1-13. ヘッドハント

 シアンは、ふぅ、と息をつくと、オーラを引っ込め、瞳も水色に戻った。


「王子様怒らせちゃってマズくないですか?」

 レオが心配になってオディーヌに聞く。

「うーん、今のはお兄様の方が問題だけど、王族はプライドを優先させる存在だから……面倒な事になるかも……」

「シアン、じゃあ、おいとましてドラゴンの所へ行こうか?」

「えっ!? まだケーキ食べ終わってないのに!?」

 シアンはケーキを皿に盛りなおしながらそう言った。

「ちょっとまって!? あなたたちドラゴンの所へ行くの!?」

 オディーヌは可愛い目を大きく開いて言った。

「うん、僕たち二人で奴隷や貧困のない『自由の国』を作るんだけど、どこに作ったらいいかドラゴンに聞こうと思ってるんだ」

 レオはニコニコして言う。

「自由の国にドラゴン!? あなた達本当にとんでもない人たちね!」

 オディーヌは目を輝かせて興奮気味に言った。

「僕は物心ついた時にはもう奴隷だったんだ。朝から晩まで働かされ、理不尽な暴力を受け続けてきたの。僕だけじゃない。街外れには浮浪児が溢れてるし、こんなのはおかしいんだよ」

 レオは淡々と言った。

「そ、そうね……。ごめんなさい、そうなってしまっているのは私たち王族の問題でもあるわ……。」

 オディーヌは痛い所を突かれたように焦りながら答えた。

「僕はその辺、良く分からないけど、苦しい人、困ってる人を集めて、新天地でみんなが笑顔で暮らせる場所を作っちゃえばいいんじゃないかって思うんだ」

「そんなこと……、できるの?」

「だってこの国だって奴隷たちが支えてるでしょ? だったら奴隷たちだけで国作ったら今より良く回るよね?」

「……」

 オディーヌは圧倒され、言葉を失った。『支配階級は搾取しかしてない』という批判ともとれる言葉に返す言葉が無かったのだ。

「シアン、そうだよね?」

「コンセプトはその通りだし、インフラは僕が作ってあげる。後はルールを決め、オペレーションを具体化する仲間集めだよね」

 シアンはケーキをつつきながら言った。

「オディーヌも一緒にやらない?」

 レオはニコッと笑って聞いた。

「えっ!? わ、私!?」

 焦るオディーヌ。

 それを見てシアンは笑った。

「レオ、君はすごいな。王族をヘッドハントしようなんて普通思いつかないよ」

「だって、なんだかオディーヌは窮屈そうなんだもん。楽しいこと一緒にやろうよ」

 レオは澄んだ瞳で淡々と口説く。

「そ、そうね……。確かに王族の暮らしは窮屈よ。しきたりに儀式、それからマナー、マナー、マナー。そして私の王位継承順位なんて下の方だし、どうせ政略結婚させられるんだわ……」

 オディーヌは苦々しい顔をしてうつむいた。

「なら、一緒に行こうよ」

 レオはそう言って右手を差し出した。

「……」

 オディーヌはその手をジッと見つめる。

 そして、目をつぶり、大きく息をつく……。

「後ろ盾は……、シアンとドラゴン……ってことよね?」

「そう、世界最強だよ」

「軍事はOKってことよね? 経済は?」

 オディーヌが聞くと、シアンは手をフニフニを動かした。

 ドシャー! と大量の金貨がテーブルの上に落ちてきて、シアンはドヤ顔でオディーヌを見る。

 オディーヌは言葉を失い、ただ、金貨の山を見つめていた。

「それに……、申し訳ないんだけど、もうオディーヌも関係者なんだ」

 レオはオズオズと切り出した。

「え?」

「この国づくりが失敗するとこの国もこの星も消えちゃうんだ」

「へっ!?」

 唖然とするオディーヌ。

「ゴメンね。でも、奴隷や貧困を放置していたのはみんなの責任だから、みんなの問題かなって思うんだ」

「消えちゃうって、誰が消すの?」

 レオは申し訳なさそうに、ケーキをパクついているシアンを指さす。

 オディーヌは大きく目を見開いてシアンを見て……、そして、ガックリとうなだれた。

「ゴメンね。だからオディーヌにも協力して欲しいんだ。そしたら成功できる気がするんだ」

 レオはゆっくりと丁寧に言った。

 オディーヌは大きく息をつき……、そして、いきなり両手でテーブルをバン! と叩いた。

 そして、レオをキッとにらんで言った。

「いいわ! 今日、シアンには助けられたし、貧困を放置してたのは確かに王族の問題だわ。やるわよ。何やったらいいの?」

「ありがとう!」

 レオはもう一度右手を出し、オディーヌは一瞬苦笑して、そして、レオの目をしっかりと見ながらガッシリとその手を握った。

 シアンはケーキを口いっぱいにほお張って、モグモグとさせながら二人の握手をうれしそうに見ていた。


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