どうも、一寸法師です。
里仲光
第1話 UNDER GROUND
インストールはまだ完了していなかった。
「遅いな。まだ70%か。」
帰りにコンビニで買ったコーラを一口飲む。100ポイントの味。
これを7本我慢すればそれなりに良い飯(高校生の俺の価値観では)が食べられるし、500本ほど我慢すれば旧型のアンドロイドも手に入る。
優秀な奴なら幼稚園児でもわかりそうな理屈。しかしながら、夏の下校中に買うコーラよりもうまいものを俺はまだ知らない。
「風呂入っても終わってなさそうだな。」
ARゴーグルの左端のインジゲーターは、コーラをぐびぐび飲んでいる間もちっとも動いていない。インストールを始めたのは夜中だったから、もう半日も経っているというのに。
「おい、お前の言ってたゲーム全然インストールできてないぞ」
思念入力で書いたメッセージをセントしてから、俺は風呂場へ向かった。
「アンダーグラウンドって知ってる?」
昼休み、いつものように海賊版ゲームの話をしていたら、親友の坂上が真剣な顔で尋ねてきたのはつい昨日の話。
「いや、知らないな。新作か?」
「俺も昨日知って、インストールしたんだけど、割と昔からあったみたいだ。」
「俺とかお前が知らないってことは、過疎ゲーか?」
「俺もそうだと思ったんだが、プレイ人口はあのSSQの次に多いらしい。まだ日本人プレイヤーは少ないみたいだけどな。」
「マジかよ。世界二位じゃないか。」
「そうなんだ。もちろん国際海賊版だからちゃんとした記事じゃないと思うけど。」
「で、どんなゲームなんだ?ゲーム通貨還元システムは?」
「ゲームとしては、地下の世界を舞台にしたMMORPGで、国際仮装通貨に還元可能なアイテムも存在してるらしい。」
ゲーム通貨還元システムを採用しているゲームは少なくない。海賊版でも。だが、それらはゲームのスポンサーになっているショッピングサイトのポイントに還元される場合がほとんどで、国際仮装通貨のようにどこの店でも使えるものは珍しい。というか他にはないだろう。
だが、ゲーム内で大儲けしても、得られる金額はたかが知れている。
「ほー。」
「お前、どうせ海賊版だからって、思ったろ?」
気の抜けた俺の返事に食いつくように、坂上はデスクに手を置いて俺の顔を覗き込んだ。去年の夏休みに一緒に買いに行ったARゴーグルの向こう側で、目をいたずらっぽく細める。
「「どうせ、半分くらい手数料だろ?」」
「おい、かぶせんなよ。」
「なんとだ。」
「......。」
「手数料は一回の還元につき300円。すごくないか?」
「うおおお。すげぇー。」
「だろぅ。後でURL送っってやるから、楽しみにしとけよぅ!」
ハイテンションになった時の癖。語尾を気持ち悪く上げながら、坂上は自分のデスクへと戻っていったのだった。
「まさか、こんなに時間かかるとは思えないよな。」
リフォームすると言い出してもう10年ほど経っている旧式の風呂場に独り言が反響した。
「うおお!出来てるじゃん。」
風呂から出てARゴーグルをかけると、さっきまで70%だったインジゲーターは消え、COMPLETEの文字に代わっていた。
「いよいよじゃん。」
ベッドに横になり、ARゴーグルを外す。その代わりにVRヘッドセットをかぶって、電源ケーブルを刺す。
「LINK CONNECT」
Welcome to UNDER GROUND
キャラ選択の画面はなく、何のチュートリアルもないまま、俺はUNDER GROUNDにログインした。
どうも、一寸法師です。 里仲光 @hikarusatonaka
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