1-7. 死んでいた騎士
騎士たちは黒装束の男たちの状況を調べ、何かを相談すると、代表が王女の所へやってきて耳打ちする。
「あれ?」
レオは驚いた。この騎士は槍で滅多突きにされ、馬から落とされていたはずだ。それなのに、ケガ一つなくピンピンとしているのだ。レオはどういうことか分からず
王女は騎士の言葉にうなずくと、
「分かったわ。後始末はよろしく。私は先に帰ってるわ」
と、王族らしく堂々とした態度でそう言った。
王女は大きなブラウン色の瞳でレオとシアンを見て、
「あなたたち、ありがとう。後で宮殿に来てくれる? お礼がしたいの……」
そう言ってニッコリと笑った。
長いまつげに整った目鼻立ち、そして透き通るような美しい肌。美しい王女の微笑みにレオはドキッとしながら、
「わ、分かりました。僕はレオ、彼女はシアンです」
そう言って頭を下げた。
「レオにシアンね。私はオディーヌ。一緒にお茶でも飲みましょ」
オディーヌはうれしそうにそう言うと、馬車に乗りこむ。そして、手を振りながら何事もなかったかのように街の方へと去っていった。
王宮にご招待されて王女とお茶会。それは奴隷の少年にとって信じられない話だった。レオは心臓がドキドキして馬車の行方をいつまでもボーっと見つめていた。
◇
騎士たちは倒れている黒装束の男たちを縄で縛りあげていく。
「一応生きてるんだよね?」
レオはシアンに聞いた。
「レオが『殺すな』っていうから、いろいろ考えたんだよ!」
シアンはちょっと不満そうに言う。
「あ、そ、そうだよね……、ありがとう」
レオはお礼を言った。
「でも、人助けもいいものだね」
シアンはすがすがしい表情でニコッと笑った。
「悪い奴が捕まっていく……。いい損ができたってことだよね」
「まぁ、損ばかりじゃやってられないけどね」
そう言ってシアンは肩をすくめた。
「そう言えばあの人って、ケガしてたと思うんだけど……」
レオは騎士を指して言った。
「ケガ? 死んでたよ」
シアンはあっけらかんと言った。
「え!? 生き返らせたの!?」
「あれ? マズかった?」
シアンはキョトンとした顔で言う。
「い、いや。いいことだと……思うけど……」
「人間は死んでもしばらくは脳が生きてるからね」
シアンはそう言いながら自分の頭を指さした。
「え? そう言うものなの?」
「一応そういうことになってるよ」
シアンはそう言ってニヤッと笑った。
「シアンと話していると何が本当だか分かんなくなるよ」
レオは首を振りながら言う。
「ふふっ、信ずる者は救われるよ。きゃははは!」
シアンはうれしそうに笑った。
◇
二人はどうやって国を作るのか、雑談まじりに話しながら街を目指した。
黄金に輝いてウェーブを作りながら揺れる麦畑の間の道を、時に笑いながら楽しく歩く。
しばらく行くと、城壁に囲まれた街が見えてくる。城門をくぐるとそこには立派な石造りの街が広がっていた。
「綺麗な街だねぇ」
シアンは目をキラキラさせ、キョロキョロしながら石畳の道を歩く。
「ここはニーザリの街。もう少し行って入ったところがうちの商館だよ」
「うんうん、奴隷の権利を取り戻さないとね」
シアンがそう言うと、レオは金の短剣を取り出して眺めながら、ゆっくりとうなずいた。
◇
商館に着くと、ジュルダンの部屋へ行った。
レオの中では、いよいよ奴隷から抜け出せるかもしれないという興奮と、ちゃんと交渉できるかどうかの不安がせめぎ合っていた……。
そんな緊張しきったレオをシアンは軽くハグし、
「頑張っておいで……」
と、応援した。
レオは大きく息をつくと、トントンとノックをして、
「レオです。お話があってまいりました!」
と、叫ぶ。
「何だ?」
中からの返事を待ってドアを開けると、大麻臭いよどんだ空気がもわっと漂う。
レオはちょっと顔をしかめると、
「失礼します!」
と、中へと進んだ。
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