3-1. 宇宙サイズの蜘蛛

 隣の席の二人連れが何やら揉めている。

「それは女神様に失礼です!」

 金髪碧眼へきがんの少女が大学生風の男に怒った。

 レヴィアはチラッとそちらを見ると、

「あれ? 異世界人じゃな……」

 と、つぶやいた。

「異世界人って、私たちみたいな?」

 オディーヌが小声で聞く。

「そうじゃ……、あー、ミネルバのところの子じゃな。さすが田町、いろんな星の人がおる」

「この街はそんなに特別なんですか?」

「宇宙をつかさどる組織があるんじゃよ。いわば全宇宙の中心じゃな」

「全宇宙の……中心……」

 あまりに壮大な話にオディーヌは絶句する。


     ◇


「それで、今日は何するの?」

 シアンはニコニコして言う。

 レオはミルクを飲みながら、

「土地を整備したいなと思うんだけど……」

「おぉ、国土ね。レヴィアできる?」

「はいはい! ちゃんと考えましたよ。あの辺は標高五百メートルくらいの山が連なっておりますので、地下に太いパイプを通してですね、液状化させて土砂を全部海へと流してしまおうと思っております」

 レヴィアは自信ありげに言った。

「どのくらいかかるの?」

「一週間もあれば」

「僕が10分でやってあげるよ」

「へ!?」

蜘蛛くもでドーン! って」

蜘蛛くも……ですか? 十キロ四方の山地ですよ?」

「まぁ、見ててよ」

 シアンはうれしそうに言うが、レヴィアは渋い表情をしていた。


        ◇


 神殿に戻ると、シアンはみんなをコテージに入れ、コテージごと転移させて国土予定地の上空に跳ばした。

「うわぁ!」

 窓からの景色にレオが驚く。

 青々とした山々の稜線と谷が、編み込まれるように連なりながら海まで続いている。家もなければ人の手が入った形跡もない。

「この山地が僕たちの国になるの?」

 レオはシアンに聞いた。

「そうだよ、見ててごらん」

 シアンはニコッと笑ってそう言うと、

「『クモスケ』カモーン!」

 そう叫んで、澄み切った青空に向かって両手をフニフニと動かした。

 すると上空空高く、真っ青な青空の向こうから、白く霞みながら何か巨大なものが下りてくる……。

「蜘蛛……、なの?」

 レオが不思議そうに聞くと、シアンは、

「そうだよ、可愛い奴だよ」

 そう言って嬉しそうに笑った。

 下りてきた蜘蛛はどんどんと大きくなり、その異常な巨大さをあらわにする。確かに形は蜘蛛だった。

 しかし、それでもまだはるか彼方上空、青空の向こう側なのだ。

「え? すごく大きくない?」

 レオはビビる。

 さらに下りてきて、ようやく青空のこちら側に見えてきたときには、足の太さだけで数キロメートルはあろうというとんでもないサイズになっていた。

「ええっ!?」「ひゃぁ!」「うわぁ……!」

 一同、唖然あぜんとしながらその超巨大蜘蛛の姿に圧倒される。

 やがて蜘蛛は海の上に降り立ち、その衝撃で津波が発生して海岸線を巨大な波が洗っていく。そして、程なく衝撃波がコテージを襲った。

 ズン!

 という音と共にコテージが大きく揺れる。

「うわぁ!」「キャ――――!」

 叫び声が響いたが、シアンは気にもせずに、

「全長253キロメートル、僕のペットだよ」

 と、うれしそうに紹介した。

「ぺ、ペット……」

 レオは絶句した。

 蜘蛛はあまりに巨大すぎて、上部はまだ宇宙にいる。直径数キロの足は雲をはるかに超え、宇宙までまっすぐに伸びているのだ。

 その圧倒的なスケールに一同は言葉を失い、ただポカンと口を開けて宇宙まで届く巨大構造物を見つめていた。


「さて、整地しよう。クモスケ、カモーン!」

 そう言って、シアンはクモスケに指示を出した。

 太さ数キロもある足がゆっくりと持ち上げられ、山地の方へ移動してくる。見た目ゆっくりではあるのだが、それはあまりに大きすぎるからであって、実際の速度は音速を超えている。

 そして、山地上空から一気に足を下ろし、蜘蛛の足は山地にめり込んだ。

 直後、衝撃波と共に轟音が響き、コテージは大きく揺れ、ビリビリと振動する。

「ひぃ!」「うわぁ!」

 レオとオディーヌは窓枠にしがみつき、何とか耐える。


 蜘蛛がゆっくりと足を持ち上げると、そこには直径数キロの巨大なクレーターができていた。

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