2-11. ドラゴン遊覧飛行

「さて、せっかく来たんだから東京を案内してあげよう」

 そう言って、シアンはみんなを引き連れて屋上へと移動した。


 地上二百三十メートルに吹く風はさすがに強かったが、レオもオディーヌもうれしそうに三百六十度の夜景のパノラマを堪能する。

「じゃぁ、レヴィア、僕たち乗せて飛んでよ」

 無茶振りするシアン。

「え!? こ、ここでですか?」

 レヴィアは観光客がそれなりにいる屋上を見回して言った。

「大丈夫、大丈夫。飛び立っちゃえばこっちのもんだよ」

「我が乗せなくたって、普通に飛べばいいじゃないですか!」

「僕が乗りたいんだよ」

 シアンはニコニコしながら言った。

 レヴィアは目をつぶり、大きく息をつくと、

「……。じゃあ、すぐに乗ってくださいよ」

 そう言って少し離れると、ボン! と爆発音を放って巨大なドラゴンへと戻った。

「キャ――――!」「うわぁ!」「ば、化け物だぁ!」

 辺りが騒然とする。

「きゃははは! やっぱりレヴィアはこうじゃないと!」

 うれしそうなシアン。


「いいから早く乗ってください!」

 レヴィアの重低音の声が響く。

 シアンはレオとオディーヌを抱えると、ヒョイッとレヴィアの背中に飛び乗った。

「出発進行!」

 シアンは叫ぶ。

 レヴィアはバサッバサッと巨大な翼を大きくはためかせると、一気に夜空へとジャンプして離陸した。

「うわぁ!」「きゃあ!」

 レオとオディーヌは背中のウロコのトゲになっているところにしがみつき、振り落とされないように必死に耐える。


「飛び立ったぞ――――!」「なんだあれは!?」

 騒然とする屋上の人たちをしり目に、バサッバサッとさらに翼を羽ばたかせ一気に高度を上げるレヴィア。

 東京に突如現れた、ファンタジーな怪物の軽やかな身のこなしに見る者は言葉を失い、ただ夜空に飛び去って行くさまを呆然ぼうぜんと見ていた。


「きゃははは! いいね、いいね!」 

 シアンは大喜びである。

「落ちないで下さいよ!」

 レヴィアは重低音を響かせながら不機嫌そうに言う。


 どんどんと高度を上げていくと、旅客機が飛んでいるのが見えた。羽田空港への着陸体制に入っている。

「お、挨拶しよう!」

 シアンははしゃいで言う。

「え!? 危ないですよ」

「いいから、いいから!」

 そう言うとシアンは、レヴィアの巨体をボウッと光らせて勝手に操作し始めた。そして旅客機へと舵を切った。

「うわ――――!」

 制御を奪われたレヴィアは喚く。

 ほどなく旅客機のそばまでやってきて編隊飛行となる。灯りの点った窓がズラッと並び、乗客の姿が見える。

「うわっ! 人が乗ってるわ!」

 オディーヌが驚く。

「この星では、遠くへ行くときはこうやって飛行機で行くんだよ」

 シアンは乗客に手を振りながら説明する。

「こんな大きなもの、どうやって飛んでるんですか? 魔法?」

「この星には魔法はないよ」

「え!? 魔法がない!?」

「魔法は後付けなんだよね。魔法がある星の方が特殊なんだよ」

 オディーヌは絶句した。子供の頃から当たり前のように存在し、便利に使われていた魔法が誰かに後付けされた存在だったとは、想像もしていなかったのだ。


 徐々に旅客機に近づいて行くと、乗客もドラゴンに気がついたようで、皆驚き、スマホを向けたり大騒ぎしている。

「シアン様、これ以上はヤバいですよ!」

「じゃあ、次はビルでも見ますか」

 そう言って眼下に見えてきた品川の高層ビル群へと舵を切った。


 一気に急降下する一行。

「ひぃ!」「きゃぁ!」「おわぁ――――!」

 叫ぶ三人をしり目に、

「きゃははは!」

 と、シアンは楽しそうに笑いながらさらに加速する。

 グングンと迫る高層ビル。

「そりゃー!」

 シアンはビルの間を巧みに通過していく。

 残業しているフロアでは明かりが灯り、働いている人がパソコンを叩いている。

「この辺はオフィスビルだねー」

 そう言いながら地面スレスレを通過し、今度は徐々に高度をあげながら品川駅前を飛ぶ。

 帰宅途中の多くのサラリーマンたちはドラゴンに気がつかなかったが、子供が見つけて指さして叫んだ。

「ママ! 恐竜だ!」

 母親は何を言っているのかと、呆れたように指の先をたどりながら、

「何言ってるの、恐竜なんていない……」

 と言いかけて固まった。

 シアンは母子連れに手を振り、

「ひぃ!」

 と叫ぶ母親のすぐ上を、ビュオォと轟音をあげ、通過していく。


「ヒャッハー!」

 シアンはそう叫ぶと今度は一気に高度を上げる。

「ママ! 僕もあれ乗りたい!」

 子供が叫んだが、母親は言葉を失っていた。


 轟音に気がついたサラリーマンたちは、ドラゴンの巨体が飛び去っていくのを見ながら唖然とする。

 みんな足を止め、ザワザワとするが、もうドラゴンはスマホでは撮れないほどに小さくなっていった。

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