自己評価は超低いのに異世界へ転職したら大成功してしまった

表うら

エピローグ / 解雇通達

「悪いが... もう君に頼む仕事はない。辞めてほしい。」


入社して10年、会社に身を捧げ死ぬ気で働いてきた結果がこれだった。


不当解雇だ!!と法律を盾に争えば会社にしがみつけたかもしれないが、しがみついた所でもう自分の居場所が無い事は明白だった為すんなり受入れてしまっていた。


社長室から出ると周りの冷ややかな視線が自分に突き刺さっていた。


哀れな敗北者の退場を見送るように。。。


退職までの1ヶ月間は引き継ぎ業務に明け暮れ

落ち込んでいる暇はなくあっという間に出社最終日になっていた。


そして最終日ギリギリでなんとか引き継ぎ業務が完了し、最後に同じ部署の仲間へ挨拶にまわった。


「●●さんのプロジェクト僕が引継いだんですけど先方の担当者とうまくいかなくて上手く進めないんです。」


「こういうのはな、先ずは担当者の懐に入ってな。。。」


「●●さん、メールで誘いますので飲みに行きましょうね」


「落ち着いたらな。。。」


「●●さんがいなくなって寂しいです」


「直ぐになれるよ。。。」


と、社交辞令的な当たり障りのない挨拶を交わし、

最後に入社してから1番可愛がってくれた部長に挨拶に行った。


「今までお世話になりました。部長からご指導受けた経験を今後も生かしていこうと思います。御恩は一生忘れません」


「●●、こういう結果になってしまって非常に残念だ」


「受け入れた事なので後悔はしてません」


「そうか。。。もう転職先は決まったのか?」


「何も決まってません。暫くはニートをエンジョイします」


「無理強いはしないが伝手があるから紹介するけどどうだ? お前なら即戦力になるから欲しい取引先は多いぞ」


「即戦力になるって(笑)。買い被りすぎですよ。それに解雇された自分なんか雇ったら取引先の評判がた落ちで迷惑かけちゃいますよ?」


「ったく、本当に自分の事分かってないなお前は... まぁいい、俺の連絡先は持っているな。困った事があったら遠慮せず連絡してくれよ」


実は、運がいいのか経験を買われて転職エージェントで紹介された数社からオファーを貰っていた。


しかし、どうせなら今まで経験した事が無い世界に行って挑戦したい気持ちがある。だけど1から始めて迷惑掛けてるんじゃないか?こんな自分が通用する世界はあるのだろうか?と繰り返し頭の中で考えていた。


全ての挨拶を終え、私物を纏めてもう2度と戻る事のない会社を出た。


「●●君!!」


後ろから大声で呼び止められた。


「陶山か、そんな大声出されるとびっくりするだろう」


陶山は同期で同じ部署だった。優秀で仲間からの信頼もあり、営業成績トップのキャリアウーマンだ。


「どうして私に何も言わないで出て行くのよ!」


「まぁ...忙しそうにしてたからタイミングが無かったんだよ」


「それでも、伝言とかメモを置いて時間下さいとかあるんじゃない?」


「悪い... 確かにそうだな」


「大体●●君はねー ...」グチグチグチグチ


「さすが営業成績トップだな、正論過ぎて何も言い返せない 参りました」


「その営業成績トップって言い方止めてくれる? 知ってるでしょ?


私が営業成績トップなのは枕営業してるからだって影で言われてること」


「知ってるよ。見た目派手で美人だから鼻の下伸ばした顧客を釣ってるってな。社長の愛人って噂も聞いたな、うんうん」


「私は真面目にいってるのよ?」


「分かってるよ。陶山は見た目と違って真面目過ぎる位真面目だからな。営業トップになるために相当な努力をして顧客から信頼を勝ち取ったし、それに担当者が君の仕事ぶりを褒めていたよ。」


「”見た目と違って”は余計でしょ!」


「影口してる小物は放っておけよ。ちゃんと評価している奴が少なくても目の前に一人いる。」


「......」


「声掛けてくれてありがとな、暫くニートになるから何かあったら愚痴くらい聞くわ。あっ、でも陶山は酒が入ると泣いてばっかりでうるさいからなー(笑)」


「......」


「どうした?」


陶山が泣きそうな顔になっている


「何で... 解雇されたの?」


「知らないのか?」


「色んな噂は聞いたけど...その...横領したとか客先担当者を殴ったとか...」


「電車で痴漢して捕まったんだ」


「えっ?」


「って言ったら信じる?」


「冗談止めてよ!私がどれだけ心配していたと思ってるの?」


「今更解雇理由がどうだとか言ってもしょうがないだろう?さっきも言ったけど噂を喋りたい輩には喋らせておけばいい。信じる信じないは陶山の判断に任せる」


「うん...  わかった」


「そんな事より今から顧客と打合せだろう?プレゼン資料の準備は出来たのか?仕事に集中しなさい」


「急に口調になるのは反則」


「じゃあとして最後の指示だな(笑)」



―――まさかこの日が最後のサラリーマン生活になるとはこの時は思いもしなかった。

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