第1話 / 無職

ニートになって2ヵ月が過ぎようとしていた。


働いていた時とは違い時間は腐るほどある。やる事といったら転職サイトを見て興味がでた企業に応募する。


面接に行き採用担当者との質疑応答をし、運が良ければオファーを貰うが結果しっくりこなくて辞退する、の繰り返しだった。


「●●さんは何故、弊社へ応募されたんですか?」


くたびれた採用担当者がマニュアルの様に聞いてきた。


「御社のホームページを拝見させて頂いた所、取扱っている商材に魅力がある事や


 人材を第1だとの考えに感銘を受け応募させて頂きました」


とまぁ、お決まりの定型文句を笑顔で話して良い印象だけは残しておく。


外見は視力は良いのにメガネをかける。七難隠すというように、容姿や感情のボロが出ないようにしている。


面接が終わり、プライベートでよく使っていた行きつけのBARが近くにあったので飲みに行った。


そこのBARは、雑居ビルとビルの間に人一人通れる道があり、そこを突き当たりまで歩くと地下へ続く階段がある。その階段を降りた先に【異世界】という立て看板があり似つかわしくない豪華なドアを開けた所にある。


中はカウンターのみ5席しかない。何より客滅多にいないから必ず座れる(笑)


「いらっしゃいませ!!」


ドアを開けたらいつも通りの声が聞こえてきた。


店内を見ると一番奥の席に先客が一人いた。


客の出入りに邪魔にならないからお気に入りの席だったが(と言っても滅多に客は来ないが)、仕方無いので入口側の席に座る事にした。


「お決まりですか?」バーテンダーが聞いてきた


「X,Y,Zのロングで」


「あれっよく見たら●●さんじゃないですか?眼鏡掛けてるしスーツだから誰か分かりませんでしたよ」


「ははっ ばれたか」


「それにX,Y,Zのロングを頼む人なんてうちでは●●さんだけです」


「今日はどうされたんですか?」


「実は転職活動中で今さっき面接終わった所」


「そうでしたか、お疲れ様でした...で?」


「で?」


「どうでしたか感触は?」


「バーテンダーって普通そこまで突っ込んだ事聞かないでしょ?(笑)」


「知りたがり病なんです(笑)」


このバーテンダーは田中さん。年齢は50位で、白髪交じりのオールバックに口髭という風貌。嫌味がなく話しやすいが変なオーラがある人だ。


「どうだろう、正直自信が無い。運に任せる感じかな。面接官の反応は悪くなかったけど、自分なんかより魅力ある応募者は沢山いると思うからね。」


「そうですか。内定採れるといいですね。所でどうして今日は眼鏡を掛けてるんですか?」


「眼鏡を掛ける方が顔隠せるし安心するからかな」


「眼鏡するなんて勿体ない、せっかくのイケメンが台無しですよ」


「どうもお世辞をありがとうございます(笑)」


「お世辞じゃないですよ。前に●●さんが店を出て行った後、隣の席に座っていた女性がお近づきになりたいからどれくらいの頻度で来てるか聞かれましたよ。」


(隣? この店に来てから隣の席に座ったもの好きはいなかったと思うが。。。)


「宗教の勧誘とか高額な絵を買わせようとしてるかもしれないな」


「それは無いと思いますよ。どういう女性か気になります?」


「ぜんぜん気にならない」


「またまたー。凄い美人で巨乳」


「聞いてないよ!」


「分かりました。でも偶然同席した時はお願いしますよ」


「お願いしますって 何が?」


「私がフォローするので誘ってください。100%お持ち帰りOK。保証します」


「真顔だけど言ってることは下品だよ」


「とにかくそういう目的で飲みに来てるわけじゃないからお断りです」


「そうですね可愛い彼女がいるのにそういう事したらまずいですよね」


「......」


「怒ってます?」


「いや、自分の事を好きになるもの好きはいないよ」


「いやいやいやいや、何でそんなに暗い顔になるんですか?私何か悪い事言いました?」


「〇Γ°ΚΜΜΘΠΣΞΦη×Щ〈Λ !!」


突然、何語かわからない言葉が聞こえてきた。


そういえば先客がいたな、と声が聞こえた一番奥の席に目をやった。


白髪に近い金髪のロングに透き通った白い肌、顔立ちは整いすぎている程整っているし目が青い。ハロウィーンでもないのコスプレのような格好をしていた。


「〉ΨβδΥΨβΠΥΨΥΚΥΡεΚΚΟΦδΡΛδ」


「πθεΠΞπειεγΨΥ」


「№㏍шрпмлФТχБЙЖχχψκκκδιηρ」


バーテンダーの田中さんと金髪娘が会話をしている


(何だ今の言語は?)


