第4話 / 報告 (田中視点)
客が居なくなったBAR【異世界】にバーテンダーが1人PCのようなものを使って文章を書いていた。
報告書
異世界管理担当者様
いつもお世話になります。
BAR【異世界】面接担当官 田中です。
本日、以下1名の面接を実施しました。
名 前 : 西園寺テレジア=エミリ
年 齢 : 24
出身地 : 第3並行世界 日本国
登録番号 : 37489656
課題達成率: 100%
渡航歴 : 0
結論から申し上げます。最終面接で不安定な情緒を見せましたが
こちらの設定基準をクリアした為、合格させました。
つきましては、上記面接者を異世界への転送手配をお願いしたく存じます。
転送日時、転送先を折り返しご連絡願います。
追記です。
この件は書くべきか悩みましたが管理担当者様へ報告させて頂きます。
本日のエミリの面接中に予期せぬ訪問者が来店しました。
当然、面接中はバッティングしないように波長を遮断したにも関わらずです。
日報で来店者情報を報告させて頂いておりますので把握しているかと思いますが、情報を下記致します。
名 前 : ●● ●●
年 齢 : 30
出身地 : 第12並行世界 日本国
登録番号 : 95476321
課題達成率: 90%
渡航歴 : 0
この訪問者については、2年前に来店したのが始まりです。最初はたまたま紛れ込んできた一般市民だろうと判断し対応しました。
波長が会うのかそれ以降複数回に渡り来店しています。酒を飲んで帰るだけでしたので悪影響は無いと判断していました。
しかしながら、本日問題が発生しました。
面接者エミリの存在を確認され、我々の言葉をある程度理解していました。
当然、彼の前で今まで喋った事は無く教えた事もありませんし、ここからは私の独断で進めました。
問題あるようでしたら如何なる処分もお受け致します。
私は彼に興味を持ちました。
どうせ信じないだろうと彼に異世界の話をしました。
最悪、記憶を消して平行世界へ放出しておけば問題無いと判断した為です。
彼は面白い反応をしました。
異世界へ行く事は転職する事だと言いい、異世界を転職のポイントに当てはめて質問をしてきました。この様な人間他にいるでしょうか?
彼の質問は的確なのでこちらも包み隠さず回答しました。
伝えた情報は、異世界の環境、スキル情報、職業。。そして我々が平行世界の人間を転送する目的です。
会話中、本来なら面接のみでしかしない彼の魂を読み取り本心まで見てしまいました。
異世界に行くには少し不十分かもしれませんが素質があり、基準もクリアしていた為、彼に異世界行きを打診しました。
結果は... 残念ながら辞退されました。
規定に沿い、彼が退店する前にここでの出来事の記憶を全て消し平行世界へ放出致しました事ご報告致します。
BAR【異世界】面接官担当
田中
報告書を書き終え送信をした。
後は管理担当者からの返答を待つだけだった。
田中はあの時の出来事を思い返していた。
「オファーありがとうございます。素直に嬉しいのですが...」
「何か不満な事でも?」
私は直ぐに彼の返答が欲しかったのだろう,焦って聞いていた.
「いや、そもそもエミリの面接の最中に邪魔して入ってきてしまった。エミリの面接の結果も出てないのにオファー貰って 【はい、お願いします】なんて言ったら逆の立場だったら物凄く気分が悪い」
「......」
エミリさんは黙って彼を見ていた。
「確かに私に配慮が足りなかったと思います。エミリさん申し訳御座いませんでした」
「田中さん、先にエミリの面接やってよ。面接終わるまではドアの外で待ってるから」
と言いながら彼は出ていこうとした。
「私は構いません。乱入される程度で面接落ちるのならその程度だっただけです。マスター、最後の質問の答えです。私は父を見つけたら殺すと思います。でも殺したら平行世界へ逆転送されて母の許へ戻ってしまう。だからどの方法が一番彼を苦しめる事が出来るかずっと考えています」
彼女の魂に嘘偽りが見えなかった。彼女を突き動かす事、それが父親を殺す事だったとは...
最後の合格の条件、それは正直に話す事。それさえ満たせば理由はどうでもよかった。
「エミリさん、合格です。おめでとうございます」
彼女は黙って聞いていて、彼に話した。
「引いたでしょ?私が異世界へ行く目的が父親を殺す事だなんて」
「いや、エミリの事情について何も知らないから判断出来ないのが本音。ただ、1つ言える事はエミリは人を殺せるような人間に見えない。それに目的はどうであれ、異世界へ行くために相当努力してきたんだろ?そして結果、今こうして合格する事が出来たんだから尊敬するよ」
「何も知らないくせに」
「何も知らないから感じた事をそのまま伝えただけ。これでも元管理職だからかな、人を見る目はあるかもしれない。あっちの世界にいっても頑張れよ!」
「......」
私は彼女に次の異世界へ行く日程を追って伝えると言い退店を促した。
聞き違いかもしれないが彼女が彼の横を通りすぎるとき小声で「ありがとう」と言っていたように聞こえた。
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