思い出そうとした。
俺は そうだ、テレジアに会いにBARに向かったんだ。そしたらテレジアと...男が...田中だったかな?血まみれで倒れていて...俺はピンクの酒を飲んで... ジャック...そう、あいつが来て...
それから...
それから...
それから...
駄目だ、思い出せない。
二日酔いみたいに気分が悪く、頭が痛い。目が慣れる事も無く全てが闇の状況に疲れ再び眠りについた。
『お.....』
『おー...』
『おーー..』
『おーーーーーい!!』
大声で叩き起こされ飛び起きると目の前に少女が立っていた。
彼女の周りだけ光に包まれていた。頭の上に輪っかみたいなのが浮かんでいて白装束を着ている。
『やっと起きた?』
「...ここは?」
頭がボーとしていたがその少女に質問をした。
『ここは異世界と並行世界の間はざま。ねぇ、あなた何者?協会から転送されるなんて何も連絡が無かったんだけど?それにしてもあなた運が良いわ。たまたま私が見つけたから良かったけど気付かなかったら永遠にこの間はざまで彷徨ってたわよ?』
「はぁ...」
この娘は何を言ってるんだ?
『まぁ いいわ。私は案内人のルギ。さぁ、希望を聞きましょうか?』
少女がにっこり笑顔で聞いてきた。
「希望...って、いったい何の希望の事?」
少女の目が冷たくなる。
『はぁ?あなた、ふざけてるの?希望といったら希望よ。無いなら考慮しないわよ?』
このガ(以下自粛)が。何の事か分からないから聞いてるのに。
「ふー...」深呼吸をして大人の対応をする。
「ルギちゃん...だっけ?本当に分からないんだ。気付いたらここにいたんだ。いったいここはどういう場所なんだ?何でおれはここに居るんだ?希望の意味が本当に分からないんだ?どうやったらここから出られるんだ?」
少女が耳を塞いで叫ぶ
『あーうるさい。質問が多すぎる!あなたが何者なんて知らないわよ!何で何も知らないのにここに来れるのよ?面接官の田中っちから聞いてないの?合格してここに来たんでしょ?ふざけないで!』
田中っち?ああ...BARにいたあの店主か。あの男。。そういえば何か言ってたな...
「異世界...」
思い出した言葉を呟いた。
少女の顔がぱっと明るくなる。
『そうそう。知ってるじゃない!私は異世界への案内人。どこの国へ行きたい?希望ある?』
「どこの国と言っても... あっ...」
田中の言葉を思い出す。目が覚めたらテレジアへ電話して話を聞けと。
「ルギちゃん...もしかしてここにテレジアっていう金髪の娘が来なかった?」
『ねぇ!“ちゃん”付け止めてくれる?私はこれでもあなたよりずっと長く生きてるんだから!ふんっ。まあいいわ。テレジアって娘が西園寺テレジア=エミリの事なら少し前に案内したわ。案内したって言っても協会からの事前情報を分析して最適な国へ転送したから私とその娘が直接会ったわけじゃないけど』
「ルギ‟さん”。じゃあ、彼女と同じ国へ案内してくれないか?」
『やだ!』
ルギが即答する。
「えっ?何で?希望を聞かれたから希望をちゃんと言ったけど?」
『‟ちゃん”から‟さん”に直ぐ切替えるその狡猾こうかつな所が嫌い。それにあなたは彼女の何なの?』
「何なのっ?って言われても...」
ルギの目がより一層冷たくなる
『まさか...ストーカーってやつ?キモッ!決めた!あなたには1番過酷な国へご案内しますわ♥️その前に...あなたが何者か調べさせてもらえる?』
「えっ?ちょっと...1番過酷な国って...」
俺の言葉を遮るようにルギの目が光り、まるで俺の身体をスキャンするかの様に頭から足先の間を光が行ったり来たりした。
『ふーん...あなたの記憶を辿ると監視レベル5の本阿弥 緋色。再転送者ってわけね。あなたはここに来る前に管理協会のジャックと会ってるわね?私、あいつ大っ嫌いなの。あなたもそう思わない?』
「君はジャックの事知ってるのか?」
『黙ってて!』
このガ(以下自粛)が質問に対して答えてるのに。俺からすればルギはジャックといい勝負かもしれない。同族嫌悪ってやつか...
ルギの目の光が消え口を開く
『ふーん...色々と複雑なのね。案内人の私には正直興味無し。協会に報告すると面倒だからさっさと‟案内”して終わりにしましょう?』
「ちょっとっ待て?俺はどこに案内されるんだ?」
少女がにっこり微笑む
『御一人様タギアタニア王国へごあんなーい♡』
ルギの手が発光し、手を挙げると人1人がすっぽり入る大きな輪っかが俺の頭上に浮かんだ。
「おいっ!ちょっとま」
輪っかが俺の身体まで下がってくると目の前が真っ白になりそのまま意識が途切れた...
『これで良かったの?』
ルギがいつの間にか彼女の横に立っている男に話しかける。
「ええ。ありがとうございます、念のためルギさんにお願いしていて良かった」
『これで今までの借は返したことでいい?』
「勿論です。私も面接官は解雇になったのでこれからはルギさんをお助け出来ませんが。それより彼をスキャンしてどうでしたか?何か分かりました?」
『おおよそ田中っちの読み通りだったわよ。彼は全くの別物だった。協会が必死になって隠したがるのも無理無いわ。異世界法第77条に抵触ていしょくしていて完全にアウトよ。彼の人生を何だと思っているのかしら』
「ちょっと待ってください!今何て?異世界法第77条って言いましたか?流石に私もそこまでしているとは考えてませんでした!」
ルギからの予報以上の回答に田中は思わず叫んでいた。
『そこまでするほど本阿弥 緋色という男の存在を隠したいのかもね。案内人である私も5年前に引き継いだけど彼の事を知っている前任者がどうなったのかしら。あなたの前任者と一緒で消されているかも』
「巻き込んでしまってすみません。暫くは協会も気付かないと思いますが」
『どうってこと無いわよ。私は案内の仕事を全うしただけ。それに協会は私達には簡単に手出しできないこと知ってるでしょ?』
ルギがニッコリと田中に微笑んだ。
「失礼しました。本来なら貴女様あなたさまとこうして話してるのも場違いですからね」
『二人だけの時はかしこまるのは止めてくれる?只でさえ崇められる立場で息が詰まりそうになるんだから』
「そうでしたな(笑)」
「ところで。。。。」
田中がルギを真剣な眼差しで見る。
「彼は異世界へ行って成功出来ると思いますか?」
『うーん...田中っちには悪いけど彼に才能があるように見えない。彼は直ぐに死んで逆転送されると思うよ。どう?私と賭ける?とりあえず彼が1ヶ月生き長らえたら私の負け。その時は彼に何か1つスキルを与えてあげてもいいわよ?でも田中っちが負けたら美味しいお酒を奢って♥️』
「分かりました。勝負ですね」
『やったー!お酒が飲める♪お酒が飲める♪お酒が飲める♪楽しみが1つ増えたー♪』
ルギは無邪気な子供のように嬉しさを歌で表現した。
「まだ決まった訳じゃ無いですよルギさん」
『いいでしょう?神族の私は100年振りのお酒になるかもしれないんだから?』
ルギが頬を膨らませて田中に言った。
――――知らないところでこんな賭けがされているとは彼も思いもよらないだろう。
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