「田中さん、凄いですね!何語ですか?英語でもスペイン語でもフランス語でもないよね」


「え?」


「え?っじゃなくてあの娘と会話してたじゃない?」


「●●さんお一人ですよ? 何か聞こえました?」


「いるじゃない!金髪娘が!」


「いやー私には何も見えませんがー」


田中さんが明らかに動揺していた。


「あれっ?あの娘急に服脱ぎ始めた!」


「うそっ?」と田中さんが奥の席を見た後 (しまった)という顔をした。


「やっぱり見えてるじゃない」


「......」


「まだ否定します?」


「なんてことだ。。。 ●●さんと波長があってしまったか」


「波長? どういう事?幽霊とか?」


「......」


目をこすって奥の席を何度見ても金髪娘が座っている。


(よく見たら半分透けてるし、頭の上に発光した光の玉が浮いている。


それに何か自分を睨んでいるんですけど...)


「大分お酒飲みましたからねー 酔っ払ったんですよー」


「酔っ払ってないよ!半分透けてるけどいるよそこに!何かこっち見て睨んでるし 絶対変だ!」


田中さんが観念した表情で重い口を開いた


「●●さん、これから言うことを他言しませんか?」


「内容による」


「じゃあ教えません」


「分かった、誰にも喋らない」


「実は私...ここの世界の人間じゃないんです。」


「はっ?」


何を言っているのか理解出来なかった。


(この親父変なオーラがあると思ってたけどクスリでもやってるのか?)


「ここの世界ってどういうこと?」


「ここの世界というのは●●さんが住んでいる世界の事です」


「つまり田中さんは別の世界の人間ってこと?」


「その通りです」


「じゃあ田中さんの言うこっちの世界にわざわざ来てバーテンダーやってるのも何か理由があるの?」


「もちろん理由はあります。●●さん、こんなこと言うのも何ですがここの世界の人間がBAR【異世界】に入り込んでくる事態凄く珍しいんですよ。」


「さっき言ってた波長と関係あるとか?ラジオの周波数とかそんな感じ?」


「察しが良いですね、その通りです。●●さんが始めて入って来たとき覚えていますか?」


「確かあの時は接待が終わって一人で飲み直そうと適当な店を探してた時、ビルとビルの間から目映い光が照らされていて、引き寄せられるように細い道に入って行ったらここのBAR【異世界】にたどり着いていた...」


(あの時は酔ってたし不思議に思わなかったかけど波長?があったからなのか?)


「私がここにいる理由があると言いましたよね、表向きはBARですが真の目的は...」


「目的は?」


「面接です」


「面接? 面接って求人でも出してるの?」


「いいえ違います。異世界へ行くための面接です。そして私は面接官です。


あの奥の席に座っている娘は異世界へ行くために面接に来てます。そして面接を始めようとした時にあなたが入ってきた」


「招かざる客ってところか。じゃあ睨んでるのは面接の邪魔をしたからか」


横目で金髪娘を見るとずっとこっちを睨んでいた。


「まぁ...睨んでるのはそれも理由だと思いますが...」


と田中さんが歯切れの悪い返答をした時、


「あんたの話しをずっとここで聞いてて、自己評価が超がつくほど低くてつまんない奴!!ってマスターに言ったのよ」


金髪娘から今度ははっきりと分かる言葉で奥の席から投げ掛けられた。


「日本語喋れたんだ?日本人?」


「あんた私の事金髪娘って呼んだり国籍聞いたり見た目で判断しないでくれる?失礼よ?


「いや、申し訳ない 確かにその通りだな、悪かったよ。でもあんたも俺の事を超自己評価が低い糞野郎で死んだ方がいいって言ったじゃん」


「...そこまで言ってないわよ。それにあんた、全然気にしてるように見えないけど?」


「他人の評価は気にしないんでね」


「まあまあ、喧嘩はそれぐらいにしておきましょう」


とカウンターから田中さんが困った声で言った。


「マスター、早くΦΥεΟΟεΠΥΟΠεΟ進めて下さい」


「●●さんが帰るまでΚΡΥεΚεΥΥεΦ待ってΚ~$&[<」


「帰る前に記憶を消して$εΨ?δΥβ」


「もう2度と来れないようδΟ△※♯%▲といけない」


田中さんと金髪娘の間で日本語と異世界語?が混ぜ合わさった会話が目の前で聞こえてきた。


(記憶を消す?2度と来れないようにする?俺の事か?変な事に巻き込まれる前に帰った方がいいな)


「ご馳走様。お邪魔なようなので帰ります。お釣いらないです」


と、一万円札をカウンターに置いてさっさと帰ろうとした


「●●さん少し待ってくれますか?」と田中さんから低い声で呼び止められた。


「田中さん... 俺の記憶を...消す?...とか?」


「!?」


田中さんと金髪娘が驚いた表情になった。


「まさか私達の会話が理解出来たんですか?」


「何か知らないけど聞き取れたっていう表現が適切かな」


「信じられない... 理解出来るようになるまで私は3年かかったのに」


金髪娘が悔しそうな顔をしている


田中さんは暫くの間考え込んだ後、こう答えた。


「●●さん、方法は秘密ですが確かにあなたの記憶を消そうとしました」


「やっぱりね」


「でも、気が変わりました。」


田中さんが一息はいた後、こう言った。


「●●さん、異世界に興味ありませんか?」

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