第7話 僕が僕であるために-7



 幼稚園の集団が公園の芝生を所狭しと駆け回っている。所々に年配のグループが見られる。曲がりくねった沿道を走り抜ける制服姿の少女、千津子。

 千津子は初めに会った場所へ行ってみた。当然そこに大島の姿は見えなかった。沿道を駆け抜けて丘へ上がり辺りを見回した。人影の少ない平日の午前中、千津子の目に入ったのは、子供と年寄りと、そして付き添いの女性たち。千津子は走った。きっとこの公園のどこかにいる、と思っていた。なぜかはわからない。ただ、大島はここにいる、と信念にも似た感覚を抱いていた。

 学校から東へ走り、公園の南東端から北へと走った。北に上がると、植え込みが多く見通しが悪い。全部の小路を探そうかとも思ったが、千津子は感じた、きっと見晴らしのいいところにいる。そう思うと大池の方へ走った。

 林を抜け、丘を越えて、車道を渡り、大池の側に出ると、小学生が写生に来ていた。千津子が予想したよりもずっと賑やかな風景に、ここにはいない、と感じた。千津子は東へ走った。城跡の正門は、人気があり過ぎる。補導されることも考えれば、記念碑かグラウンドの方だと思った。疲れても歩き続けると踏切の警笛が聞こえてきて、植え込みが切れると見晴らしのいいグラウンドに出た。千津子は息を整えながらあたりを見回した。ベンチには老人が二人座っている。藤棚の下には誰もいない。ずっと見渡すと、外野席の芝生の上に寝ている、一人の男。

 ―――いた。

千津子はグラウンドを真っ直ぐに突き抜けて近づいた。いち早く子猫が目を開いて、千津子を見た。子猫を驚かさないように荒れた息を整えて、近づくにつれて足取りを遅くして、千津子は近づいた。大島だった。

 子猫は千津子を見ている、笑ったような顔をして。千津子はその猫の笑顔を見て、自分の顔もほころぶのを感じた。そう、きっと、この人じゃない。確信を持って話し掛けた。

「大島さん」

「ん」

今まで眠っていたと思った大島は、すぐに返事をしてぐっと伸びをすると体を起こした。

「やぁ、あんたか」

「大島さん」

千津子はその後に続く言葉が出なかった。昨日見たのと同じ笑顔、それは穏やかな陽だまりのような印象を与えた。

「どうしたの。こんな時間にこんなとこで」

「大島さんは?」

「おれは、ガッコ行ってないから。それより、いいの、ガッコ抜け出して」

「あ、あのぉ、あたし、大島さんに訊きたいことがあるんです」

勢いでそう言うと、大島の様子を伺った。大島は何も変わらずニコニコしている。

「なに?」


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