2-14. 幸せの記憶

 一行はレヴィアの神殿へと戻ってきた。

「いやー、楽しかった!」

 シアンはご満悦の様子だったが、三人はゲッソリとして無言だった。

「さーて、寝るか!」

 そう言うとシアンは手を上げる。ボン! と爆発音を伴いながら、丸太でできたコテージが神殿の広大な広間に出現した。

「へっ! ちょっと、シアン様、ここ、我の寝床なんですが……」

「レヴィアも人型になってよ、一緒に寝よう!」

 そう言いながら、シアンはレオとオディーヌを連れてコテージの中へと入って行った。

「あ……」

 レヴィアはそれを見ると、重低音のため息をつき。渋々また金髪のおかっぱ娘になってついて行った。

 コテージの中は2LDKとなっていて、広いダイニングキッチンに、ベッドルームが2つだった。一つはツイン、一つはダブルである。

「レオは僕と寝よう!」

 そう言ってシアンは、レオを連れてダブルベッドの部屋へと入って行った。

 シアンはピョンと飛んで、ベッドにダイブする。

 ベッドを見たレオは、

「え? ベッド一つしかないよ……?」

 と、シアンに聞く。

「いいじゃない、一緒に寝よ!」

 寝転がったシアンはそう言ってベッドマットをポンポンと叩く。

「えっ? いや、そのぅ……」

 赤くなるレオ。

「なぁに? 僕を襲う?」

 シアンはニヤリと笑う。

「そ、そんな事しないよ!」

「じゃあ、こっち来て……」

「歯磨きとかしないと……」

 レオが渋ると、ボン! と爆発音がしてレオの服がパジャマに変えられた。

「生活魔法で汚れは全部落としておいたから、もう寝ても大丈夫だよ」

 そう言ってシアンはニコッと笑った。

「あ、ありがとう……」

 レオは恐る恐るベッドに乗って横になる。

「はい、もうちょっとこっち」

 そう言いながらシアンはレオに毛布を掛けた。

 シアンの優しい温かい香りに包まれてレオは赤面する。

「今日はお疲れ様。明日からは忙しいよ!」

 そう言いながらシアンは部屋の明かりを消した。

 レオはドキドキしていたが、疲れもあって、すぐに眠りに落ちて行った……。


        ◇


 レオは夢を見ていた。

 優しい大好きなママと、ガッシリとしたひげを蓄えた男性……。だが、男性は顔のところが光っていて誰だかわからない。でも、温かい声でレオの事を呼んだ。

 そして、ママに右手を、男性に左手を持ってもらってブランコのようにゆらしてもらった。心が温かくなってくる。

 やがて空が明るくなり光芒が射した。すると、ママも男性もその光に導かれるように天へと登っていく。

 レオは追いかけようとするが、身体が動かない。ママも男性も優しく手を振りながら小さくなり天からの光に溶けていった……。


「ママ――――!」

 レオが叫ぶ。

 気がつくと、レオは温かく柔らかい物に包まれていた。

「ん?」

 寝ぼけ眼で温かいものを触って……、レオは目が覚めた。

 レオはシアンと抱き合うように寝ていたのだ。

「あわわわ……」

 レオが離れようとすると、、

「なぁに? ママが恋しくなった?」

 薄暗がりの中でシアンがほほ笑みながらレオを引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。

「シ、シアン……、ちょ、ちょっと……」

 ドギマギするレオ。

「ママ……、呼んであげようか?」

 シアンは優しい顔でレオをのぞき込む。

「えっ!?」

 あまりに意外な提案にレオは絶句する。

 小さな村で宿屋を営んでいたレオの母親は戦火に焼かれ、かなり前に亡くなっていた。レオはその時に捕まり、奴隷として売られていたのだ。

 早朝に裏山から見た、燃え上がる宿屋がレオの脳裏にフラッシュバックする……。

「う……、うぅ……」

 レオは呼吸が速くなりながら、何とか自分を保っていた。

「レオ……、久しぶり……」

 シアンがレオを見つめて言った。

「え?」

 レオが混乱していると、

「私よ、ママよ……」

 そう言って愛おしそうにレオの頬をなでた。

「ママ……?」

「大きくなったわねぇ……」

 シアンに憑依ひょういしたレオのママは目に涙を浮かべて言う。

「ほ、本当にママなの?」

 するとママは静かに歌い始めた。

『聖なる光を~まとい~♪ 軽やかに~舞え~♪ レオ~♪』

 綺麗な歌声が緩やかに部屋の中に響く……。

「ママ――――!」

 レオはママに抱き着く。

 子供時代によく歌ってくれた替え歌の童謡。それは二人しか知らない幸せの記憶だった。

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