日本一の天才少女たちは出会えない
キノハタ
第一章
第1話 二人の少女は旅に出る
「じゃ、留守はお願いね? ご飯は全部準備してあるし」
「りょーかい。まっかせなさーい。行ってらっしゃい、お姉ちゃん」
「シロカ、気を付けてね?」
「うん、お母さんも無理しちゃダメだよ? じゃあ、行ってきます」
※
「アカネ、これがあなたにとって良い旅でありますように」
「お、今日は何の日だった?」
「もうお父さん、アカネの一人旅の日でしょう?」
「そうか、まあ、アカネだしな。大丈夫だろう。かわいい子は旅をするべきだ。それで、準備はいいのか?」
「もちろん、もろもろバッチリ。じゃあ、行ってくるよ、ママ、パパ」
同日、同時刻。
高校二年生の二人の少女は生まれた我が家を出発した。
百井シロカは、文才があった。勉強の合間に書いた小説が書籍化されその印税で家族を養っている。
合坂アカネは、才媛だった。数学最難関の未証明問題を学生の身で証明してのけた、もらった賞金は大半、適当な団体に寄付してしまった。
そんなのに加えて、模試の成績までトップだから、誰もが二人のことを唯一無二の天才だと思っていた。
ただ、どちらかがどちらかに勝ったりする、わけではなく。
中学校から高校まで、彼女たちが参加した模試の全国一位は常に二人。
模試の記録は10連続同率一位。
誰もが呆れて、誰もが讃える、そんな二人。
きっと悩みなどどこにもなく、きっと異次元の思考を持っているのだろう。
そんな風に、誰もがずっと思ってた。
そんな二人はあるとき、ふと想う。
この人に会ってみたい。
自分より賢い人など会ったことがない。
隣を歩ける人など見たこともない。
それがちょっと、寂しかったなど、誰にも言ったことはないけれど。
もし、自分と並べる人がいるのなら。
もし、自分と同じ何かを抱える人がいるのなら。
会ってみたい。
どんな人か知ってみたい。
始まりはただ、それだけ。
そして、ちょっと都合のいい期待を乗せるなら。
シロカはわかって欲しかった。
独りで家族を支える重さを。
そしてそれをできてしまったから、誰にも言えなかった不安を。
アカネはわかって欲しかった。
ライバルがいない寂しさを。
それゆえに自分の全身全霊を、ぶつける先のない退屈を。
お互い、ただ、わかって欲しかった。
もしかしたら、あなたなら。
わかってくれるのかもしれない。
そう想ったから。
だから今日、二人は、顔も知らない、会ったこともない少女に、会いに行く。
あなたがどんな人か知ってみたい。
会ってみたい。話をしてみたい。
二人は進む。その出会いがもたらす変化を何一つ知らないまま。
高校二年生の夏休み。
二人を乗せたバスと電車が、それぞれの音を立てて、旅の始まりを歌ってた。
あなたに会いたい。
これはそんな特別な、でもありきたりな、二人の少女の物語。
「どんな人かな―――、『合坂アカネ』」
「何話そっかな―――、『百井シロカ』」
ところで。
別に。
待ち合わせなど、していないから。
たまたま出発日は被ってしまったのだけど。
そんなことを、二人は知る由もない。
同日、同時刻。
何も知らぬ彼女たちは、相手のいないお互いの家に向けて意気揚々と出発したのだ。
これは日本全土を舞台にした、天才少女二人の壮大な『擦れ違い』の物語。
そんなことを二人は、まだ、知らない。
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