第2話 飲み水

「はぁ……」


俺は大きく溜息を吐く。

先程から大声で神様に何度も呼びかけているのだが、全く返事は返ってこない。


ひょっとして、俺騙された?


だが体の中に新たなる力――この場合魔力と言えば良いのだろうか?

兎に角、力を感じているのは確かだった。

魔法の力自体が与えられているのは、まあ間違いないだろう。


「ちょっと魔法を使ってみるか」


叫んで喉も渇いたことだし、試しに魔法で水を出して見る事にする。

やり方は何となくだが分かる。

頭の中に図書館の様な物が有って、そこの本棚から必要な情報を引き出す様な感じだ。


俺は引き出した情報に従って脳内で魔法を構成し、右手を突き出し発動させて見た。


「ウォーター!」


因みに魔法名は叫ぶ必要はなかったりする。

じゃあ何で叫んだかと聞かれると、厨ニ心がうずいたとだけ言っておこう。


魔法を発動させてから、水が飲みたいなら自分の方に向けなくては駄目だという事に気付く。

だがこの失敗が、結果的に俺の命を救う事となった。


右手に魔法陣が展開し、勢いよく水が飛び出す。

具体的にどれぐらい勢いよくかと言うと、津波レベルの勢いと水量だった。

俺の手から放たれた津波は草原を蹂躙し、全てを押し流していく。


魔法がともった時。水の匂いが辺りを包み込んだ。

そして目の前には、見事に湿地に生まれ変わった元草原が広がっていた。


「……」


黙って自分の手を見つめる。

そしてもう一度手を翳し魔法を使ってみた。

結果、さらに湿地が広がる事に。


「えぇ……」


思わずドン引きする。

幾ら何でも威力が強すぎだろう。

ウォーターは水魔法の基本中の基本だ。


それが洪水レベルって……


「低位の魔法でこれって……俺はどうやって水を飲めばいいんだ?」


自分に向ければ確実に偉い事になる。

仮に器を置いても――ないけど――間違いなく流されてしまうだろう。

だからと言って、地面の泥濘ぬかるみに口を付けるのは御免被りたい。


何とか善い手は無いものかと頭を捻る。

が、当然そんなものは思いつくはずもなく。


「考えても善い手は思いつかないし、さっき感じた頭の中の奴を利用してみるか」


まずは魔法の事について知ろう。

そう結論づけた俺は、頭の深くに存在する図書館の扉をあけ放ち、その中にある魔法の知識を引っ張り出した。


色々な魔法の名前と効果が頭に浮かび、最後の最後に魔法の基礎へと辿り着く。


何で最後?

普通こういうのは最初じゃね?

まあそういった疑問は置いておいて、魔法の基礎知識を頭の中で反芻する。


「魔法の威力は込める魔力で変わる……か」


つまりさっき使ったウォーターが災害級の威力だったのは、魔力の込めすぎだった訳だ。

特に意識してはいなかったが、魔法は何も考えずに使うと威力全開で発動してしまうっぽいな。


俺は試しに、今度は魔力を絞るイメージでウォーターを使ってみた。


水が勢いよく飛び出す。

だがさっきまでの津波とは違い、今度はちょっとした鉄砲水レベルで済んだ。

それでもこの勢いでは流石に飲むのは厳しい。


俺は魔力の調整を何度も行い、ウォーターの威力を調節していく。


「ぷはー、生き返る!」


手から飛び出す水を口で受け、喉を潤す。

幾度も繰り返す事で、完璧なる魔力の調整を得た俺の心は充足感に包まれた。


困難を乗り越え、一つ成長した気分だ。

まあ困難と言うのは流石に大げさだが、それでも自分の成長を実感できるのは楽しいものだ。


ってあれ?

何か大事な事を忘れてる気がする?


「……はっ!?ウォーターの調整で忘れてたけど、ここは何処だー!!」


こうして俺は振り出しに戻るのだった。

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