二人の初恋とお約束

琴葉 刹那

プロローグ 意味なんてない

 ザッ。ザザー。

 雨が降っていた。飛ぶ鳥さえ落とすような激しい雨が。

 まるで今までの罪を流すように。まるで『今まで』を壊すように。まるで・・・一人の少女を奈落へと突き落とすように。

 三月二十四日。近畿有数の名門校、私立蒼穹大学の合格発表の日。若者たちの努力の理由を、絶望か希望か運命を二つに分ける日。

その日の真夜中。少女、菊池葉月は『青木ヶ原樹海』の前に来ていた。

 その手には口の切られた切符が握られてあった。


「運転手さんも車掌さんも・・・いい人たちだったなぁ。」


 そう静かに言う。車掌さんは近畿から出たことのない私に乗り換えとか色々教えてくれたし、運転手さんは見ず知らずの私に色々な明るい話をしてくれた。

 ・・・いや、運転手さんの方は当たり前か。


 何故ならここは国内有数の自殺スポットなのだから。


 私は樹海へと足を踏み入れた。

 そこから先は、正直覚えていない。死神に誘い込まれるように、無意識にただ歩いていた。気がついた時には、美しい、あと一夜で満月になるであろう月が南の空へと上がっていた。

 私は目を瞑り、今までのことを思い出す。

つらくて、痛い記憶を。認められようと、何の意味もないのに、努力した日々を。

 しかしどんな記憶にも一筋の光明が、明るく、侵し難い思い出があるものである。


「はー君。」


 はー君、はーちゃんと呼び合い、共に遊んだ日々。何かを約束し、別れた遠い黄金の日々。あれは・・・。


「いや。もう関係ないか。」


 そう。自分はこれから死ぬのだから思い出すことに意味はない。・・・でも


「最後くらいは認めて欲しかったな。」


 自分はまるで最も欲しい。最後の一片を得られない、あの月のよう。

 そう思うと、不思議と笑いが込み上げてきた。


「あはっ。あははははははっ。」


 そうして私は胸にナイフを突き立てたのだった。

 三日後に出る新聞を、初恋の人が見るとは知らずに。

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