2-12. 戦略爆撃機B29
「働く人はああいう所で仕事したりするんだ」
シアンはレオとオディーヌに説明した。
「書類仕事……ですか?」
オディーヌが聞く。
「うーん、今はもうパソコンだねぇ」
「パソコン?」
「情報を処理する機械があって、他の人と連絡とったり、調べ物したり、資料作ったりするんだ」
「それ、一つ……もらえませんか?」
「えっ? うーん……。まぁいいか……な。いいよ! 後で最新型一台あげよう」
シアンはちょっと悩んだが、オディーヌを見てニッコリと笑って言った。
「ありがとう!」
オディーヌはうれしそうに笑った。
「シアン様! 前! 前!」
レヴィアが叫ぶ。
「へ?」
よそ見をしていたシアンが前を見ると、高層ビルが目前に迫ってきていた。
「ひぃ!」「キャ――――!」
悲鳴が上がったが、ビルにぶつかる直前、ドラゴンの巨体はワープしてまた別の夜空を飛んでいた――――。
「いやー、危なかった! きゃははは!」
シアンはうれしそうに笑ったが、三人は無言だった。
しかし、先ほどまでとは違って真っ暗である。ただ、静かに満天の星空がレオ達を照らしていた。
「あれ? ここも東京?」
レオが不思議そうにシアンに聞いた。
「そのまま東京なはずだけどなー」
シアンはそう言って辺りを見回すと、遠くを飛んでいた飛行機から何かが次々と投下されていく。
ピュ――――ッ! ピュ――――ッ!
それは激しく光りながら暗い地面へ向かって真っ逆さまに落ちていき、直後激しい爆発をともなって巨大な火の手が上がった。
ズーン! ズーン!
激しい衝撃音が夜空に響いた。
「えっ!? 何あれ!?」
驚くレオ。
「戦略爆撃機B29じゃ……。我々は東京大空襲の時のアーカイブの中に来てしまったようじゃ……」
「あ――――! レオ達に見せる候補を探してた時の奴だな……。来るつもりなかったのに……」
シアンは額を押さえた。
「え? 爆弾で街が焼かれるってこと?」
「そう、東京も昔はこうやって爆弾で焼き尽くされて十万人が殺されたんだよ」
「十万人!? それがこれから殺されるの?」
レオは真っ青になって聞く。
「まぁ、アーカイブだから現代に直接つながってる訳じゃないけど、これから爆弾が雨のように降ってみんな焼き殺されちゃうんだ」
「そ、そんなぁ……。ねぇ、止められないの?」
レオはシアンの腕をつかんで聞いた。
「これは歴史だからねぇ……」
「でも、今あそこにいる人たちは苦しい思いをするんだよね?」
「まぁ、それは……、そうかな」
「ねぇ、とめて」
レオは懇願する。
「南からB29が約三百機飛んできます。高度約三千メートル。搭載してる爆弾は……全部で千六百トン、四十万発ですね。殺る気満々ですよ」
レヴィアは淡々と言う。
「守る軍隊は何やってるの?」
レオが悲壮な顔をして聞く。
「対抗できる軍事力はもうほぼ壊滅されちゃったんじゃよ」
「じゃあやられっぱなし?」
「そうなるのう」
「なんでそんなことに?」
「国というのは無数の人の集まりなんじゃ。賢くまとめ上げて正しく導かないと多くの国民が死ぬって言うことなんじゃ。そしてそれは簡単じゃない。シアン様がお主らに見せたかったのはそう言う現実なんじゃ」
レヴィアは重低音の声で淡々と言った。
やがて次々と後続のB29が焼夷弾を投下していく。
ピュ――――ッ! ピュ――――ッ!
無慈悲な爆弾の雨が降り始める。
「あ――――っ! みんな殺されちゃうよぉ!」
レオが叫ぶ。
あちこちで上がり始めた火の手が夜空を焦がし、B29の編隊を浮かび上がらせた。
銀色に鈍く光る機体は四機の巨大なプロペラを回し、爆弾を満載して不気味に淡々と東京湾からやってくる。それはまさに十万人の命を奪いに来た死神だった。
「ねぇ、とめて、シアン! お願い!」
「しょうがないなぁ」
シアンはそう言ってニヤッと笑いながら、胸のところから黄色いアヒルのおもちゃを取り出した。
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